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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

サブウェイ123 激突

2009-09-09 21:19:24 | 映画(さ)
評価点:63点/2009年/アメリカ

監督:トニー・スコット

二人の激突を妨げる要因が多すぎる。

地下鉄管制室は、慌ただしい雰囲気に包まれていた。
そんな昼間、ペラム駅発の地下鉄が信号機が青なのに停車した。
不審に思ったウォルター・ガーバー(デンゼル・ワシントン)は必死に呼びかけるが応答はない。
しばらくして管制室に無線が入り、車両を乗っ取った、一時間以内に1万ドルを用意しろ、とトレインジャックの犯行だと判明する。
ライダー(ジョン・トラボルタ)と名乗る男はガーバーを交渉人に指名した。
戸惑うガーバーだったが、交渉人としてテロリストと対峙することになる。

トニー・スコット監督で、デンゼル・ワシントン、ジョン・トラボルタというキャスティングに期待を抱かない人はいないだろう。
これほどの安全パイで、しかもリメイクとなれば、もはや失敗は許されない。
地下鉄という密室劇ならなおさら僕の心をくすぐるというものだ。
多くの観客はオリジナルを知らないだろう。
僕ももちろん、知らなかった。
70年前の作品ということで、新作映画として楽しめるはずだ。

時間の関係上、公開日に観ることになったわけだが、さてさて結果はどうだろう。
秋の目玉映画の一つだけに、期待は高まるわけだが……。

▼以下はネタバレあり▼

インターネットなどのアイテムを駆使したり、ワンセグで中継を観たりという現代的な要素を盛り込んだので、古くささは全く感じない。
リメイクという印象は、事実を知らなければ感じないだろう。
それくらい、現代的にアレンジされている。
元ネタを知らないので、なんとも説明できないが、ともかく、単体として楽しめるレベルにはなっている。

だが、僕はあまり乗れなかった。
もっとおもしろいはずだと期待したからかも知れない。
それとも二本立ての一本目の「96時間」があまりにも衝撃的だったため、こちらは凡作に見えたのかも知れない。
とにかく、いまいちおもしろいとは思えなかった。
いったいどこに原因があるのだろう。

展開はすばらしい。
「24」を彷彿とさせるスピーディーな展開で、緊迫感がある。
1万ドルという大金を一時間で用意させるという要求も非常に的を射ていた。
長くなればなるほど大金を用意できても、警察側の対応もしやすくなる。
一時間しかないとなると、どうしても対応は拙速に走ることになる。
そうなると、考える暇もなく十分な大作もできないまま、要求をのまざるを得なくなる。

そして、その1万ドルというあまりにも安すぎる要求は、実は金取引の暴騰をもくろんでのものだった、ということも説得力がある。
刑務所上がりのトラボルタがなぜあそこまで悪人になれたのか、全く明かしてくれなかったが、それでも彼のキャラクターは揺るがない強さがある。
まさに飛んでるとしか表現のしようのない彼の言動は、それまでは常識人、勝ち組だったことで、逆に怖さを演出する。
この辺りは、円熟といったまとまりを感じる。

対するデンゼル・ワシントンもやはり安定感がある。
少年を救うために、自分の不正を告白してしまう彼は、人を救うというとんでもないことに放り込まれる。
彼のこれまでの正直さと不運さをあのシークエンスだけで感じさせる展開は、「24」の制作陣も真っ青だ。
一つの事件で、二人が真剣にぶつかり合う姿が緊迫感が漂うのは、彼らが今まで生きてきた全てをここでぶつけようとしているという点にある。
全く安全な場所にいるはずのガーバーが、ここまで追い詰められた感を受けるのは、彼が身代金を受け渡すことになったからではない。
彼の人生が丸裸になってしまったからに他ならない。
その意味で、このよどみない展開は全くもってすばらしい。

だが、乗れない。
なぜなら、彼らの緊迫したムードに水を差すシーンが数多く見受けられるからだ。
それはリアルさと紙一重かも知れないが、少なくとも僕には蛇足にしか感じられなかった。

まず、脇役のキャラが弱すぎるという点。
たとえば狙撃手の誤射。
ネズミがズボンに入ったからといって誤って引き金を引く、なんていうのは、ほとんど懲戒免職もんの不祥事だ。
市長の不倫なんかよりも、もっと罪深い。
なぜなら、市長の不倫は単なるスキャンダルだが、狙撃手のミスは、仕事上のミスであり、下手をすれば業務上過失致死罪に問われかねない。
しかも、スナイパーならそれくらいの訓練を受けているはずである。
ガーバーが類い希なる職人ぶりを発揮するのに、その落差は大きい。

同じように、現金輸送するパトカーが事故を起こしてしまう。
これも同様にちょっと考えがたい。
そんなところでサスペンテッドな状況を作ってほしいことを望んでいるわけではない。
余計なことに気をそぐのはどうかと思う。
まるで「バイオハザード」のAIのようだ。(わかりにくい喩えだけど)
職人が周りを固めている、という世界観で物語を演出した方がおもしろかったに違いない。

カモネッティ警部(ジョン・タトゥーロ)に至ってはキャラクターに一貫性がない。
当初すっごく嫌な刑事として登場し、その後やたらとガーバーにこびてくる刑事となる。
宙ぶらりんなキャラクターで、ガーバーに交渉術を教え始めた頃には、二年くらい経ったのかと錯覚さえ覚える。
出てきた直後にガーバーに罪をなすりつけようとした彼はどこにいったのだろう。
二時間足らずの物語の中で彼のキャラクターは麻生さんばりにぶれている。

脇役で唯一好感が持てるのは市長だけだ。
市長の悪徳ぶり、そして開き直った態度には、妙なリアリティと好感が持てる。
彼が犯人の素性が金融関係の証券マンだと見抜いた功績が、結局何処へも生かされることがないのは残念だ。
ガーバーの賄賂問題をもみ消すと宣言した市長は頼もしいけれど、どこか怖い。

ともかく、もっとうまく撮れただろうという気がしてならない。
ニューヨークのMTAまで協力してくれたのだから、さらに工夫してほしかった。

それにしても、ここまで悪役の似合う俳優はトラボルタくらいだろう。
人質に「ヘアスプレー」のトラボルタが居たら、と思うだけで、事件が急に笑えてしまうから不思議だ。

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