secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ヴィジット(V)

2016-05-18 15:36:02 | 映画(あ)

評価点:71点/2015年/アメリカ/94分

監督:M・ナイト・シャマラン

シャマランが描く「ホラー」が存分に表現されている。

母(キャスリン・ハーン)は若い頃両親の反対を押し切り駆け落ちした。
その後二人の子どもをもうけた二人だったが、父親は浮気して失踪する。
残された母子三人は母の祖父母とは疎遠になっていた。
そんなとき、祖父母から1週間孫を預かりたいという申し出が来る。
姉と弟はあることを胸に抱きながら、その様子を記録動画として収める試みをはじめる。

何かと不発続きのシャマランが原点とも言えるホラーを撮った。
ファンタジーやらなんやら、紆余曲折ありながらも、結局ここに帰ってきたようだ。

ポイント・オブ・ヴューと呼ばれる手法で、すべては姉弟が撮った映像によって構成されている。
特に違和感はないだろうが、なかなか見にくいことは変わりない。
レンタルで見たが、これが映画館だったならずいぶん違う印象を受けたことは間違いない。

好き嫌いが分かれる作品だろうが、私は好きな方だ。

▼以下はネタバレあり▼

説明しにくいので、さきに事件の全容を確認しておこう。
祖父母はカウンセラーとして働き始め、病院に行くこともあった。
その病院で知り合った殺人鬼の夫婦に先週土曜までに殺された。
だから来るはずだった土曜の往診に現れなかったのだ。
おそらく疎遠になっていた孫が遊びに来るという内容をその殺人鬼たちは聞きつけたのだろう。
祖父母になりすまし、仮想の惑星に送ろう(殺そう)とする。

全く会ったことがなかった姉弟は、祖父母本人であること疑いもしなかった。
顔が割れるとまずいので、殺人鬼はわざとカメラを壊し、インターネットの接続も制限していた。
(ネットの環境については意図してのことなのかわからないが)
たっぷりと金曜の晩まで二人とのやりとりを楽しんだ後、殺そうと考えていたのだろう。

二人の様子はあきらかに不自然だった。
母との昔を語りたがらないし、他の来客が来たとき、必ず家にいない。
農家のはずなのに、農業をしている姿があまりない。
祖母は日没症候群という認知症をわずらっており、祖父は夜尿を隠している。
伏線はふんだんにある。
だから真相に気づいた人が多かっただろう。

特に病院から来る人たちが「病院でちょっとした騒ぎになっている」という台詞はかなり確信をつく。
シャマランの映画に耐性がある人なら、ぴんと来たはずだ。
だから、無理な真相というふうには感じられない。

だが、上手くミスリードもされている。
この話が、すべて孫たちが撮った映像によって成り立っているということ。
かなりの部分が抜け落ちており、その抜け落ちた部分を想像させることで、ミスリードしていく。

母と祖父母との関係が悪かったことや、母が家出をしたときのトラウマなど、人は語りたくないことを語ろうとしない。
そして、なによりこれがカメラを向けられた映像であるということが最も重要な手法になっている。
嫌なことをカメラを回された状況で語ることはだれもしない。
だから、祖父母の行動がぶっきらぼうに見えるのはしかたがないことなのかと思わせる。

だが、何を言ってもうまいのは、二人の姉弟にきちんとした課題が設定されているということだ。
また、二人は何もこの1週間のバカンスを楽しみにやってきたわけではないということだ。
その課題をもった旅(帰郷)という点がこの物語の真相をぼやかしてしまう。
実に上手い手法だ。

姉のベッカは自分の顔を鏡でみることができない。
自分の顔には、父親の面影があるからだ。
父親を肯定できない彼女は、母親とその両親が和解することで自分の存在を同時に肯定したいと思っている。

弟のタイラーも似たような状況にある。
カメラの前で語る父親との思い出は、「あのときタックルには入れなかったから僕を見捨てたんだ」という思いだ。
そんなわけがあるはずがない。
そのことを分かっていても、幼い彼はそう思い込んでいる。
そうでもしなければ、理由がわからないからだ。
あのタックルにいけなかった自分を責めることで、自分自身を捨てた父親をなんとか認めようとしている。
もし、そんな理由もないとしたら、それは自分が愛されていないことを示すことに他ならないからだ。
その脅迫は潔癖症となって表れている。
なんども手を洗わないと気が済まないという強迫性障害は、まさに思春期になった彼を直撃している。

すべては万能薬さえあれば、解決するだろうと二人は考えている。
知らない、きっと退屈するに決まっている、祖父母のもとでの一週間をそれでもなんとか積極的に向かうのは、彼らなりの抵抗であり、問題解決方法なのだ。

こうしたことを追うことで、ホラーの真相が見えにくくなっている。
いや、むしろ、この話が「なんだそんなことか」というオチへの期待ではなく、姉弟の課題の解決に物語の主題を落とし込んでいく。
だから、オチが分かっても面白いし、緊迫感は途絶えない。
ホラーをモチーフにしながら、それでも単なるホラーに終わらない、シャマランの真骨頂である。

それにしても強烈な老夫婦だった。
ホラーを通り越すと笑えてくるが、ポイント・オブ・ヴューの視点もあいまって、一線は保っていたように思う。

なんでオーブンレンジのドアを閉めるかな、おばあちゃん。

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