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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

28週後…

2010-01-18 21:54:06 | 映画(な)
評価点:83点/2007年/アメリカ

監督・脚本:ファン・カルロス・フレスナディージョ

生き残った人間は「正しい」のか。

血液、唾液から感染するRAGEウイルスが発生して28日後には、ロンドンは壊滅状態に陥り、イギリス本土は閉鎖された。
発生後20週が経過した頃に、ようやく事態が収束し始め、アメリカ軍による復興支援が始まり、イギリスへの移住が始まった。
28週後、はじめて子どもが移住者として復興した街を訪れた。
待っていたのは街の統括・管理している父親のドン(ロバート・カーライル)だった。
ドンは、子どもらの母をやむなく見捨ててしまったことを話す。
タミー(イモージェン・プーツ)とアンディ(マッキントッシュ・マグルトン)は母親の思い出を探すために、
安全地帯外の自分の自宅へ向かおうとするが……。

ハリウッド超大作、でもないのに、話題になり観客動員数を伸ばしたという、「28日後…」。
ハリウッド映画のように仰々しくなく、¥しっかりとした作りという印象をもったのを思い出す。
あの衝撃から五年が経ち、続編が発表された。
これはもう見に行くしかない! ということで、観に行ってきた。

完成度は高く、普段ホラーを見ないという人も是非見に行ってほしい。
多少のご都合主義はあるにしても、定価分を払う価値は十分にあるだろう。

完全なる続編なので、今から観に行こうとする人は、前作をみてから行った方がよい。
見なくても十分楽しめるようなつくりではあるが、やはり物語設定を知っておく方が楽しめる。
 
▼以下はネタバレあり▼

イギリスのゾンビ映画「28日後…」の続編にあたる。
タイトル通りウイルス発生から28週後の世界を描いている。
ホラー映画で、世界観を共通させてここまで同じコンセプトで撮ったのはすごいことだろう。
前作と同じように本作も社会的な視点を無視して読むことはできない。
アイ・アム・レジェンド」のために余計にそう読まされてしまうのは仕方がないことかもしれない。

ストーリーにも書いたが閉鎖されたイギリスは復興が進んでいる。
飢えで感染者は餓死してしまったからだ。
その様子はさながらアフガン復興に来ているアメリカ軍を彷彿とさせる。
街に案内するガイドの話が印象的だ。

「街にはスーパーもパブもある。」
「ただし区画から出てはいけない。」

この「自由」は「freedom」ではない。
アメリカ軍というエゴイスティックな砦に守られた「liberty」なのである。
彼らは危険かもしれない街の中に孤独なステーションを築いたにすぎないのだ。

やがてその安全も崩れ去る。
安全が崩壊すれば瞬く間に混乱に陥る。
感染者だけを殺せばいいはずがパニクった民衆は感染者と見分けがつかない。
両者ともに殺すしかないのだ。
イラク戦争とどうしてもダブるのは制作者の意図だろう。
テロリストを抑えるためには民衆まで皆殺しにしなければならないのだ。
しかしそこに結局生き残るのはアメリカ軍だ。
守るべき民衆がいないのに砦だけがのこる。
本末転倒で自己矛盾。痛烈な皮肉がここにある。

そうした社会的なコードだけがこの映画を支えているのではない。
本作は個としてのドラマも秀逸だ。
その点が前作よりもパワーアップしている点だといえる。
ドンを中心とした家族の物語である。
物語の中盤あたりで、ドンが感染してしまうあたりから、親子の物語は「父親殺し」の物語であることに気づくだろう。

生きるために妻(母)を見捨てた夫(父)は、逆に感染してしまい、砦を内部から壊す側へと回ってしまう。
母親のアリスは、RAGEウイルスに対して免疫を持っている。
その血を直接受け継ぐ子どもたちも
免疫を持っていることが物語の終盤で明らかになる。
どこまで遺伝するかどうかは劇中だけでは判断できないにしても、少なくとも母子は免疫を持っている。
しかし、父親が免疫を持っているかどうかはまた別の問題だ。
母と父との関係に直接的な血縁関係はない。
よって、父親は家族の中で唯一免疫を持たない人物である。

そして、家族の中で唯一、生きるために家族(妻)を見捨てた人物でもある。
父親が砦を壊し、子どもたちがその父親を殺すことが、この映画のもう一つのドラマである。
それは世代交代のドラマでもあり、愛するが故に殺すという愛憎のドラマでもある。
当然、父親殺しの物語であるので、子どもたちが父親を克服=成長するという
記号もみえてくるだろう。
ラスト、執拗に父親が出てきて子どもらを襲うが、それはもしかしたら父親からの最後の「教育」だったのかもしれない。
あるいは最後の親心だったのかもしれない。

まあ、いきなり狂った親父ができてたら愛情とは思えないだろうけれど。

この映画を見ていて、すごくすがすがしい気分になったのは僕だけだろうか。
いや、僕が根っからの「S」だからではない。
ホラー映画でありながら、嫌悪感をもつことがあまりない。
残酷描写はほんとうに残酷だけれど、「SAW」なんかに比べて、格段に見やすい。
あるいは、「アイ・アム・レジェンド」のダークシーカーなどを見ているよりは、気持ち悪いとは感じなかったはずだ。
気持ち悪い映像を見せながらも、どこかさっぱりとした印象を受ける。

端的にいえば、理不尽さを感じないのだ。
ホラーは、映像的な恐怖(グロさ)と、見えない、得体が知れないという恐怖、
それに、理不尽である、という恐怖がある。
サイレント・ヒル」なんかが、その理不尽さを追求したものだろう。
誰がなぜ死ぬかわからないという点では「SAW」もその系統だ。
人は理不尽であると、次の展開が予測できずに不安になる。
死んでほしくない人物が死んでしまったり、生き残るだろうと予想していた人物までも殺されたりすると、すごく不安になり、「この映画はなんでもありなのか」と畏怖する。

だが、この映画にはその理不尽さはそれほどない。
理不尽な展開もあるが、それにはすべて別の理(ことわり)がある。
そのために、ホラーでありながら、ドラマとしてもおもしろいし、展開に無理を感じない。(感じる部分もありますけど)
その「別の理」とは、「正しいことをすると必ず死ぬ」ということだ。

冒頭の籠城していた小屋が襲撃されるシーン。
アリスは、子どもたちのことが気になるので、逃げてきた子どものために、閉じられた小屋を開けてしまう。
この妻の行動は絶対的に「正しい」。
子どものことを愛しているが故に、他人の子どもも同じように救いたい。
生きている子どもが目の前にいて、見殺しにするのは、間違っている。
だが、それが原因で小屋は襲撃されてしまうのだ。

子どもたちにしても、母親の写真を取りに行こうとするその行動は「正しい」。
だが、それをきっかけとして、復興していた街が崩壊してしまうのだ。

夫が妻の生存を知り、裏切った贖罪と、愛情を確認するために、キスする。
しかし、そのために唾液からウイルスに感染し、ホストになってしまい、挙げ句の果てには自分の子どもたちに殺されてしまう。

兵士であるドイル(ジェレミー・レナー、「SWAT」)にしても同じだ。
照準に子どもが見えて、それを撃てなかった。
その感情は「正しい」。
だが、子どもを殺さなかったことによって、結果的に自分が殺されてしまうことになる。

非情な理だが、ここには明確に一般的に「正しい」とされている行動をとると、必ず破滅するというルールが映画内に明確に存在する。
だから、正論を掲げたものは、死ぬのだ。
逆に妻を生きるために見殺しにしようとしたドンは死なない。
街の崩壊は、正しいことを貫こうとした結果であるともいえるのだ。
もっと野性的に、まさにRAGEウイルスに冒された人間のように、残酷に切り捨て、残酷にサバイバルすることこそが、生き残る唯一の方法だと教えているようだ。

ここには鋭い皮肉がある。
人間性を持っている人間、健康な人間がこの世界で生き残るためには、
人間性を失った人間、RAGEウイルスに冒された人間がしているように、冷酷きわまりない正しくない行動をとらなければならない、ということだ。

もちろん、この映画が倫理や道徳を無視して生きることが「正しい」ことだとメッセージを送りたいわけではないだろう。
これも社会的な風刺に違いない。
それは資本主義の末期症状ともいえる、閉塞感を具現化したかったのではないだろうか。
理性を備える人間=資本主義者たちは、実は非情な判断を下しながら、今の地位を確保しているのだという矛盾を訴えているように思う。
ウイルスがパリのエッフェル塔をバックに蔓延している様子は、テロリズムが全世界的に広がっていく様子であるとともに、まさに帝国主義的な発想で、猛威をふるうアメリカ的資本主義のように見えて仕方がない。
RAGEウイルス感染者は、アメリカがおそれるテロリストなのか、アメリカ国民そのものなのか、判断できない。

それでも僕たちはRAGEウイルスに冒されて生きるよりも、狂気の中で「正しさ」をねじ曲げてでも、人間としていきたいと思う。
このあたりが、劇中に流れる本当の「かなしみ」なのかもしれない。

この映画には強く、明確で、一貫性あるテーマがある。
だからこそ、ホラーでありながら、不自然な、理不尽な怖さを感じないのだ。

また、本作の隠れた主役は音楽だと思う。
耳に残るメロディは、絶望感を漂わせながら、なぜだか暗くならない。
サントラがちょっと気になる。
 
(2008/2/3執筆)

探したけれど、サントラはないみたいだった。
う~ん、余計な映画のサントラはあるのに…。

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