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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

「エヴァンゲリオン」の衝撃

2023-07-25 19:27:23 | 表現を考える
もしかしたら、どこかのブロガーか誰かが似たようなことを言っているかもしれないが、そういう言説があるかどうかを探すのも億劫なので、最近思いついたことをつらつらと、誰のためにでもなく書いてみようと思う。
いまさら、エヴァンゲリオンについてだ。
とりあえず、テレビ版やコミック版は横に置いておいて、いわゆる新劇場版について、その対象とすることにする。
どちらでも大して変わらないかもしれないが、考える上では対象を、とりあえずは絞った方が良いだろう。

私がふと思ったのは、「○○インパクト」とは一体何だったのか、ということだ。
新型コロナの「第○波」というニュースが出るたびに、「きたきた、ニアサードだ!」とか周りに言いふらしては、苦笑されていたので、第9波になったかもしれないと言われると、そういや、「ファースト」から「ファイナル」まで、あれはどういうことだったのかな、と考え始めたわけだ。

もちろん、使命感などはない、ただの思考実験のようなものだ。
そうすると、案外、いやほとんど十全に説明が付くのではないかと考えるに至った。
そしてその観点で説明すると、あの一連の物語は、碇シンジの壮大なプロフィールビデオだったのではないかと思えてきた。

「ファーストインパクト」とは、シンジが生まれた瞬間のことだ。
それは人類創世と言ってもかまわない。
人間が生まれた瞬間より以前がどのようなものであるかは、その個人にとって、ほとんど無意味だから。
そして、まもなく、「セカンドインパクト」が起こる。
これは、初号機の暴走という説明になっているが、何のことはない、母親ユイの死である。
セカンドインパクトが起こったから、母親が死んだのではない。
母親の死そのものが、シンジにとってセカンドインパクトだったのだ。

母親が死んで以降、彼は極度に心を閉ざすようになる。
人の言いなりになって、生きることを選び、父親との確執も大きくなる。
しかし、人との交流が起こることで、劇的な出来事がシンジに訪れる。
それは、アスカが傷つけられたことではない。
アスカが試作機に乗り、暴走したことで傷つけられる。
その時感じた憤怒は、あくまで友情に対してだ。

その後起こるニアサードインパクトは、言うなればシンジの初恋なのだ。
だから何を捨てても良いと思って、彼はレイを救い出そうとする。
しかし、レイは作り物であり、ユイつまり母親の面影を残す、幻想だった。
レイという女性を初めて愛したと思っていたが、実はそれは母親の幻想であり、恋そのものではなかったのだ。
だから「ニア」であり、シンジを取り巻く世界は瓦解する。

14年間閉じ込められて姿形が変わらなかったのは、シンジ自身が大人になれなかった期間なのだ。
新しい恋をすることもできない、しかし、頼りにしていた恋も幻想だった。
挙げ句の果てに、友達=渚カヲルとともに世界を作り替えようとする。
しかし、「誰か」と一緒に何かを成し遂げることなどできない。
それは、他者依存であり、かつ、すべてをすっかりやり直す方法など、この世界にはあり得ないのだから。

絶望の淵で頼りになったのは、やはりアヤナミレイだった。
彼はずっと母親と初恋の女の子を追い求める。
周りはずっと彼の心をノックし続け、現実に返ってくるように、そしてエヴァから降りること(親に庇護から脱出すること)を求める。
そして、ついに彼は「ファイナルインパクト」を起こすのだ。
周りのすべてを解放する=自分の中の他者を許すことで、自立を手に入れる。
それは、マリとの結婚である。

ファイナルとはすなわち最後の恋を表しており、シンジはやっと自分のアイデンティティの安定としての恋愛を成就させるのだ。
エヴァンゲリオンの適格者は、だからシンジ以外には女性しかいない。
エヴァンゲリオンとは、究極の「嫁選び」の物語だったのだ。

綾波、式波、真希波とすべて「波」がつけられているのも、寄せては返していく恋をイメージさせる。
少なくとも、彼女たちは共通した記号を与えられていることは間違いないだろう。
それは、シンジ自身の恋愛対象としての「適格者」である。

だから、この映画のシリーズは、シンジのプロフィールビデオである、ということができるわけだ。
この映画に人々(主として私)が惹かれるのは、一個の人間が描かれているからなのだろう。
もちろん、その人生は特殊であり、極端であり、マイノリティなのかもしれない。
けれども、そこに究極の個があるからこそ、究極の普遍性(多くの人の共感を呼ぶ)があるとも言える。

どこかで誰かが言っていたら、すみません。

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