secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ローグ・アサシン

2009-11-29 13:36:26 | 映画(ら)
評価点:44点/2007年/アメリカ

監督:フィリップ・G・アトウェル

腹が立つというより惜しい。

ジョン・クロフォード(ジェイソン・ステイサム)とトムは、伝説の殺し屋「ローグ」を埠頭まで追い詰めた。
ローグはこれまでさまざまな暗殺事件にかかわってきた、大物の殺し屋だった。
しかし、素性は知れず、伝説になり、うわさだけが一人歩きしていた。
ついに追い詰めたと思ったトムはローグの顔面を撃ち、撃退する。
三日後、家族と過ごすトムの前にローグが現れ、一家とともに惨殺されてしまう。
三年後、日本のヤクザが支配する一角で、ローグの犯行と思われる殺人事件が起こり、クロフォードは、トムの仇を討つために、捜査をはじめる。

「SPIRIT」を撮ってから「マーシャルアーツは封印する」と宣言して初めてのジェット・リーの映画。
マーシャルアーツを封印した胸中は察するが、やはり彼の魅力はマーシャルアーツのような気もする。
とにかく、ハリウッドでの扱いが気に食わなかったのだろう、今回の映画はマーシャルアーツはほとんど出てこない。
いわゆる彼の映画を期待して見に行くと、金を返せといいたくなるだろう。

いや、少しでも面白い映画だと期待して観にいくと痛い目に遭うかもしれない。
時間の無駄だとは言わないが、あまり面白い映画ではないことは、断っておく。
 
▼以下はネタバレあり▼

「トランスポーター」シリーズなど、最近めきめきとアクション映画の新スターとしての地位を確立しつつあるジェイソン。
一方、ジェット・リーは「最近の俺の映画、なんか無口でまじめで演技というより
アクションばっかりじゃない?
映画俳優としてこのままやっていったら、『まじめなジャッキー』程度の扱いしか受けないんじゃないの?」と危機感を覚え始めた俳優である。
上り調子のジェイソンと、下り坂で暗中模索のリーともいえるかもしれない。

とにかく東西のアクションスターの共演がこの映画の魅力であり、一番の宣伝ポイントだといえる。
だが、本当にこの映画が面白いのは、ドラマとしてのオチだ。
それをあえて隠したのか、そこまであまり考えずにCMを作ったのか、いまいちはっきりしないが、オチを宣伝的にも、映画的にも活かしきれなかったのが、この映画の最大の汚点でもある。

この映画をなんとなく観ていた僕にとって、前半(というかオチが明かされる手前)は突っ込みどころ満載の映画だ。
使い古された無理な日本描写や、感情移入できないキャラクターに、聞き取れないジェイソンの日本語に、本当に悪いのかどうかわからないマフィアとヤクザたち。
ほとんど面白い点を探すことができないくらい「カオス」な状態の映画である。

とくにひどいのはキャラクターだ。
二人の主人公を用意しておきながら、二人ともに感情移入できない。
(これはある意味伏線だったともいえる)
ローグは素性を隠しているということが丸わかりであるが、それにしては彼のウェイトが大きすぎる。
上映時間の半分くらいは彼が視点になって物語が展開される。
そのため、クロフォードの視点で物語を体験すればいいのか、彼の視点で体験すればいいのか、不明確になる。
ローグのウェイトが大きいのはその後のオチに関係しているのだろうとは、読むことができるが、どこまで展開しても彼の素性を明らかにするような
手がかりさえ与えられないから、観ていてもつらいのだ。
後になれば、伏線を張っていたことに気づかされるが、本当に些細な伏線なので、読めない。

ミスディレクション型のオチを用意するなら、やはり間違ったオチへのミスリードが欠かせなかった。
それがないから観客はストレスを溜めながら観る事になる。

かといって、クロフォードにもなぞが用意されている。
一見「ダイ・ハード」のマクレーンのような雰囲気で、それを監督が目指しているのかと思わせる一方、彼の核が見えてこない。
そのために、彼にも完全に感情移入するようには展開できない。
断片的にしか描ききれないのだ。
両者のやり取りは一見ライバル同士の戦いに見えて、非常にもどかしい展開でしか描ききれていない。

そして衝撃のオチが最後の最後で明かされる。
三年前の襲撃により妻子を失ったトムがローグとなって、「潜入捜査」をしていたのだ。
その真相は、クロフォードがトムを売ったというものだった。
つまり、彼らは善悪という対照的な二人だったのが、それが反転してしまうのだ。
だから、それまでの展開では、善悪ともにどっちつかずなキャラにしか描けなかったのだ。
二人ともに感情移入できなかったのは、そのためだ。

それまでの伏線がなかったわけではない。
タバコを嫌うローグや、妻子を殺すことを拒否したり、理不尽なくらいマフィアとヤクザを戦わせたり。
クロフォードのほうも、ローグを追うその姿勢は強烈なものがある。
だが、それらのどれもが、真相へ向かう方向性としては弱く、そして断片的だ。
だから先読みできない状態でいきなり真相を暴露されてしまうため、唐突な印象を受け、なおかつ「やられた」感はほとんどない。
準備もしていないのに、真相を明かされても、真相への驚きは小さい。
「そんなオチ(映画)だったんですか」という驚きしかないのだ。

すべてはそれまでの展開があまりにもお粗末だからだ。
二人のキャラクター、白黒をひっくり返したいのなら、二人ともに、感情移入できるポイントを用意しておくべきだった。
ローグなら「誰にも属さない孤独な殺し屋」という点だけでもいい。
クロフォードならもっと異常なくらいローグに復讐心を持っているように、見せていればいい。

それでいて、彼らの裏側を描写するところを徐々に用意する。
最初は高級車を乗り回すローグがだんだんとそうではない一面を見せ、最初は復讐心を描くだけだったのに、次第に悪い面(チンピラと癒着する姿など)を見せるクロフォードなど、両者の善悪を転換させるための伏線を次第に主線にしていくのだ。

そこで両者の善悪がコペルニクス的転回を見せれば、「やられた」感も増大するというものだ。
もちろん、観客には違う真相を主線っぽく導くミスリードも忘れてはならない。
(たとえばローグがチャンの奥さんに恋しているように見せておき、それがローグの変化の理由だと思わせるとか)

そのあたりの計算があまりにもない。
オチまでのっぺらぼうで、展開が平坦だ。
だから、オチが「ローグとは何者か」という疑問を持たせないままに、答えが出されてしまう。
これではせっかくの脚本が台無しだ。

むかつくとか、腹立たしいとかいうようりも、残念で、口惜しい感じだ。
もっといえば、悔しい。
ここまでいい脚本に出会いながら、ここまで監督がスポイルしてしまうなんて。
監督の器量が本当に全然ない。
頼むから、キャスティング、スタッフともに同じでいいから、俺にリメイクさせてくれ、と言いたい。

(2007/10/8執筆)

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2 コメント

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Unknown (名無し)
2013-08-04 00:51:46
まさにその通り、の一言です。細かい文句まで自分が思っていたのと同じで変に感動しました。
この映画を見たばかりなのですが、あまりに理解できなくて開いた口がふさがらない状態でした。
キャストが大好きな2人だったし、期待して見ていたのに残念でした。ジェイソンの日本語には私はちょっときゅんとしました(笑)
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夏風邪気味です。 (menfith)
2013-08-09 19:44:42
管理人のmenfithです。
ここにきて、出張が続いて少々体調を崩しています。
のどが痛いのが、三週間くらい続いています。

>名無しさん
返信遅くなりました。
コメントありがとうございます。

私のほうは、ずいぶん前に観たので、かなり記憶が曖昧ですが……。
ジェット・リー好きなので、もっとアクション映画に出てほしいのですけれど。
年なのかもしれません。

今後も宜しくお願いします。

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