secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

パリより愛をこめて(V)

2010-11-07 16:55:23 | 映画(は)
評価点:58点/2010年/フランス

監督:ピエール・モレル

トラヴォルタが孤軍奮闘。

大使館で勤めるジェームズ(ジョナサン・リース・マイヤーズ)は、もう一つの顔があった。
それは国防のエージェントとしての顔で、ようやくメンバーとして仕事をしはじめることになった。
いきなりの仕事で恋人との別れを惜しみながら指示された空港に向かうと、スキンヘッドのワックス(ジョン・トラヴォルタ)がいた。
はちゃめちゃなワックスのやりかたにジェームズは戸惑うばかりだった。

ピエール・モレルは「96時間」の監督で、制作はリュック・ベッソンである。
主人公には「マッチポイント」のジョナサン・リース・マイヤーズ、そして相棒には我らがヒーロー、トラヴォルタである。
トラヴォルタの微妙な映画出演チョイスは、もう職人芸の域に達している。
またリュック・ベッソンの当たり外れの大きさは、映画業界でも屈指だ。
そういう彼らがどのような映画をみせるのか。

大外れか、大当たりか。
もしくは、煮ても焼いても食えない凡作か。

公開当時に見にいくつもりだったが、予定が合わず断念。
映画館と、テレビ画面では全然迫力が違うので、僕の文章は映画館で鑑賞した人にはちょっと的外れかも。
準新作で借りたので、旧作になったら、ぜひどうぞ。
わかりやすいアクションが好きなら、とりあえ大きくず外れないだろう。

▼以下はネタバレあり▼

例によってフランスが舞台の作品である。
フランスと言えば、犯罪の温床である印象がどうしてもぬぐえない。
この作品でも、フランスのダークな部分がふんだんに描かれている。
麻薬、移民、テロ。
いつかはフランスに旅行に行きたいと思っている僕の心をどんどんそいでくれる。
まさにフランスを愛するリュック・ベッソンの真骨頂と言えそうだ。

ジェームズ、エージェント、アクションといえば、真っ先に思い出すのが「007」だろう。
この映画はフランスが舞台でありながら、その対岸に浮かぶ権威の国、イギリスを意識していることは言うまでもない。
意識しすぎて、「007」の逆を行こうとしているところが、リュック・ベッソンなのだ。
だから、おしゃれな街、パリ(ですよね?)とは思えないほど残虐なアクションが繰り返される。
裏社会をたっぷり描いているのも、そのためだろう。
見るからにスマートな敵は出てこない。
作戦を立てて、エレガントに敵を倒していくなんていう発想はない。
むしろ、どんどん殺していって、どんどん悪をつぶしていく。
そのキャラクター性をみせるために、トラヴォルタはスキンヘッドを志願したくらいだ。
彼の勧善懲悪の徹底ぶりは、見ていてすがすがしいどころか、怖い。
よって、引き込まれていくジェームズは、何が正しいのか見えなくなっていくという展開になる。

こういう転倒は非常にスリリングでおもしろい。
テーマも、ジェームズが一人のエージェント(殺し屋)になるまでの物語というきれいな展開になっている。
ラストで恋人を殺すことでやっと彼はエージェントとして認められるのだ。
悲しい物語である。

また、一つ一つのアクションが堂に入っている。
さすがに天下のトラヴォルタ。
仕事はきっちりこなしてくれる。
スローモーションによって、単純でありきたりな演出でも、十分に見応えのあるアクションをみせてくれる。
相手に一切の同情や躊躇をみせない行動力も、見ていて楽しい。
その意味でも、危惧された大外れはなさそうだ。

一方で、なぜかおもしろいとは思えないもう一人の僕がいる。
特に記憶に新しい「96時間」とは興奮の度合いが全然違う。
圧倒的に、「96時間」のほうがおもしろかった。
同じ監督、同じ制作、同じフランスを舞台にしていても、こちらのほうはそれほどおもしろいとは感じなかった。
なぜだろう。

一つは人物造形だ。
トラヴォルタのワックスは見ていて気持ちいいくらいのキャラだが、感情移入するはずのジェームズがあまりにもヘタレだ。
エージェントになりたいと思っていたわりには、びびりすぎだ。
ジェームズ・ボンドとの差異化をはかりたかったのだろう。
けれども、消極的なので、展開に水を差す。

そしていただけないのが、展開が進むほどに映画が小規模化していくということだ。
中華料理屋で派手などんぱちをしたり、麻薬組織を解体したり、中盤までの展開は裏の組織の大きさに期待がふくらんでいた。
にもかかわらず、終盤になるとけちな自爆テロ犯が黒幕ということになってしまう。
しかも、大使館でのテロは恋人一人の手によって自爆テロを計画するといういかにも「失敗しそうな」計画だ。
確かに、ジェームズにとっては課題を克服するため必要なラストだった。
けれども、達成しようとしている結果に対して、それまでの盗聴器をしかけたり、恋人を演じたりするプロセスのほうが明らかにハイリスクだ。

道路を逆走するテロリストの車を誰も止めに入る者がいないで、結局ぶつかる寸前まで、気づかないという有様。
ワックスがすごいというよりは、周りがへぼすぎるのではないかと疑ってしまう。
どこか、ちぐはぐな印象を受けてしまうのだ。

そもそも、彼らが置かれている組織の様相がみえてこない。
「007」と同じように、隠したのだろうが、ちょっと過剰に意識しすぎたのではないだろうか。
トラヴォルタが本当に正しいのか、不安なまま物語が展開するため、感情移入しにくい。
それが恋人の裏切りという伏線へつながっていくのは十分理解できるが、どうもすっきりしない。
「007」ならボンドガールと結ばれるはずが、そうではないところが意識されているのだろうけれども。

もっと巧く撮れたのではないか、と消化不良を感じてしまう、そんな映画だった。

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2 コメント

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私は映画館で (向かいのiPhone)
2010-11-07 23:22:45
私は映画館で鑑賞しました。昔からトラボルタが大好きなので。アクション大好きな私にとっては楽しめましたが、おっしゃる通り終盤につれて規模が小さくなっていくのは残念でしたね。

それにしても、リュック•ベッソンの映画は何故当たり外れが多いのでしょう?ハズレばっかりの監督なら見向きもしないのに、ベッソンだと聞くとついついきたいしてしまいます。
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奇才は凡人には分からない。 (menfith)
2010-11-09 23:05:07
管理人のmenfithです。
今日は急遽飲むことになりまして…。
少し酔いながらパソコンに向かっています。

>向かいのiPhoneさん
はじめまして。
書き込みありがとうございます。

僕もトラヴォルタは大好きです。
あの脚本の見る目のなさが、もうたまりません。

リュック・ベッソン、なかなかの才能を持っていますね。
ティム・バートンについても同じ事を思いますが、才能豊かな奇才は、何を生み出すのか分からないのでしょう。
ベッソンに関しては、「レオン」を生み出しただけで、彼の生きる意味はあったのだと確信しています。

「97時間」くらいを出してくれることを祈っていますが。(笑)
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