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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件」

2022-08-19 04:57:08 | 読書のススメ
1955年イギリス。
郊外にある閑静な住宅に住む名手サー・マグナス・パイ。
彼の屋敷に住むメイドさん? が密室状態で転倒し死亡した。
その数日前には息子に「死んでくれたらいいのに」と口論していた様子も目撃されている。
果たして彼女は事故で死んだのか、殺されたのか。
その息子のフィアンセが、探偵のピュントの元へ相談に来る。
しかし、事件性のない話にピュントは依頼を受けない。
そして数日後、今度はマグナス・パイが惨殺される。
ピュントは重い腰を上げて、事情を関係者から聞き出そうとしていくが……。

ずっと読みたかったホロヴィッツの作品。
ホーソーンシリーズは現在刊行されている2作品は読んでいるが、最も話題になったこちらのほうは読んでいなかった。
しばらく前に買い込んで、積ん読になっていたが、夏に少しでも読書をと考えて手に取った。

やはり上下巻というのはわかっていたが、どういうストーリーなのかということはほとんど知らずに読み始めた。
すごい作品だ、ということがわかっていれば手には取るはずなので、もしミステリ好きなら何も知らずに読み始めるのが良いだろう。
私はミステリとはもう長らく縁を切っているので、ほとんど読まない。
それでも彼の作品だけは読んでいるのは、単にミーハーだからだ。

予備知識無しで、上巻から下巻の衝撃を味わいたい。

▼以下はネタバレあり▼

冒頭に奇妙な点はあるものの、上巻を読み終わる頃には誰が犯人なのかという予想に追われていた。
といいながら、私はこの手の話は苦手なので、素直にだまされることにしている。
そして、いよいよ謎が明かされるという下巻を手に取ったところで、間違えた作品を買ったのかと困惑する。
おそらくその混乱は、予備知識を持たない多くの読者と共有できるところだろう。

ピュントの話は小説で、その結末部分だけが見つからないというメタ構造になっている。
1作品で二度おいしい、二つの事件を同時に考えていくという構造だ。
私はアガサ・クリスティもコナン・ドイルもほとんど読んでいないので、どれだけオマージュが隠されているかはわからない。
けれども、この構成が非常に画期的でメタ・フィクション的であることはわかった。

ホーソーン・シリーズも同様に、語り手が作家で、実際に起こった事件のような語りになっている。
驚かないといえばそうだが、まさかこういう構成で上下巻にしてしまうとは思わなかった。
ピュントの外側にある物語は、スーザンという編集者が、謎の変死を遂げた作家アラン・コーウェイの欠落した遺作の結末部を探す、という物語になっている。

リンクがあると思わせながら、けれども、謎としては別の事件(次元)を扱っているので、ミスリードになっている。
どちらの謎も「ああ、そういうことか」というわかりやすい謎になっている。
けれども、それが立て続けに起こる(実際には作品を読んでいるという入れ子型だが)ので、読者はひどくサスペンテッドな状態に追い込まれる。
殺人事件やミステリが横行する横行にあって、一つの禁じ手でもあるメタ・フィクションをかくも作品に盛り込むのは逆に難しい。
白々しい感じになり、読み手にとって物語が相対化されてしまうからだ。
それでも読ませてしまうのだから、たいしたものだ。

しかもシリーズ化されている。
ホーソーンシリーズの最新作を読むか、それとも上下巻の「ヨルガオ」を読むか。
難しい決断だ。


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