secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

シャッターアイランド

2010-04-18 21:31:57 | 映画(さ)
評価点:63点/2010年/アメリカ

監督:マーティン・スコセッシ

予告編のあおりがすさまじく、オチに対して素直に受け取れない。

戦争が終わって数年経ったアメリカ、一人の女性がシャッターアイランドと呼ばれる精神病患者が収容されている刑務所から突如として消えた。
その捜査を依頼されたのは捜査官のテディ・ダニエルズ(レオナルド・ディカプリオ)と、チャック(マーク・ファラロ)。
謎に満ちたその病棟では、謎の実験が行われているという話を聞いていたテディは、その真相を暴こうと密かに考えていた。
捜査になかなか協力してくれない院長にいらだちながらも、それでも一本のフェリーが嵐のために航行できない状態だった。
密室状態となった孤島で、テディは捜査を進めるが…。

ディカプリオ、スコセッシというコンビはもう四本目の作品だという。
僕は「アビエイター」も「ギャング・オブ・ニューヨーク」も観ていないので、二本目の鑑賞となる。
もちろんオスカー作品の「ディパーテッド」が残りの一つである。
予告編や前評判によって、この作品は無駄にハードルがあがり、僕は観るときにだまされまいとして緊張感を持って観ていた。
シックス・センス」以来の緊張感だったかもしれない。

結果どうだったかは観てもらうしかないが、何事も過剰な期待は禁物。
特に、吹き替え版でなければ謎を解きづらいという話も聞いたが、実際そうでもないような気がする。
見にいく価値がないわけではないので、おすすめしなくもないが、ネタバレされてしまうと全くおもしろくない種類の映画であることは間違いない。
いくならとっとと行ってしまうのが良いだろう。
「アリス」も控えていることだし、いける方は是非どうぞ。

ちなみに、この文章では今は「統合失調症」と言われるであろう症状に対して「精神病」と呼称している。
これは当時としてはこちらの方が正しいとされていただろうから、敢えてこの病名で書いている。
もしかしたら、これを読んで「誤解を招く表現だ」と考える方もおられるかもしれないが、当時の患者への偏見などを考慮しても「精神病」とするほうがかえって適切だろうと考える。
僕としては専門家でもないので、その当たりで勘弁してほしい。

▼以下はネタバレあり▼

字幕で有名な戸田奈津子が、この映画は吹き替えで観る方が謎を解きやすい、といったという話を聞いて、集中して観た。
これ以上ないほどの集中していたので、ラストまでほとんど飽きることなく見通すことができた。
もし、そういった前振りがなければそこまで集中することはなかっただろう。
過剰な期待をしてはいけないと思いつつ、それでも期待してしまう。
そのおかげで、個人的にはよかったのかもしれない。
多くの人は、逆効果を生んだことは間違いないだろうが。

予告で、すべてが異常なシャッターアイランドで、唯一まともな人間が捜査に赴くというのを観たときから、「まさかあのオチじゃないよね」と話し合っていた。
例の「M4」会では、共通の嫌な予感があった。
それは、「ディカプリオが実は精神異常っていうオチじゃないの?!」という予感である。
そしてまた「それだけはやめてほしいわ。そんなしょうもない誰でも思いつくオチはないやろ」と、マーティン・スコセッシを信じて観ることにした。
M4会では二本目の鑑賞である。

そして、結果が、「やっぱりそうやったんかい!!」
だが、四人の共通理解としては、「思っていたよりも悪くはなかった」ということだ。
オチが予告編で読めてしまうという全く期待はずれな結末であっても、そこにはちゃんとした物語があったので、そこまでは否定的な見解はでなかった。
(レイトショーで観て、そのまま朝方まで話していたんですけどね。ようやるわ、全く。)

ただ、映画として完成度が高いかと言われれば、やっぱりそんな評価を与えることはできそうもない。
好き嫌いでいえば、嫌いではない、だが、よくできた映画でもない。
評価点はそういう点数である。

オチは結局、シャッターアイランドで行われていたのは、ディカプリオに対して現実を受け入れさせるための大茶番劇だった、というものだ。
実際には、刑事の仕事で疲弊していたディカプリオは、妻を顧みることができず、妻は精神的に病んでいった。
彼女は住んでいたマンションに火をつけて何とか助かるが、それを契機に湖畔のある郊外へ引っ越す。
ある日十日間ほどの長い捜査を終えて帰ってくると、妻の様子がおかしい。
妻は、気を病んで三人の子どもたちを溺れさせて殺してしまっていた。
それを知ったディカプリオは、絶望し、妻の「楽にして」という言葉の通り、銃殺してしまう。
そして、シャッターアイランドに「入所」していたのだ。

何度も治療を試みても治る見込みがなかった彼の目を覚まさせるために、シャッターアイランドの連中が総出で彼の妄想につきあい、現実とのギャップを突きつけようとした。
なお、議論はあるかもしれないが、戦争に行ったというのは本当だと僕は考えている。
戦争に行って多くの命を奪った、というのは彼にとってトラウマになっていた。
その残酷さに蓋をしながら生きてきた彼にとって、妻を殺害するということは耐えられなかったことだった。
だからこそ、「狂って」しまったのだと考える。
このあたりはどちらでも解釈できるような気もするが、あえてそこを全部妄想とする根拠が見あたらない。
あれだけリアルな妄想(戦争で将校が死ぬ姿を眺め、ナチの残党を銃殺する)を抱けるのは、そういった体験(あるいはそれに近い体験)をしたからだ、と考えるのが妥当だろう。
それにしては中途半端にしか描けていないことも確かだが。

ともかく、真相は以上のようなものだった。
全体が妄想だったというのは、それだけ深い悲しみに沈んでいたと解釈できるので、テーマは十分に描かれていると考える。
よって、嫌いではない。

しかし、ごめんなさい、僕は余計なアラを探してしまう。
例えば、精神病棟を兼ねるこの刑務所施設で、精神病患者に彼を導くように演技させるということが、説得力ある説明と言えるだろうか。
調書を取ったあの二人の患者も、やはり演技だったのだろうか。
それができるなら、もはやこの施設にとどまる必要性さえないような気がするし、あまりに不自然である。

また、「レイチェル」なる女性が失踪したことを捜査する名目でディカプリオは島に上陸する。
そして唐突に「レイチェル」が発見される。
ラストでレイチェルが看護婦姿で登場すると言うことは、彼女もやはり職員で、演技だったわけだ。
それなら、なぜあのタイミングで登場したのか、それも彼の妄想のシナリオだったのか、ちょっと不明瞭だ。
そもそも、彼が作り上げた物語はどこまでだったのだろうか。
何度かその妄想が「発症」していたというような説明があったが、本来ならどういうオチがつけられていたのだろうか。
相棒も死に、ロボトミー手術を施される施設があの灯台にあり、それが発見されるとどうなるのか。
疑問が次々と沸いてくる。

その証拠に、前半は全く僕たちが先読みする余地がない。
映画の雰囲気が前後半でがらっと変わるが、それがよい証拠だ。
ラスト数十分で映画の雰囲気が一気に変わる。
それまでのホラーテイストの雰囲気が、悲しみ一色の人間ドラマに変化する。
それでも前半をしっかりと観ることができたのは、妙な予告編のあおりがあったからであって、映画じたいの魅力ではない。
前半(C棟に入り込む当たりまで)は、謎を解く手がかりすら見せてくれない。
よって、本当に退屈な時間を過ごすことになってしまう。

そもそも、衝撃的なオチ、を用意している割にはやられた感が全くない。
それは予告編での予感が的中してしまったこともあるが、それ以上に、ミスリードが一切ないからだ。
ミスディレクションのような映画にしたいなら、真相をつかませないがつかませた気持ちになるようなミスリードのダミーの伏線を張り巡らせておくべきだった。
たぶんこういうオチに行くのだろう、という読みやすいミスリードがないので、観客は映画を「攻略する」余地さえ与えてくれない。
気づいたらもうオチだった、という唐突な印象を受ける。
もし、そのミスリードがうまくいけば、オチが予告編で予感できたとしても、きっと衝撃的だったはずだ。
サスペンスとして破綻してしまっているゆえんだ。

また、読めないのは伏線がないだけではなく、妄想と現実との関連性が皆無であると言うことだ。
なぜレイチェルという「娘」の名前が「妻」に転換されてしまっていたのか、それが失踪という形で妄想に登場したのか。
そして、自分の名前がアナグラムになっているのは、なぜか。
知的で、暴力的、という彼の設定だけでは説明しきれない。
妄想と現実の関連性が見えないので、観客にとっては肝心の謎解きがブラックボックスのように感じてしまう。
ナチ残党とのやりとりにしても、こちらがどれだけきちんと観ていても納得できない「行間」が多すぎる。

アイディアはおもしろいのに、そして悲しみは深いのに、描き方に緻密さが足りない。
まあ、マーティン・スコセッシならこんなものか。

M4会で話し合っていて気づいたのだが、ディカプリオってちょっと前の時代設定の映画が多いですね。
「レボリューショナリー・ロード」にしても、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」にしても、「タイタニック」にしても。
良い役者になったなあ、と思いつつ、もっと違う役柄も観てみたい気がする。
あ、そうそう、「インセプション」は今年注目の、現代を舞台にしたディカプリオの作品ですね。
監督は、あの、クリストファー・ノーラン。

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4 コメント

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びっくり (こつ)
2010-05-03 08:15:06
オレも、そのオチはないよなぁ~、と思っていたら…。

最初に、登場人物の表情や手の動きに注目してくださいってあったけど、あれは、そこに意識を集中させて、他の部分を見えなくさせる手法なんだと、最初の時点で疑ってみていた。

で、奥さんの映像が出てきたときに、焼け死んだはずなのに、血がドロドロと出てきたのをみて、完全に、ディカプリオがイカレていると確信。もっと、どっちつかずの終わり方にもできたとおもうのになぁ~。残念。
返信する
伏線がたくさんあるらしいですね。 (menfith)
2010-05-03 11:12:02
管理人のmenfithです。
お久しぶりです(笑)。

伏線がたくさんあってそれが公式HPで公開されているらしいよ。
僕は覗いていないけれど。
そして覗く気にもなれないけれど。

確かに、細かい伏線はあったのかもしれないけれど、そんなことよりも、大きな流れが説明しきれないところが多すぎやね。
だからヤラレタ感がまるでない。

ディカプリオなら「レボリューショナリー・ロード」をDVDでどうぞ。
こっちのほうが断然おもしろいよ。
返信する
「新年度に忙殺されてます」の記事にコメントしたものです。 (koma)
2012-05-05 07:23:45
「衝撃のラスト」とうたう映画で面白いものはめったにない、というのの典型ですが、
深読みに深読みを加えて、
ラストのディカプリオの視線の感じを深読むと、
彼は異常ではないが、「異常ではない」ということを証明できない現状況の中で生きていくしかない、ということはあまりにも苦痛で、
その苦痛から逃れるために敢えてロボトミー手術を受ける。諦める。諦める。諦める。

という読みはどうでしょうか笑
この読みだと彼は異常だったオチではなくなるので少しは救われるような気もするのですが・・・


というか、あの状況で、
ディカプリオは異常じゃない→陰謀は事実→ではどうやってあの状況を打開するか
そのソリューションを考えることが脚本的にもスコセッシ的にも難しすぎたから、
ディカプリオ異常説で落ち着かせるしかなかったのかなあ、と。

衝撃のラストなんて宣伝しなければ、普通のエンターテイメント作品として楽しめただろうになあ、と思います。
返信する
すべては予告編が悪い。 (menfith)
2012-05-06 22:39:44
管理人のmenfithです。
ipadの購入を真剣に考えています。
何せ、考えるのはただですから。
おもしろい利用方法があれば教えてください。

>komaさん
深読み、いいですね。
僕もここで書いて人に見せるとたいてい「それはあんたの考えやろ」と一蹴されます。
深読み万歳です。

最近の映画は衝撃度がなければ誰も映画館に足を運ばないと思っているようですね。
だからうたい文句が露骨でうさんくさいものが多くなってきました。
明らかに過剰です。

そのいい例が「シャッターアイランド」ですね。
そもそも予告編で話の大半を明かしすぎなのですよ。
実際、そこまでしないと映画館に行かないってことなのでしょうが。

僕は最近、さびれた商店街のことを、「シャッターアイランド」と呼ぶことにしています……。
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