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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ザ・フォーリナー/復讐者(V)

2021-03-15 18:32:39 | 映画(さ)
評価点:73点/2017年/イギリス・アメリカ・中国/110分

監督:マーティン・キャンベル

よくあるパターンだが……。

ロンドンでレストランを経営していたクエン(ジャッキー・チェン)は、娘のドレスを買いに連れて行ったとき、無差別テロに遭った。
娘は即死、クエンは大きな喪失を経験する。
首謀者は北アイルランドのテロリストだと考えられた。
クエンはテレビに出ていたアイルランドの副首相にかけあい、犯人を教えてくれるように働きかけるが、「わからない」と告げられる。
どうすることもできないクエンは、ある決意を胸にアイルランドへ向かう。

アマゾンプライムで見たアクション映画。
やはり、ジャッキー・チェン主演の映画で、ほとんどストーリーも知らずに見た。
これまでのジャッキー映画とは趣が異なる映画で、非常におもしろい。

おじいさんと思っていたら、すごい人でした、という展開はよくあるが、こちらはそういうわかりやすさはない。
むしろどこに転がるのかわからない先が読めない展開になっている。
ちょっとむちゃくちゃな部分もあるが、エンターテイメント作品としては楽しめるだろう。

▼以下はネタバレあり▼

なぜコックがあのケーシー・ライバックなんだ!という声が聞こえてきそうなくらいの、古典的な展開ではある。
だが、見せ方がおもしろく、同工異曲になっていない。
しかも、ジャッキーを主演に据えながら、イギリスが舞台、主人公が中国人ではなくベトナム人である、という点が新しい。
人権問題、人種問題も絡んできそうな思い切った設定で、あのジャッキーがそれをよく許したな、と思う。

さて、終わってみれば「そういうことだったか」と読めるわけだが、冒頭にはそれが全く見えてこない。
アジア人のレストランの店主の娘が過激派テロリストの無差別テロで殺される。
悲しみに暮れるアジア人は、しつこく捜査本部を訪れて犯人を教えてくれるように求める。
一向に進まない捜査に対して、そのアジア人は今度はテレビで見た副首相ヘネシー(ピアース・ブロスナン)にターゲットを置き、つきまとう。
この展開は、かなり無理があり、そしてそのアジア人クエンはちょっと狂気的ですらある。
「そいつが黒幕に通じているという可能性があるにしてもそこまではやりすきだろう」という印象を観客は拭えない。
そこには、よくある一般人が実は超エージェントだったという展開にある、感情移入の余地はないのだ。

むしろ、簡易爆弾によってテロ活動を行うあたりが、異常性を感じさせる。
だが、この映画の妙はここにある。
後半、このアジア人が中国人ではなくベトナムの特殊工作兵であったことが明かされると一気に物語が動き出す。
クエンはベトナム戦争を生き抜いた特殊工作兵だったことで、ただの優秀なファイターではなく、あらゆることを見抜く情報通でもあることがわかる。
だから、ヘネシーが黒幕である、もしくは黒幕に通じていることを見抜いたわけだ。

同時期に、ヘネシーと北アイルランドを巡る構造が見えてくる。
ヘネシーは妻の弟を容疑者として差し出すことで、現在の地位を築いた元テロリストだった。
既に捕まっているテロリストたちの恩赦を勝ち取るために、イギリス政府を揺さぶりたかった。
単なる和平交渉では行き詰まっていたからだ。
そこで被害者が出ない形の爆弾テロを持ちかけ、それに首謀者達(マクグラス)は乗った。
だが、ヘネシーは既に強い地位を持つ。
そこで、マクグラスらはヘネシーにハニートラップを仕掛けて逃げられないように保険を掛けていた。
しかもそのマクグラスとともに計画に通じていたのはヘネシーの妻だった。

黒幕感があったヘネシーはまんまと味方からも分かちがたくどっぷり黒幕に仕立て上げられ、逃げられなくなっていたのだ。

かくしてこの映画は二重のひっくり返しがある。
一つは中国人だと思っていたジャッキーが、実はベトナム人として主演していたということ。
もう一つは、単なる黒幕だったと思われていたヘネシーさえも、実は周りから罠にかけられていたということ。

そういうことが同時にわかるようになっており、カタルシスが大きい展開になっている。

イギリスがEUから独立した。
アイルランドも、スコットランドも、そして北アイルランドも、自民族に対する自負は強い。
国家による帰属意識が薄まる中で、民族としての帰属意識が強まっている。
そういう意味でも、タイムリーな映画であり、興味深い。

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