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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ザ・ファイター

2011-04-04 20:05:02 | 映画(さ)
評価点:76点/2010年/アメリカ

監督:デヴィッド・O・ラッセル

それぞれが人生のタフなファイター。

天才ボクサーを兄ディッキー(クリスチャン・ベイル)に持つミッキー(マーク・ウォルバーグ)は結果の出せないボクサーとしてくすぶっていた。
兄をセコンドにつけていたが、遅刻するし麻薬はするし散々だった。
ある日、対戦カードが決まっていた相手が急遽出場できなくなり、ミッキーより9キロも重い相手に変わった。
自信のないミッキーのために勝てる相手を、と考えていたが、お金のために出場することにする。
しかし、体格の差は圧倒的でミッキーは打ちのめされてしまう。
ベガスのジムから、兄のセコンドと母親アリスのマネージャーが原因だからうちに来ないかと誘われ、ミッキーは迷ってしまう。

我らがヒーロー、クリスチャン・ベイルがアカデミー助演男優賞を獲得したという作品。
母親役のメリッサ・レオも助演女優賞を獲得している。
実際の話をモティーフにし、本人にも会って取材を重ねたという作品でもある。
ベイルはこの役のために、減量しただけではなく、歯を矯正し、髪の毛も抜いたという熱の入れようだ。
しゃべり方も本人に習うために話をしていたということだった。

助演男優賞は伊達ではない。
この映画はミッキーを主人公にした映画ではあるものの、実際には兄のディッキーが引っ張る映画だ。
「英国王」よりも僕はこちらのほうが遥かに面白かった。
おすすめだ。

▼以下はネタバレあり▼

この映画を見ながらなぜあれほど僕の心に「英国王」が響かなかったのかわかったような気がした。
英国王」は物語で変化するのがヨーク公一人であったのに対し、この映画は登場人物みなが「ファイター」として変わる姿を描いている。

この映画は非常にわかりやすい筋をもっている。
おちこぼれのボクサーだった兄弟が立ち直る物語。
冒頭からラストまで、その流れはすぐにつかめる。
そしてその通りに展開していく。
そこには驚きや意外性はほとんどないといっていいだろう。
真実に基づく物語であるから意外性がないのではない。
アメリカ映画に「よくある話」だからだ。

それでも圧倒的におもしろい。
この二人のボクサーのことを僕は全く知らなかったし、事実という意味での共感は全くなかった。
それは「ソーシャル・ネットワーク」のフェイスブックと似ているかもしれない。
どこにこの映画のおもしろさがあるのだろう。

先にも書いたが、登場人物みながファイターである。
みなが問題を抱えているが、その問題に立ち向かおうとする。
母親は弟への愛情の注ぎ方という問題。
兄は弱い自分を断ち切れずにいるという問題。
恋人は家族の愛の深さを理解できないという問題。
弟はボクシングのみに打ち込めない弱さを持っているという問題。

それぞれの課題を正面に受け止めようとする姿に感動するのだ。
特筆すべきはやはりディッキーだ。
昼間から麻薬をすぱすぱ吸う彼は、自分の映画が公開されると自慢して回る。
復帰するんだと言いながらもそんなそぶりが見えない。
ミッキーのために金が要ることを痛感した彼は、下手な強盗をくり返す。
やがて捕まってしまった彼は、刑務所の中でその映画なるものが、自分の行いに対する辛辣な批判であることを突きつけられる。

この構成は見事だ。
この映画に対する彼のあり方が、そのまま彼の人生そのものなのだ。
刑務所に入ってようやく自分がどのような姿で振る舞っていたかを突きつけられたのだ。
自分が思っていた周りからの評価は、すべて蜃気楼であることを思い知る。
彼ができることは、弟の活躍を信じて自分が更正することしかないのだ。
ミッキーの試合を電話で聞きながら、興奮する様子で、彼がどれほど弟を深く本気で愛しているかよく分かる。
出所後、彼が弟へ怒るのも、それが自分のせいだという責任を感じているのも、クリスチャン・ベイルが完璧に演じきる。
彼は自分自身と闘うファイターへと課題を克服するのだ。
今までの彼なら、自分を責めることはしなかっただろう。

常に他力で生きてきたからだ。
本当に自分のしてきたことがおろかであったことを、自分の映画を見ることでようやく気付く事ができたのだ。

その兄をもてあましているミッキーの心の動きも見事だ。
兄として尊敬しながら、思い通りに戦えないという葛藤は、家族を全て背負っているという責任の重さからだった。
兄だけでなく、母も、姉妹もみなミッキーのファイトマネーをあてにしている。
貧民街にあって、安定した収入を手に入れるのは容易ではない。
そもそも、安定した収入を得る事ができるならそんな街にはいないのだから。
マネージャーとしてやってきた母も、ミッキーが決別を決意した時、猛反発する。
家族を支えてくれるはずの大黒柱がいなくなることは、彼女達にとって死活問題である。

家族を支える為に闘うことの難しさを上手く表現している。

その愛を知りながらも、勝つ為には離れるしかないという苦渋の決断を迫られる。
だからディッキーの出所後に和解を提案することになる。
ミッキーが上り詰めていくその過程は、彼にかかわるそれぞれがどのようにあるべきなのかという問題を突きつけ続ける。
恋人のシャーリーンがあれほど献身的な愛を示せたのも、自分自身の過去とミッキーがだぶったからなのだろう。

面白いのは、この街がしっかりと描かれているということだ。
麻薬の溜まり場となったカンボジアの人々や、英雄であったはずのディッキーに冷ややかな目線を送る街の人間達は、街と言うコミュニティを形作る。
街はディッキーやミッキーを応援しながら、落ちぶれるとすぐに攻撃にまわる。
彼らは誇らしい一方で、うらやましくねたましい存在なのだ。
だから落ちぶれたディッキーをみて「ざまあみろ。」という視線を向ける。
それは仕方がないことでありながら、彼らの街のあり方が見え隠れする。

この批評は「わたしを離さないで」より前に見たのに書いたのはその後だった。
結局この映画は「見た後にじわじわくる」タイプの映画ではなく、見終わった直後のカタルシスが大きい映画なのだろう。
とてもおもしろい話だが、逆に言えばその程度の映画でもある。

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2 コメント

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Unknown (InTheLapOfTheGods)
2011-05-22 08:51:37
全員がファイター。
確かにそうですね!

お母さん役は助演女優賞取ってたんですねー。
見落としてました。
確かにアメリカのブルーカラーの家庭の母親そのものの雰囲気でした。
ラスベガスに行くと似た感じの女性がうじゃうじゃいます。

ところで投票ボタンのリンクは張らないのでしょうか?
探すのに苦労してしまいました。
ブックマークがたぶん代わりなのですよね。
投票ボタンがあった方が見慣れている方が多いのでわかりやすいかと...

不躾なコメントですみません...
返信する
だいぶ酔っています。 (menfith)
2011-05-23 21:22:36
管理人のmenfithです。

3000円食べ放題で飲み放題。
いきなりきたのが8人前くらいの大皿にサラダがど~んと二皿。
それ以降もどんどん料理が来て……。

すんません、もうたべられません。

食べ放題でこれほどのプレッシャーを感じたのは初めてでした。
おいしかったので、申し訳なさだけが残った……。

>InTheLapOfTheGods さん
返信遅くなりました。

僕もアメリカに行きたいです。
とりあえずタイムズスクウェアで「バニラ・スカイ」ばりに目覚めてみたいです。

おっしゃっているのはブログ村の投票ボタンですよね。
僕はアクセスを増やしたいと思いながらも、できるかぎり記事とは関係ない広告類は排除したいと考えています。
それはフェイスブックに学んだ「クールさ」です。
ですので、あえて記事にはボタンを置いていません。

本来のブログ村のコンセプトとは異なるかも知れませんが、ちょっと考えがあってのことです。
アフェリエイトをまだできていないのは、その理由でもあります。

時代に逆行するsecret bootsを今後ともよろしくお願いします。
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