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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

マスター・アンド・コマンダー

2008-10-05 22:10:22 | 映画(ま)
評価点:58点/2003年/アメリカ

監督:ピーター・ウィアー

まあ、おもしろくないね。

1800年代初頭、フランスの勢力拡大にともない、
イギリスは、ナポレオン率いるフランス軍のとの争いが絶えなかった。
「ラッキー・ジャック」と仲間から慕われる船長ジャック(ラッセル・クロウ)の乗るサプライズ号は、航海中、霧の中から突如として現れたフランスのフリゲート艦「アケロン号」に襲われる。
近代的なアケロン号の奇襲に年季の入ったサプライズ号は大きな被害を受ける。
心配するクルーを他所に、ジャック艦長の決断は、アケロン号の追跡。
疲労から次第に統率を失っていくサプライズ号にのるジャックの友人であり博物学のスティーブン・マチリン(ポール・ベタニー)は、ジャックのやりかたに意見するようになっていく。。。

巨額の資金が投入され、アカデミー賞にノミネートされた力作だが、アメリカ、日本ともに、それほどヒットしなかったようだ。
当時の船を丸々作ってしまうという力の入れようで、しかも、主演はあの「グラディエーター」のラッセル・クロウ。
しかし、「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」や、「ミスティック・リバー」などに押されて、不本意な興行に終わりそうだ。

2003年のアカデミー賞作品賞は、参考にならないとおもう。
これまで「指輪物語」がずっとノミネートされながら受賞を逃していたことがあり、ほとんど「指輪物語」を盛り上げるための、作品賞ノミネートになってしまった感がある。
この受賞は、おそらく「三部作」に対する賞であるため、この「指輪物語」とブッキングしてしまったことで、2003年の作品賞は、「他の作品には取れない」賞になってしまった。
そういう意味では、不運な年にノミネートされてしまい、しかも日本での公開時期までもかぶってしまうという運のなさで、賞も、興行収入も「指輪物語」にもっていかれた格好だ。
「ラッキー・ジャック」のラッキーも、現実では通用しなかったというこであろう。

▼以下はネタバレあり▼

しかし、この不運さは、映画の出来と内容とも共通しているようである。
力作であることは間違いはないが、アカデミー賞をとるほどの完成度はなく、興行収入をたたき出すほどの面白さもない。
ここでいう面白さとは、「エンターテイメント」性のことである。
「海戦もの」ということで、先に公開された、「パイレーツ・オブ・カリビアン」というエンターテイメント性を押し出した作品と、どうしてもだぶってしまうのである。
だから、この映画を「パイレーツ~」と同じような作品だとおもって観にいった人は、
誰もが、「金返せ」と嘆いただろう。

この映画は、歴史大作と称した方がいい。
全てにおいてリアルさを追求した作品なのである。
1800年代の海事情や、戦闘、海軍の有様などをありありと描いている。
それを象徴しているのが、いきなりの戦闘で、若くして腕を落とすことになったブレイクニーの姿だろう。
彼の境遇は、あまり映画の中で明かされなかったが、相当残酷である。
なにせ、観客が感情移入する前に、腕がなくなってしまうのである。
そこには観客の涙をさそうなどという演出は全くない。
また、ヒロインが全くいない、ということも、エンターテイメント性よりも、リアルさを追求していることをあらわしている。
(そもそも女性が数分しか出てこない。)

しかし、リアルすぎたのだ。
映画として、観客に感情を呼び起こさせないほどのリアルさは、命取りになる。

まず、ジャックの境遇が理解できない。
なぜそこまで執拗にフランス軍を追う必要があったのか。
それがよくわからないのである。
また、「ラッキー・ジャック」という称号も、それに関するエピソードがないため、なんの重みも意味もない。
キャラクターの感情移入できないことが、この映画の最大のマイナス点である。

いきなり戦闘が始まってしまうという展開は、観客を一気にひきつける力をもつ。
しかし、その後、主人公やまわりのキャラクターに関する説明が必ず必要だ。
そうでなければ、観客は長い間「戦えない」。

当時の海軍の様子は確かにリアル(であろうと思わせるの)だが、ジャックを主人公に選んだという点が抜け落ちてしまっている。
だから、「ブレイブ・ハート」のような血がたぎるような「熱さ」がない。
それでは映画としてはかなりつらくなってしまう。

この映画の決定的に欠落してしまっているところは、「歴史性」である。
当時の海軍の様子、船の揺れ、船の重厚感、火薬や血の匂い、新たな発見の喜び、などは伝わってくる。
しかし、それに至る経緯(歴史性)が全くないのである。
違う言い方をすれば、空間のみが描かれ、時間は描かれないのである。

「ナポレオンを王と呼びたいか~?」
「NO!」という受け答えをするが、ナポレオンは不在である。
フランスのアケロン号との烈しい戦闘を繰り広げるが、アケロン号以外に敵はいない。
ブレイクニーは有名な貴族の息子らしいが、その貴族は名前だけしかでてこない。
友人の博物博士との友情は描かれるが、なぜ友情を持つに至ったか、なぜ船に乗っているかなどが描かれない。
現在は描かれるが、過去はすっぽり抜け落ちている。

もちろん、過去を描けばそれだけで映画として面白くなるか、という問題でもない。
しかし、ここまで登場人物やその置かれた状況が抜け落ちてしまうと、ことばに重さがうまれないし、物語に感情がうまれない。

エンターテイメント性を追求しない態度は好感をもてるが、それとは別次元で存在するはずの「観客」が、この映画にはいない。
それではアカデミー賞を抜きにしても、映画としての完成度が疑わしくなってくる。

「歴史」を持たないアメリカ人が作った本格的歴史大作。
そういえば多少は納得できる?
(加えていうなら、イギリス船に乗るクルーが島に下りた時、野球(の原型のようなスポーツ)をしているのにもちょっと違和感あるよね。
イギリスなら、サッカーかフットボールだろう!)

(2004/3/9執筆)

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