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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還

2008-10-07 22:49:04 | 映画(ら)
評価点:85点/2003年/アメリカ

監督:ピーター・ジャクソン

ついに完結、監督の愛に満ちたファンタジー巨編。

フロド・バギンス(イライジャ・ウッド)とサム(ショーン・アスティン)は、指輪の元所持者ゴラムを道案内にたて、滅びの山をめざしていた。
一方、エントたちの助力を得て、サルマンの城を攻略したガンダルフ(イアン・マッケラン)たちは、人間の王国ゴンドールをサウロンの軍隊から守るべく、危険を知らせに都・ミナス・ティリスを訪れる。
しかし、執政デネソール(ジョン・ノーブル)は、息子ボロミアの死に絶望し、戦意を失っていた。
ガンダルフは、デネソールに無断で烽火をあげさせ、各地の兵はミナス・ティリスをめざすのだった。
しかし、各地の兵が集結する前に、ミナス・ティリスに向けたサウロンの軍隊の侵攻がはじまる。

アカデミー賞最多タイとなる11部門を独占した本作。
もう紹介する必要がないほど、各地で絶賛の嵐である。
三部作で、しかも原作が「ハリー・ポッター」のような「児童書」ではなく、骨太なファンタージー大作であるため、日本ではそれほどヒットしないのではないか、と疑っていたが、日本でも絶賛の嵐である。

▼以下はネタバレあり▼

アカデミー賞の作品賞は、はっきり言って、三部作全体にあたえられたものである。
前作「二つの塔」も有力視されていたが、結局「シカゴ」にもっていかれた。
第一部からささやかれていたことだが、この「完結篇」にその栄冠があたえられたのである。
この2003年度のアカデミー賞は、「他の作品は絶対に取れない賞」であったわけだ。
その意味では、他の作品が不運であったことはいうまでもない。

しかし、観終わったあと感じたのは、「アカデミー賞主要11部門」などという謳い文句は要らない、ということだ。
この三部作を正当に評価できるのは、どんな賞でもない。
アカデミー賞に輝いたところで、オスカー像もかすんでしまう。
賞の枠を超えて評価される「大作」である。
本当に、ただただ「偉大な映画」である。

映画評などをみると、「三時間も短かった」という感想が多いようだ。
しかし、実際はどう贔屓目にみても「長い」。
三部作というのがギリギリの選択であったことは理解できるが、それでもやはり長い。
四部作にしたほうが、よほど理解しやすく、観客への負担も小さかった。
また、原作を読んでいない人、まして前々作前作を観ていない人には、ほとんど苦痛としかいいようのない三時間だろう。
映画としての自律性は、全くない映画である。

それでも「偉大な映画」という評は揺るがない。
三年間、三部作、そして、原作の九巻という時間を費やしてでも、「感動に浸る」価値があると思わせる映画である。

監督の愛情を感じる点が、今回の最大の特徴だと思う。
たとえば、冒頭のスメアゴルが指輪を手にする場面。
この場面は、映画の上映時間を考えると、必要かどうか疑わしい。
しかし、この場面を冒頭に配置し、スメアゴルという人物を描き、そして何より「指輪」の恐ろしさをきちんと描いたということは、監督のこの映画への愛を感じさせる。

また、今作が「ホビットの物語」として描かれていることも、愛を感じる。
最後のサムへのフロドのメッセージや、サムとフロドの指輪の葛藤など、前作のレゴラス、アラゴルン、ギムリの大きな扱いにくらべ、今回はホビットが中心人物として描かれている。
この点が、非常に好感がもてる。
完結篇は、やはりホビットであり、この物語はホビットの物語という監督の映画の捉え方がよくわかる。

フロドの、指輪の誘惑との葛藤が時間をかけて描かれ、それと対比するようにミナス・ティリスでの烈しい格闘が描かれる。
内面と外面、両方で戦いを繰り広げるのである。
この対比の構成によって、フロドの内面をさらに深く掘り下げるのである。

映画としての完成度が高いか、という点については、これも上映時間と同様、否定的な印象をもってしまう。
例えば、サルマンの扱い。
彼が今回、ワンカットも出てこないということは、誰もが疑問に思うことである。
おそらくギャラの問題(三作ともに出ると高くなる)や、役柄の問題(あから様に悪役)などがあったのだろうが、それにしても酷い。
また、ファラミアがナズグルに襲われるところを、ガンダルフが助けるシーンでは、懐中電灯が当ったようなつたない演出である。
それだけではなく、ところどころ重ねて撮っているのが丸わかりだし、CGの荒さが目立つシーンもある。
リヴ・タイラーの大きな、大きすぎる扱いも、前作同様気になるところである。
もともと、彼女は旅の仲間に直接関係することはないのに、存在感が大きすぎ、ヒロインというにはすこし……である。
回想など、無理に挿入されたシーンが多い。

しかし、要所要所を重量感たっぷりのCGで魅せられ、人間ドラマをある程度わかりやすい形で示されると、やはり「すごい」と思ってしまうわけである。

実際、原作を読んでいる人がどれだけいるのか、疑問である。
また、ドワーフやエルフなどの西洋の神話に慣れ親しんでいない日本人が、どれだけ思い入れをもって観られているのか、疑問である。
すこしブームが大きすぎて、冷静さを失っているように思えるのも、確かである。
しかし、この映画は偉大である。
何年もかけて構想を練り、三年という長いスパンの中で成功させた。
また、古くから多くの人に影響をあたえ続けたファンタジー小説を多くの人に納得いくように映画化した。
それだけで、この映画は評価されるに足る条件を満たしている。

今後、この三部作を越えるようなファンタジー小説の映画化は、一つぐらいしか思いつかない。
われら日本が誇る、ファンタジー小説「グイン・サーガ」である。
誰か、100部作を撮ってくれ。年に二作ずつ撮っても五十年。
…役者死ぬわな。


(2004/3/15執筆)

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