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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

フォードVSフェラーリ

2020-01-23 19:35:41 | 映画(は)
評価点:81点/2019年/アメリカ/153分

監督:ジェームズ・マンゴールド

予想外の展開!

1959年のル・マン24時間レースで優勝したアメリカ人のシェルビー(マット・デイモン)は、心臓病が発覚し、引退を余儀なくされる。
同じ時期、フォードは大衆車を作り続けてきたが、曲がり角を迎えていた。
スポーツカーを作り続けてきたイタリアのフェラーリを買収することで、ブランド力を向上させようと考える。
交渉の場で、金額を示したが、「レースに出るか出ないかでフォードとフェラーリが対立したら、どうなるのか」と問われて「出ない」と答えた。
その答えを聞いたエンツォ・フェラーリは激高し、買収は破談になった。
フォードはそれを聞き、フォードをルマンで勝たせることを計画し始める。
白羽の矢が立ったのは、かつて唯一優勝したことがあり、現在はカーディーラーをしているシェルビーだった。

フォードがル・マンで勝ったことがあるという、この話は何度も映画化の企画が持ち上がっては立ち消えになっていったという曰く付きの物語である。
24時間同じ車を猛スピードで走り続けるというのは非常に難しく、またレーサーの消耗も激しい。
大衆車しか作ったことがなかったフォードには、大きな勝負だったわけだ。

その様子を、二人の友情という側面から描いたのがこの映画だ。
マット・デイモンとクリスチャン・ベイル。
もう、私の大好きな二人なのだから見に行かないわけにはいかない。
と思っていたが、どうしても「RUSH」と印象がダブって、正直リストには挙げていなかった。
だが、周りに聞いてみると、高評価であると知って、こちらも無理やり映画館に行った。
アドバイスの中に「IMAX」で見るべき、というのがあったので、IMAXで鑑賞した。

特にレースに興味がなくてもおもしろいように感じられる作りになっている。
私はひたすらグランツーリスモを思い出していたが、スーパーカーが欲しくなってきた。
(トミカかゲームの中でしか手に入れられないが)
良い映画だと思うので、ぜひ劇場で見たい。

▼以下はネタバレあり▼

タイトルにかなり誤解がある。
この話はフェラーリと争うフォードを描いているのではなく、フォードの中の軋轢を描いている。
だから、イタリア人に立ち向かうアメリカ人というよりは、旧態依然の体制をどうしても脱却できない大企業、というほうがわかりやすい。
あまりレースに興味がなくても、その集団での軋轢は誰にでも経験があるだろうから、十分楽しめる。

フォードは世界で初めて自動車を大衆にもたらした企業である。
それまでの自動車は、軍事目的や商業目的、もしくは貴族や金持ちのステータスの移動手段だった。
それを徹底的にパッケージ化して、誰にでももてる車としたのだ。
何度もイタリア人から「醜い車」と罵られるのは、そのためだ。
美的なセンスや高性能を求めたのではなく、大量生産できる車を安価に売ることを目指してきたのだ。
ある意味ではアメリカという国の、最も成功した象徴でもある。
ハンバーガーや2×4の住宅などと同じだ。

その会社が、最も難しい技術が試されるル・マンに参戦する。
ル・マンで勝ったからといって、直ちに業績が上がるわけではない。
勝つことによって技術の高さと信頼できるだけの土台があることを示す、象徴的なものにすぎない。
だから、参戦には大きなリスクが伴う。
傾きかけた日本企業が、プロ野球チームを買収するようなものだ。
確かに成功すればいいが、しなかった場合、更に業績が悪化し、イメージもダウンする。
そのプロジェクトに、多くの社員や役員が応援してくれるわけではない。

この映画を見終わって、フォード最高やな! 俺次フォードの車ほしいわ! とならない。
むしろ、フォード終わってる、なんやねんあの企業!となる可能性の方が高い。
だから、この映画はおもしろい。

タイトルや予告編(トレーラー)を見る限り、アメリカ企業万歳!の映画のように映るが、そうではない、アメリカの負の部分をしっかりと描いているからおもしろい。
対立軸の取り方がうまかったと思う。

だからこそ、この二人の友情が際立つようになる。
破天荒なケン(クリスチャン・ベイル)と敏腕セールスマンに転身したシェルビー(マット・デイモン)の二人が立っていることは間違いない。
特に、ベイルはやはりとんでもないカメレオン役者だ。
ブルースを演じていたとは思えないほどの偏屈男を演じている。

だがそれ以上に、周りの登場人物たちがきちんと仕事をしている。
ケンの奥さんは特筆すべきキャラクターだった。
彼女とケンとのやりとは、どのシーンも記憶に残るシーンになっている。
二人の友情を描きながら、それをしっかりと浮かび上がらせる周りの人物たちの活躍は指摘しておきたい。

一筋縄でいかない、悲哀の満ちた結末や、足を引っ張ってくるフォードの役員、手に汗握るレースシーン。
どういう切り取り方でも楽しめる、安定した映画である。

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