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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

チャットGPTが壊すもの

2023-06-01 18:26:34 | 不定期コラム
何かと話題の生成AI、チャットGPT。
この流れを止めることはできないし、無関心を装うこともできないだろう。
しかし、だからといって無邪気に喜んでいるわけにもいかない。

チャットGPTが何をもたらすのか、ということを考えておきたい。

チャットGPTを少し触れば、その性能に驚かされるだろう。
まず「てにをは」のミスがない。
第一言語が日本語でない人は、手こずるという助詞の使い方にミスがない。
これは高いレベルで日本語が運用されているということだ。

たとえば、学生がレポートを書くとき、これを使ってもおそらく大学教授はすぐに見分けることは難しい。
今までの不正行為なら、インターネットにある記事をそのまま流用していることが多かっただろう。
だから検索をかければすぐにその参照した記事が出てくる。
教授はやすやすとその不正に気づいて「不可」のスタンプを押せば良い。
しかし、チャットGPTは、複数の記事から「生成」するので、全く同じような文章は検索ででてこない。
そのままの文章をレポートとして提出すれば違和感があるかも知れないが、少し校正をかければまず見抜けないだろう。
これまで数時間かかっていたレポートの作成が、ものの数分で終わってしまう可能性がある。

そして、まさにこれがチャットGPTが壊すものの一つだと私は考える。
文章を書くことの醍醐味は、生成する時間にある。
できあがったものを評価する、というのはその一端に過ぎない。
文章は、あれこれと思考を深めながら作り上げていくという過程にこそ、重要な営みがある。
すぐに回答を出してくれるチャットGPTは、そのプロセスを破壊してくれる。

一時的には楽かもしれないが、結果しかない文章作成には、ひょっとしたら人生そのものを破壊するかもしれない。
読書がいつまでたっても重要なスキルであることを考えれば容易に想像がつくだろう。
読むことが重要であるならば、それは書くことも同時に重要なのだ。

と、そんなことを考えていたが、各地で訴訟が起こっていることを知り、これがもたらす破壊は、プロセスだけではない、ということに気づいた。
私たちは、ことばの意味を、作り手(送り手)が作り上げるものだと思っていた。
しかし、チャットGPTは意味を生み出さない。
ただ言葉の羅列を計算して打ち出すだけだ。
意味を見いだすのは、受け手である人間なのだ。

これまで作り手に握られていた意味の生成が、受け手によって見いだされる、という逆転現象が起こるだろう。
人間の歴史から考えると、これまで文字を扱ったり言葉を扱ったりする人間は特権的な限られた人々だった。
語り部だったり、国王だったり、政治家だったり、「評論家」だったり。
言葉を扱うにはそれなりの権威が必要で、技術や資本(高級な紙を手に入れたり難解な書籍を読んだりする)がなければならなかった。

しかし、インターネットが普及するようになり、言葉を扱うことができる人間が一気に広がった。
もはや文章を綴ることは、特別なチカラを要することはなくなった。
そして、ついに人間であることも必要でなくなったのだ。
とうぜん文筆家たちは、声を上げるだろう。
これまで独占的に握っていた、文章を書くという行為が奪われ、蔑ろにされるのだから。

チャットGPTは、書き手の権威を奪うだろう。
そしてすべからくこの権威は、読み手へと移行する。
いかに情報や知識を読めるか、ということが、あらたな権威となる。
これは、封建的な権力者がその独裁的な権威を奪われたり、これまで手工業でしかなしえなかった高い技術が、コンピューター制御によって為されるようになったりする、という市民革命や技術革新とほとんど同じ構図だ。

ついに、文章を作り出す、という人間の主体を決める営みにさえ、外部的な技術が適応されるに至った。
人間は技術に合わせて進化、適応していくしかないと、多くの評論家は高いところから語ってきた。
(でも知的な生産に携わる俺はいつまでもその座を奪われることはないけれどな!)という甘い考えが間違えているかもしれないというところまで来たわけだ。

いや、何もすべての書き手の職がなくなるわけではないだろう。
しかし、人間が安心して人間性を発揮できる仕事など、もはや存在しなくなるかもしれない。
自分の価値観を鍛えて、時代を見据えて、自己研鑽しながら適応できる、そういう人間を社会は求めている。
チャットGPTの登場は、自分の職業や技術、立場にあぐらをかいていられる人間はもはやどこにもいなくなった、ということなのだろう。

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2 コメント

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Unknown (すみれ)
2023-06-04 15:29:21
こんにちは。すみれと申します。
昔の知り合い?だと思うのですが
詳しいことをここに書くわけにいかずどうしようか悩みながら書き込んでいます。

もしお心当たりがなければ、無視してくださって構いません。

昔々お手紙のやり取りをしていたかと思うのですが、その中からここを教えてくださっていた手紙が見つかったので懐かしくなって来てしまいました。
お元気ですか?あの頃素直にお伝えできていなかったので
改めて、ありがとうございます。またお話しできると嬉しいです。
返信する
コメントありがとうございます。 (menfith)
2023-06-06 18:05:52
管理人のmenfithです。
なんとか生存はしています。
のらりくらり更新していきますので、しばしお待ちを。

>すみれさん
書き込みありがとうございます。
お久しぶりです。
懐かしいですね。

連絡先が分かれば、(私が考えている「すみれさん」だったら、)個人的に連絡してみます。

menfith81■yahoo.co.jp
がこのブログで公開しているメールアドレスです。
■のところにあっとまーくを入れてください。
返信する

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