外国で一時的個人的無目的に暮らすということは

猫と酒とアルジャジーラな日々

多言語翻訳をやるということ~カオスのキーボード編

2017-05-28 05:19:30 | 多言語学習・翻訳関連


私は現在、いちおう多言語翻訳を生業としている。
専門はアラビア語、イタリア語、トルコ語の3つだ。
仕事の大半はアラビア語関係だが(だから「いちおう」とつけた)、イタリア語やトルコ語の仕事も、昔の恋の記憶のように、忘れた頃に不意にやってくるので侮れない。

外国語のスキルは、ほうっておくとすぐにへなへなとしぼみ、やがて使い物にならなくなる。
私のように、ハーフのバイリンガルでも帰国子女でも国際結婚したわけでも仕事で外国に定住したわけでも語学の才能に恵まれたわけでもなく、大人になってから好き好んで、じみじみと語学を身につけた人間の場合はなおさらである。その上私は、初めて会った人の顔も名前も、別れの挨拶をして背を向けた瞬間に失念するレベルの記憶力の持ち主なのだ。年齢的な問題もあるし、語学力を維持するには努力が必要だ。

そういうわけで、趣味と実益を兼ねて(実際には半分以上が趣味)、毎日ネットで各言語のニュースをざっとチェックしたりして、言語知識のリフレッシュに努めてるわけだが、ここでパソコンさんのキーボード問題が浮上する。


ニュースの中で意味が取れなかった単語や表現をオンライン辞書で確認したり、同じ内容を扱っている他の複数言語のメディアの報道を参照して詳しく調べたりする時、当然グーグルなどで検索するためキーワードを打ち込むわけだが、多言語でそれをやる場合、少し気を抜くとカオスが生じ、2倍3倍の手間・時間がかかることが多いのだ。

具体的に言うと、検索をかけるとき、ついツールバーの言語(日本語・英語・アラビア語・トルコ語)を切り替えるのを忘れて、英語を打っているつもりでアラビア語を打ち込んでいたり、アラビア語を書いているつもりで日本語を書いてしまったりするのだ。カオスだ。

私のパソコンさんは普通に日本で買ったものなので、キーボードに書かれている文字は、かなとローマ字だけだ。しかし、アラビア語を打つときにキーボードに文字表記がないと困るので、透明なシールのシートの上にアラビア語のアルファベットをプリントアウトしたものを切り抜いて、各キーの上に貼り付けている。イタリア語には、文字にアクセント記号がくっついている特殊文字もあることはあるが、普通のローマ字を打ったあとにアポストロフィーをつけて代用しても問題はないので楽だ。トルコ語も基本的にはローマ字でOKだが(ケマル・アタトゥルクの文字改革のおかげだ)、中にはOやUの上に点々がくっついていたり、CやSの下にヒゲがついていたり、Gの上にVサインがくっついていたり、iの上の点がなかったりするトルコ語特有の文字がいくつかある。これはキーボードの上にマジックで手書きして凌いでいる。

つまり、私のパソコンさんのキーボードの上には、もともと印字されている「かな」やローマ字に加えて、シールのアラビア語と手書きのトルコ語の文字が共存するわけだ。しかし、時が経つにつれてシールに印刷された文字の一部(よく使うやつ)が薄れて解読不能になり、なおかつ剥がれかけたりゴミがくっついたりして、見た目も大変むさくるしい。トルコ語の手書き文字も、もはやほとんど消えかけている。でも今さらシールを貼り直したり、書き直す気力もない・・・その結果、アラビア語を打つとき、ファーを出そうとしてアインを打ってしまい、あっ違った!と直そうとしてガインを打ってしまい、今度こそと思って気合を入れて打つと、勢い余ってカーフを出してしまい・・・という愉快な儀式をしょちゅうやる羽目になる。(マニアックな話ですみません)トルコ語に関しては、あえて特殊文字を使わず、ローマ字で代用して打つという横着なやり方を身につけてしまった。幸いなことに、SNSの普及に伴ってトルコ人でもそうする人は増えてきたので、公式な文書を書くとき以外、特に問題はない。

それぞれの言語のブラインドタッチができれば、キーボードの使用に関する問題は生じないはずだが、日本語のブラインドタッチができない人間が、アラビア語のブラインドタッチをしようと考えること自体、おこがましい気がする・・・最近のパッチパネル式のパソコンだと画面にキーボードが出るから、それを触ればいいのだろうが、ローテクな私にはよくわからない。

以上で述べたように、私のパソコン入力はカオスの王国なのだが、最近は手書き文字にもその傾向が出てきた。アラビア語や日本語でメモを取ろうとしても、気を抜くとローマ字が混ざったりするようになってきたのだ。脳みその切替機能が壊れてきたのかもしれない。イタリア人の多言語通訳者兼作家のエッセイに、「多言語を使用する人には精神分裂症の傾向がある」というようなことが書いてあったように思う(うろ覚え。私の場合は精神分裂ではなく認知症の傾向か)。私にも、脳に負担をかけて複数言語を使っているツケがいつか来るのかもしれない。っていうか、もうすでに来てるのかしら・・・?



(おまけ)

関係ない近所のネコ写真。しばらく前に撮ったやつ















コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« クルドの新年のお祭りネウロ... | トップ | 埼玉のドバイレストランの未来 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Michiさんへ (Zhen)
2021-02-12 22:10:24
実は僕もパソコンのキーボードには、悩みと言うか、心配があります。
実は、日本語を入力するときは、「かな入力」なのです。今どき、そんな人いるの?と笑われる「かな入力」です。
PCを使い始めたころの上司が、タイピストはみんな「かな入力」、その方が速いと進められ、そのままです。
日本で販売されているPCやキーボードにひら仮名が書かれていることには、感謝しかないです。
あたりまえのことですが、中国で販売されているキーボードには、アルファベットしか書いていないので、つたない中国語を入力する方が、ローマ字変換でに入力する日本語より速いといった悲惨な状況でしたので、Michiさんのご苦労は、手に取るようにわかります。
長々と何を書いているのでしょうか?
失礼しました!
返信する
Zhenさんへ (Michi)
2021-02-13 14:04:00
「かな入力」…あ~、80歳近いうちの父がそれやってます。たまにパソコンを使わせてもらうと、「えっ」ってなります。外国のパソコンだと大変ですね・・・・

ああいう不必要なことに時間や労力、エネルギーを奪われるのって、とっても不毛で力が抜けます~あのカオスの沼を抜けられる日は来るのか・・・来ないかな~
返信する

コメントを投稿

多言語学習・翻訳関連」カテゴリの最新記事