この作品、縁(ゆかり)の歌劇場による本邦初演と言いたいところだが、実は2003年にびわ湖の「若杉プロジェクト」により、日本人ダブルキャストで見事な舞台になっている。今回は、題材の事件現場でもあるパレルモの歌劇場による公演ということで、大いに呼び物になっていた。南イタリアと地中海を感じさせる赤大理石の柱とアーチ、そして背景の真っ青な海。その柱のユニットの組み合わせによって場面に変化をつける。最終幕にはビザンチン様式の金色に輝くモザイクの見事な壁画が登場。簡素ながら上品で美しいフリジェーリオらしい装置である。一方、藤原の「リゴレット」に続くジョエルの演出は、ほとんど交通整理の粋を出ない感じで、ドラマとしての表現力は、それぞれの歌手の歌唱と個別な動きに依存してしまっていたように見える。期待の美貌ニッツァは、新国の歌姫ファンテーニの裏をよく務めた若手であるが、感情が良く乗った歌唱とオペラらしい大きな演技では群を抜いたが、いま一つ線が細い感じは否めなかった。テナーのヴェントレは最後まで力尽きず張りのある良い声だったが、声質が曇りがちなのが気になった。代演のアガーケはいつも通り大きな声で大雑把な歌唱に終始した。ドラマの仕掛け人であるプローチダ役のアナスターソフは、幕前に監督による不調だというアナウンスがあったが、輝きと芯のある立派な声を保ち続けで歌ったのは立派であった。しかし、高音が張れないのは致命的で、この役が好調だったら印象が随分違ったのではないかと想像すると残念である。そんなわけで、概して歌手陣は平均的な出来だった。オーケストラはかなり上質なので驚いたが、ランザー二の指揮が極めて丁寧ではあるがどこか進行に締まりがなく、推進力に欠けていたのは残念である。とりわけ台詞の部分の伴奏に劇的変化がなく、音楽的な高まりを感じさせてくれないのがもどかしかった。それにしても、この作品は、良い歌もところどころにあるが、全体的な構成のせいか、纏まった印象が持ちにくい。とりわけ、最終幕、最後の5分の大逆転には、観客の心は置いてゆかれてしまうだけという印象を今回も持った。とてもむつかし作品である。今回、私としては、南イタリアの血気盛んな演奏だと勝手に思い込み、そんな勢いで最後まで聴かせてもらえるかと想像していたが、むしろ逆にどちらかと言うと品よく綺麗にまとまった印象があって、そうした意味で期待を外してしまったという感じである。
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