生の小澤征爾を初めて聞いたのは、今は「LINE CUBE SHIBUYA」と呼ばれる「旧渋谷公会堂」だった。たぶん1970年代前半のことで、当時の文化放送の「東急ゴールデンコンサート」というラジオ番組の公開録音だったのではないだろうか。応募ハガキを出して当選して嬉々として宇田川の坂を登って会場へ向かったのを覚えている。一時間枠で他に何を演ったかの記憶は全くないのだけれど、チャイコフスキーの交響曲第4番が入っていたように記憶している。流麗で、勢いがあり、輝かしい、それまでに聞いたこともないような「めちゃくちゃかっこいい」音楽だった。その時の音楽の印象は、かろうじてパリ管を指揮して録音された同曲の音盤(1970年録音)で振り返ることができる。しかし私にとっての小澤の価値はこの初期の段階で終わっていて、その後どんどん蒸留水のように”純化”されていく彼の音楽には、どうも面白さを感じることができないままになってしまったことは誠に残念だった。ただこれは私の極めて主観的な好みの問題であって、西洋音楽の本場で、アジア人が真の音楽家として認められる先鞭を切って走り続け、最後にはその頂点に立った小澤の才能と努力は、どんなに言葉を尽くしても言い尽くすことができないものだったのだと思う。市井のクラシック音楽愛好家の一人として、心から哀悼の意を表したい。ただ近年の録音のうちにも唯一私の心を強く打つものがある。それはサイトウ・キネン・オーケストラと演ったバッハの「ロ短調ミサ」(2000年録音)だ。これは純化された音楽とミサという形式の融合が生んだ稀代の名演だと思っている。これを聞きながらその60余年の足跡を偲んでみたいと思う。
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