ジョナサン・ノットと東響による演奏会形式のモーツアルトの歌劇「ドン・ジョバンニ」である。昨年の「コジ・ファン・トゥッテ」に続くダ・ポンテ三部作の第二弾で、来年は「フィガロの結婚」が予定されている。40人に満たない小編成のオケにピリオド楽器のホルンとトランペットを加え、ノットはハンマーフリューゲルの弾き振りという昨年と同じスタイル。極めて表情豊かな風通しの良いオケと、生きの良い一流の歌手陣の歌が一体となってドラマを盛り上げる醍醐味は何とも言えない。これほどまでに密度の濃い演奏は、ピットと舞台に分かれた劇場ではまずお目にかかれないだろう。まさに「演奏会形式」のハンディを逆手にとった天晴な舞台だった。タイトルロールのミヒャエル・ナジがマーク・ストーンに、ドンナ・エルヴィーラのエンジェル・ブルーがミヒャエラ・ゼ―リンガーに急遽変更されたが、そんな負い目は何一つ感じさせない出来だった。どの歌手も粒よりで素晴らしかったが、個人的にはドンナ・アンナ役のローラ・エイキンの凛とした格調高い歌唱に最も心打たれた。リアン・リ演じる騎士長の迫力ある歌唱も印象に残った。役作りとしてはカロリーナ・ウルリヒの濃厚なツェルリーナは面白かった。マーク・ストーンのドン・ジョバンニは狡猾さが良くでていたと思う。そんな中、シェンヤンのレポレッロだけが一寸異質に映った。声は誠に立派なのだが真面目過ぎるのである。レポレッロの俗人的人間味のようなものを出せたら、ドラマに奥行が出たかなと、まあこれは無いものねだりかもしれない。それにしてもノットという人は譜面の隅々にまでに書かれた作曲家のニュアンスを良くここまで探り出してドラマと共存させるまでにオケから引き出すものだと感心する。昨年も思ったことだが、何とも楽し気に伴奏に指揮に獅子奮迅の大活躍をする指揮台のノットを見ていると、それがモーツアルトの姿とダブって見えてきた。楽しい充実の3時間20分はアットいう間に終わり、想いは来年の「フィガロ」へ続いてゆく。
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