日頃バレエを観る機会はまず無いのだが、今回は大野和士+都響がピットに入るということで、音だけのつもりで東京文化会館の天井席に出かけた。買ってから知ったのだが実はこの公演、団の創立50周年を記念した特別な公演で、美術が藤田嗣治の幻の舞台だとのこと。そんなことなら舞台の良く見える席にすればよかったと思ったが、それは後の祭りだった。僅かに5階サイドから見える範囲で言えば、やはり重厚な独特の色調だというように感じた。そして衣装については必ずしも初演の時のデザインではないようだった。さてお目当てのピットだが、最初は重厚な音で骨格の確りした響が鳴り渡り、華やかさがない感じに大いに違和感があった。それに力が入り過ぎて重苦しくもあった。だが2幕に入り、ロシアだの、スペインだの、ハンガリーだの、イタリアだのと色々な舞曲が続く所になると、途端に雰囲気が活気づいて生き生きとした音楽が流れ始めた。そして何といっても圧巻はフィナーレだった。今回使用の版はハッピーエンドのプティパ/イワノフ版だったが、そのストーリーに合致した大団円の感動は、もちろん石田種生(再演金井利休)による演出のすばらしさもあったが、大野+都響の濃厚な音楽の力無くしては決して与えられなかったであろう。こんなオケ伴の舞台を経験してしまうと、もう日頃のお手軽な伴奏では見られなくなってしまう。もっともこれは、その濃密で万全の演奏に耐えるだけの作品力あってのことだろうが。つまりチャイコフスキーの音楽が数あるバレエ曲の中でも群を抜いて立派であるということだ。(比肩し得るのはストラビンスキーとプロコフィエフかな)最後に、踊りの方を語る資格は全くないのだが、オデッタ/オディールのヤーナ・サレンコの指先まで神経が通った繊細な表現、王子のディヌ・タマズラカルの優美な跳躍は圧巻だった。
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