Maxのページ

コンサートの感想などを書き連ねます。

新国「トスカ」(7月19日)

2024年07月20日 | オペラ
2000年9月のプリミエ公演以来、ほぼ四半世紀に渡って幾度となく新国の舞台にかかり続けているアントネッロ・マダウ=ディアツの名物舞台である。私自身、その初演及び翌々年5月のノーマ・ファンティーニの舞台以来3回目となる実に久方ぶりの参戦である。この日もほぼ満員の入りでオペラパレスは賑わっていた。細部まで写実的に確りと作り込まれた舞台は、新国の舞台機構を存分に使った変化に富んだ舞台転換の動きも伴って、視覚的にはゼッフィレッリの「アイーダ」に決して負けないゴージャスなプロダクションなのではないか。だから歌手と指揮者に人を得れば、これぞオペラという大きな感動が約束されたようなものなのだが、今回はいささか不満の残る仕上がりであった。カヴァラドッシ役のテオドール・イリンカイの高音は他を圧する力強さで響き渡るのだが味わいに乏しく、私にはいささか喧しくさえ聞こえた。そしてトスカ役のジョイズ・エル=コーリーの声質はちょっとくぐもっていて明瞭さを欠き、同時に歌唱にあまり感情が乗ってこないのである。だから聞かせ所のデュエットもこちらの心にあまり響かない。スカルピアを演じた青山貴は代役のハンディがありながら健闘し、三役の中では一番のスタイリッシュな美声を聞かせはしたが、歌も演技もいささか一面的だったのが残念だった。何より栗山昌良演出よろしく正面を向いて歌うことが多く、それではトスカとの緊張感を持った責めぎ合いを含む二幕のドラマが上手く成立しない。一方アンジェロッティ役の妻屋秀和を含む日本人脇役は安定的な出来で主役連を支えた。そんな訳で今回最も良くドラマを伝えたのは名匠マウリツイオ・ベニーニ率いる東フィルだったのではないか。プッチーニのオーケストレーションの繊細さを見事に引き立たせると同時に、ダイナミックな部分では重くならずに十分鳴らしながら、しかし決して歌唱を邪魔しない実に見事な職人技には恐れ入った。