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風の馬◆チベット問題の変わらぬ今を描く

2009-04-14 18:00:35 | <カ行>
  

  「風の馬」 (1998年・アメリカ)
   WINDHORSE
昨年3月のチベット・ラサでの騒乱に始まり、2008年は北京オリンピック開催を前にチベット問題に世界が注意を向けた年だった。開催前の聖火リレーでは、世界各地で中国のチベット弾圧に対する抗議の声が上がり、日本でも「フリー・チベット」を叫ぶ人々が長野・善光寺のコース沿道に集い、大振りの五星紅旗で対抗する中国人にチベット国旗を必死に掲げていたのが印象に残っている(当ブログでも、ささやかな抗議のしるしとして「フリーチベット」のアイコンを一時期UPさせていただいた)。しかしチベットの抱える問題は、1950年に中国人民解放軍がチベットに侵攻・軍事制圧した時から、半世紀以上経ったいまもほとんど変わっていない。この映画は実話をもとに、チベットの人々がいまなお直面している現実を正面から見据えたドラマ作品だ。製作は11年前の1998年。チベット内で中国当局の監視の目をかいくぐって撮影されたという本作は、一民族の宗教と文化を弾圧することのおぞましさを切々と訴えかける。

持前の美声でラサのクラブの歌姫となり、中国人の恋人の後押しで全国デビューも目前のチベット族のドルカ(ダドゥン)。政治には無関心で、定職にも就かずに遊興の日々を送る兄ドルジェ(ジャンパ・ケルサン)。幼いころ中国兵に祖父を殺された兄妹は、中国政府の弾圧もどこ吹く風と気ままな毎日を送っていた。ところが、中国共産党がダライ・ラマへの信奉を禁じる措置を打ち出したところで、ふたりはチベット族の置かれた厳しい現実を目の当たりにすることになる。ある日、ふたりのいとこで尼僧となっていた幼なじみのペマが、信仰を踏みにじる政府の弾圧に不満を爆発させ、ラサの広場で「チベット解放!」と叫び、当局に連行されてしまったのだ。ペマは収監先で拷問を受け、瀕死の状態で兄妹の家に引き取られる。ここから、ふたりの人生は一変する・・・・・・。

中国共産党のプロパガンダに利用されると知りつつも、歌手デビューを夢見るドルカが、自身の夢とチベット族の誇りのはざまで揺れ動く姿が心に残った。ドルカ一家の中でも、母親は政府の通達どおりにダライ・ラマの写真を祭壇から撤去し、ドルカの恋人の中国人青年にへつらう態度を見せる。一方、年老いた祖母は、チベット族の宗教や風習を力でねじ伏せようとする中国人にあくまでも反発する。保身のために中国政府におもねるのか、それとも民族の矜持のために抗うべきか。そうした対立の構図が、ひとりひとりのチベット人の心の奥底に葛藤を生じている様子が、ドルカ一家のドラマを通じて伝わってくる。

西蔵鉄道の開通によって、ますます多くの中国人がチベットに流入し、文化の破壊に加速がかかるとの懸念もささやかれていることを思うと、11年前の撮影とはいえ、スクリーンいっぱいに映し出されるチベットの風景は心を打つ。タイトルの「風の馬」(ルンタ)とは、チベットの人々が土地の精霊や仏に祈りを捧げるために経文を印刷した旗で、中央には風を象徴する馬の絵が描かれている。冒頭とラストで峠の風に天高く舞い上がる無数のルンタは、世界に散っていった十数万の亡命チベット人の祈りにも思える。ダライ・ラマのインド亡命から50周年の今年、映画「風の馬」は渋谷アップリンクを皮切りに、全国で順次公開されるそうだ。


満足度:★★★★★★★★☆☆


<作品情報>
   監督・脚本・編集:ポール・ワグナー
   共同監督・共同脚本:テュプテン・ツェリン
   共同脚本:ジュリア・エリオット
   撮影監督:スティーヴ・シェクター
   出演:ダドゥン/ジャンパ・ケルサン/リチャード・チャン
       テイジェ・シルバーマン

         

<参考URL>
   ■映画公式サイト 「風の馬」
   ■関連サイト 「ダライ・ラマ法王日本代表部事務所」(日本語サイト)
            「チベットを知るために」(上記サイト内)
 


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