「ハプニング」 (2008年・アメリカ)
公式サイトで配布されている「ハプニング」のブログパーツには驚かされたが、映画本編で起きるさまざまな現象は、「シックスセンス」以来のシャマラン監督のお家芸としては、さほどのインパクトは感じなかった。かといって試写会評などで囁かれているような、期待を裏切る失敗作とも思えない。どこまでもありのままに、(語弊があるかもしれないが)適度に心地よく展開していく流れは、この世の常ならぬありさまを映し出しているようで、好感すらおぼえた。なぜなら、現状ではだれにも説明できないことは世界にいくらでもあり、その解答を拙速に求めたがるのは私たちの驕り(おごり)だと思うからだ。たとえば冒頭で主人公の科学教師・エリオット(マーク・ウォールバーグ)が生徒に問いかけるミツバチの大量失踪の謎(蜂群崩壊症候群(CCD)参照)は、ミツバチの免疫力の低下や帰巣感覚の喪失など諸説はあるものの、その原因ははっきりしていない。生徒のひとりが答えたように、「自然界には未知の領域があり、いまだ解明されないことがある」という見方がもっとも妥当であり、好意的にとれば、この映画は自然現象に翻弄される人間のありようを謙虚に受け止めるべきだと訴えているように思う。
「ハプニング」というタイトルどおり、観客は突然はじまった異常事態の中に放り込まれ、主人公と一緒に恐怖を体験する。地震や台風や津波のように、それは抗しがたい力で人々を襲い、一定の時間猛威を振るったあと収束に向かう。目に見えない脅威という意味ではウイルスや化学兵器を連想させるものの、その本体が何で、どのように人間の感覚を狂わせるのかは謎のままだ。エリオット夫婦と行動を共にする風変わりな農場主は、植物には外敵から身を守るために毒素を放出するものがあり、さらに植物どうしは種がちがってもコミュニケーションを取れると話す。この説を信じたエリオット一行は、木立や草原を吹きわたる風の声に耳を傾け、植物に不必要な刺激を与えないように注意を払いながら田園を逃げまどう(このあたりは「ゾーン」の仕掛ける罠に気を配りながら廃屋を目指して草むらを進む「ストーカー」のシーンと似たものを感じる)。森の梢から吹き降りた風が、草をなぎ倒しながら一行の頭上を掠める場面は、スリリングでありながら自然のたおやかさと神秘性を感じさせて、なぜか清々しい。本来、自然界にはかすかな音や光や風の動きがあり、そこにはさまざまな変化を暗示する兆候が表れているのかもしれず、私たちが五感を研ぎ澄まして謙虚に問いかければ、自然は多くの答えを与えてくれるかもしれない。エリオットたちの安全への逃避行は、近代以降私たちが失ってしまった、人と自然が本来取り結ぶべき絆のかたちを暗示しているようで興味深い。
アメリカ東部を襲った異常現象は解明されないまま収束し、ヨーロッパへ飛び火するシーンで映画は終わる。自然への畏怖の念を喚起することが監督の意図だとしたら、あえて事態に説明を加えないという演出は納得がいく。ネット上に散見される「2012年地球滅亡説」を挙げるまでもなく、数年後には現実となるかもしれない脅威はすでに私たちの日常に影を落としている。「ハプニング」はもうシャマラン監督の描いた絵空事ではないと感じるくらいの感性は、だれもが持つべき世界になってしまった。残念なことではあるけれど・・・・・・。
満足度:★★★★★★★☆☆☆
<作品情報>
監督・製作・脚本:M・ナイト・シャマラン
撮影:タク・フジモト
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演:マーク・ウォールバーグ/ズーイー・デシャネル/ジョン・レグイザモ
ベティ・バックリー/アシュリン・サンチェス
<参考URL>
■映画公式サイト 「ハプニング」
■Wikipedia 蜂群崩壊症候群(CCD)
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「ハプニング」レヴュー非常に興味深く読ませていただきました。
この「ハプニング」では恐怖の対象がゾンビやらジェイソンやらレザーフェイスやらではなく「自然現象」であるとのこと、これはこれでホラー映画的恐怖とは一味違った恐怖を味わえそうです。
「地球温暖化」が現実のものになりつつあるらしい現在ではこれは全く新たな恐怖だと思います。
題名は失念しましたが⌒ー⌒;植物も「痛み」を感じることがあり、自然破壊し続ける人間に復讐するという恐怖漫画があった記憶がありますが、そのような「自然の復讐」の恐ろしさを扱った映画だと思いました。
総じて暑い夏をひんやりと涼しくしてくれそうな映画でわたしも映画館にこの映画を観にいきたくなりました。⌒ー⌒
PS 「例の件」改めてこすもさんにメールしますのでもう少しお待ちを~
それではまた~♪
かなり悪評が立っています^^;
たしかに暑いなか1800円を払ってまで行く映画かと聞かれれば
DVDのレンタルで充分だったかも知れません
ただ、わたし的には対象のはっきりしない恐怖も許容範囲と感じたので
星はやや多めになりました。
>植物も「痛み」を感じることがあり
そのようですね。心地よい音楽や優しい言葉が植物の成長にプラスに働いたり
逆にひどい言葉を浴びせると萎れてしまったりという説は耳にします。
動いたり、音を出したりできないのでふだんは風景の中にまぎれていますが
植物の世界にはきっと未知のことがらがたくさんあるのでしょうね
温暖化や疫病の蔓延が「自然の復讐」であるとしたら、
もう少し謙虚にならないとこういう形の破滅もあり得るなぁと
少しひんやりした気分になりました
★YUKAの気ままな有閑日記★の由香と申します。
いつもTBでお世話になっております。
今後とも宜しくお願い致します
私は本作にかなり辛口の感想を持ってしまいました(汗)
終盤までの描き方はなかなか上手いなぁ~と思ったんです。恐怖の煽り方も、自然(おもに植物)の位置づけも。
でも、、、感覚的な問題なのでしょうが、どう~も監督さんはさほどメッセージ性を作品に込めようとしたわけでもないのではないか?と感じてしまったのです。
観る者が考えようと思えば、色々と考えられる要素はあるのですが、監督自身にはその意志はなく、ただ「理由の分からない恐怖」を描こうとしたのではないか―?って思えてしまって、、、とっても捻くれた見方ですよね~ちょっと自己嫌悪です。
こちらこそTBではいつもお世話になっております。
今後ともよろしくお願いします☆
いえいえ、捻くれた見方だなんて(^^;)
由香さんはじめ多くの方のきびしい批評を読んで
こちらこそかなり甘い点を付けてしまったかなぁと反省です。
私はシャマラン作品に特有の色彩やせりふや演出の妙は
けっこう楽しんでいたほうなので自然と甘めになってしまいましたが、
登場人物の人間描写は全くといっていいほど説得力に欠けていましたね。
実はマーク・ウォールバーグの起用には密かに期待していたのですが、
教師役があまりにも空回りで痛々しく思えたのが残念に思いました。
異常現象の謎よりも、人間描写のほうが私には深い謎として残りました(笑)
「現状ではだれにも説明できないことは世界にいくらでもあり」ですよね。
世の中で起こっている天災、事件、殺人、テロ、戦争等、理由・原因は後付けですからね。
最近の日本での無差別殺人にしても、ああいう理由で他人を殺すの?と驚くのと同時に、何か他の力が?と考えてしまいました。
それはそれとして、作品の「結」をぼやかしてしまったのシャラマンに、賛否両論がある事も理解できます。
また、来ます。
後、ブックマークに入れさせて頂きます。
事態の渦中にいるときは、なかなか納得のいく説明を得られないことはありますよね。
もっともらしい理由がわかるのは、すべてが終わった後。
同時進行では因果関係の見えにくいに何かに直面したときの私たちの反応は
多かれ少なかれ、この映画に描かれたような感じになるだろうなと思いました。
もちろん、はっきりした結末を期待される方々の気持もよくわかりましたが・・・。
当方も「うだるありぞな」をマイPCの〈お気に入りブログ〉に入れさせていただきました。
アリゾナ発のホットな情報に期待しています。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします
>絵空事ではないと感じるくらい
私もそう思いました。
花粉症がエスカレートしたと思えば、ありえない話ではないですね。
また、1日で終息してしまうところには、妙なリアリティを感じ、恐ろしかったです。
自然をあなどってはいけない、というメッセージが
それこそ自然に感じられる作品でしたね。
花粉症もたしかに植物由来の疾患ですが、
エスカレートしたら・・・と考えると空恐ろしいです。
作品中の謎の現象は1日で終わりましたが、
新型インフルエンザはきっと何日も続くのでしょうね。
残された日々に何ができるのかと、ついつい考えてしまいます
夫婦でシネマのwancoです。
コメント、ありがとうございました。
今回のナイトシャマラン作品は、ブロガーの間でも評価が低いので、たまに高評価の方に出会えるのは嬉しいです。
>森の梢から吹き降りた風が、草をなぎ倒しながら・・・
そんな日常の何気ない風景を超常サスペンスに仕立て上げてしまうシャマランの手法が大好きです。
派手な描写なしでここまで引っ張る彼の手腕をもっと評価しても良いのではと思いました。
それでは、またお邪魔するかと思いますが、今後ともよろしくお願いします。
きびしい評価が多いなか、高評価を付けた方の記事を
私もうれしく拝見しました。
レビューを書いた時点では考えが及びませんでしたが、
やはり異常事態に襲われた人々には一定のパターンがありそうですね。
それを頭に置きながら、改めてみてみたいと思いました。
仕掛けを大事にするシャマラン監督の手法は、観客を驚かせたいという
映画人としての旺盛なサービス精神から来るのかもしれませんね。
そういう意味では、けっこうお茶目な人なのかなと思ったりもします^^
こちらからもまたおじゃまさせていただきます。
今後ともどうぞよろしくお願いします♪