「デス・レース」 (2008年・アメリカ)
焼けた鋼鉄と硝煙が画面から臭い立ち、軋むタイヤが発する熱がフィルムの色調を鋼色に染めていく・・・・・・。時は2012年。経済が崩壊し、失業者が巷にあふれた近未来のアメリカ。民間企業が運営する孤島の刑務所を舞台に、囚人たちの命賭けのカー・レースを迫真のアクションで描く。「バイオハザード」シリーズや「エイリアンVSプレデター」でおなじみのポール・W・S・アンダーソン監督が、ロジャー・コーマン製作の「デス・レース2000年」を大幅に脚色したリメイク作品。あくまでも実写にこだわり、危険なカーレースを精巧かつ大胆なカメラワークでとらえた映像は、半端ない迫力に満ちている。
今年9月以降悪化した金融危機で、景気後退がいっそう深刻化しているアメリカの状況を、まるで先取りしたかのような設定に思わず苦笑い。一時高騰した原油価格もなんのその、大量のガソリンをまき散らす改造レースカーの爆走は、世界的な不況を蹴散らそうといわんばかりの荒々しさだ。車と鋼を主役に据えてラストまで突っ走る演出は、金融危機の直撃を受けたアメリカの自動車業界を鼓舞するように見えるからおもしろい。とはいえ全編を通して、重金属がぶつかり合う衝撃と流血の映像はすさまじく、バイオレンスが不向きな方にはそれなりの覚悟がいるかもしれない。
主演のジェイソン・ステイサムは「トランスポーター」シリーズの腕を買われて(?)、今回は凄腕の元レーサー役。不況のあおりで勤務先の製鉄所から解雇された夜、妻殺しの罪を着せられて、凶悪犯の収容される海上の刑務所「ターミナル・アイランド」に送られる。製鉄所で鍛えられたその肉体は、労働者の証である硬い筋肉を鎧のようにまとっていて、まさに重厚な“鋼”の雰囲気。一方、登場するレースカーは硬い装甲でボディを覆い、マシンガンや重火器を搭載する重量級の鉄の塊だ。デス・レースの舞台となるターミナル・アイランドも、ロケーションに選んだのは鉄道車両工場の跡地というから、これら鉄や鋼のメタファーが意味することろは文字通り“鉄の復権”、すなわち重厚なるものへの回帰と考えては行きすぎか。筋肉といい、鉄といい、実車を使ったスタントといい、柔から剛へのベクトルが作品のあちらこちらに散りばめられている。
若者の車離れがささやかれる今の時代に、改造スポーツカーとナビゲーター役の美女たちが、若い観客にどれだけアピールするかは疑問だけれど、スーパーカーに夢中になった世代や、車と美女こそ男のステイタスと固く信じていた世代には、身中の血が沸き立つ大人の男の娯楽作だろう。しかし、レースのネット中継の視聴率を吊り上げようと画策する冷血な女刑務所長の陰謀に、レース・チームが勝利する爽快感は、客席のだれもが共有できること請け合いだ。髪は薄かろうが、信頼できる寡黙な男の魅力を毎回見せつけるジェイソン・ステイサム。今回は背部の筋肉の見事な鍛えっぷりが見ものである。
【トリビアル・メモランダム】
今回の主役である改造レースカーの車種/おもな装備:
・フォード・マスタング2000GT(2006)/4分の3インチの装甲板
・ダッジ・ラム1500 4WD(2004)/バルカン砲、30インチのマシンガン
・ビュイック・リビエラ(1966)/第二次大戦時の米ソ両国のマシンガン
・ポルシェ911(1978)/ヘルファイア・ミサイル
・ジャガーXJS(1989)/M2重機関銃
・クライスラー300C(2006)/MAG58マシンガン
満足度:★★★★★★☆☆☆☆
<作品情報>
監督・脚本:ポール・W・S・アンダーソン
製作総指揮:ロジャー・コーマン/デニス・E・ジョーンズ
撮影:スコット・キーヴァン
出演:ジェイソン・ステイサム/タイリース・ギブソン/イアン・マクシェーン
ナタリー・マルティネス/ジョーン・アレン
<参考URL>
■映画公式サイト 「デス・レース」
■参考作品のDVD 「デスレース2000」
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ゆうべご覧になるとのお話でしたが、いかがでしたでしょうか?
映像センスがいいせいか、過激なシーンも思ったほど刺激的ではなかったのが救いです(苦笑)
ぜひまたお立ち寄りくださいね♪
ずいぶんたくさんの映画を観ていらっしゃるのですね。
作品の前半はカーペンターに似ていましたか?
私はまったく気づきませんでした(苦笑
刑務所長のジョアン・アレンは冷血な感じが役柄にぴったりで印象に残りましたね。
「デスレース2000」ではフランケンシュタインがデビッド・キャラダイン、
スタローンはマシンガン・ジョー役だったとか。
機会があったら一度観てみたいです。
「バンク・ジョブ」はシネマライズでしたね?
「デス・レース」より観たかったのですが、結局近場の劇場でやっているこちらにしてしまいました・・・
アメリカ人にとって、名車と言えば、やはりマスタングなのでしょうか。
なんというタイミングだったのでしょうね(苦笑)
2012年といえば、易経やマヤ暦、ウェブボットなどの予言(?)でいえば
世界の破滅の年。そういう意味でもこの設定には
いく分かのリアリティを感じました。
マスタング・・・私は詳しくないのですが、フォードですからきっとそうなのかも。
デトロイトの御三家がああいう状態ですから、これも皮肉に見えますよね(笑)