音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

内定取り消しという大罪

2008-12-01 07:26:29 | 時事問題
先週の金曜日、月末ということもあり帝国データバンクの大型倒産速報サイトをチェックしていたら、なんとモリモト<8829・東証2部>が民事再生法の申立てをしているではありませんか! ここよりもむしろサンシティの方を心配していたのですが、先にモリモトが逝ってしまったようです。2月に上場したばかりですが、中堅の企業規模にしては負債総額も1615億円とやたらでかいです。うーん・・・、ここには新卒同期の友人が在籍しているはずなので心配です。不動産業界の土砂降りは当分やみそうにありません。

日本綜合地所、53人内定取り消し 一部学生が団交へ
マンション分譲の日本綜合地所(東京)が来春入社予定の大学4年生53人全員の内定を取り消したことが28日、分かった。 日本綜合地所が内定者に取り消しの通告をしたのは17日。電話で個別に連絡し「担当役員が自宅まで説明に行く」と伝達したという。同社経営企画部は内定取り消しの経緯について「まだ学生への説明が終わっておらず、現段階では詳しいコメントはできない」としている。日本綜合地所は首都圏を中心にマンション分譲事業を展開しており、分譲価格の下落や販売戸数の伸び悩みなどが内定取り消しの背景にあるとみられる。(日本経済新聞)

風邪気味だったので早く帰宅してNHKのニュース9をつけたら、ちょうど内定取り消しの通告を受けた学生がTVのインタビューを受けているところで、たぶん前掲の日本綜合地所だと推察されます。第一志望の会社に内定し希望に胸を膨らませていた矢先のことで、会社から「入社までに宅建をとっておくように」と研修用に送られてきたテキストに、律儀にアンダーラインなど引いてあったのも哀しい。つい「ふぞろいの林檎たち」で一流商社に内定が決まって、ヘッドホンで英会話のテープ聴いて必死こいて勉強していた岩田健一(時任三郎)の姿がオーバーラップしました。彼の場合、夜間のビル警備のバイトで自殺を思い止まらせた一流総合商社の部長に見込まれ内定を得たわけですが、その後に肝腎の部長の失脚で話がご破算になります。内定取り消しを詫びるために、部長が岩田のボロアパートの階段を上がって訪ねてくるシーンはよく覚えています。

世の中に犯罪ではないけれど絶対にやっちゃいけないことがあるとすれば、それは(企業側の都合による)内定取り消しだと思えるほどに、これは本当に罪が深い。若い人の出鼻をくじくという意味で、精神的なダメージもさることながら逸失利益も考えなくてはいけないでしょう。ある企業は内定取り消しの学生に42万円の補償金を払うと報じられていますが(算出根拠不明)、それじゃあ全然足りまへん。

ふぞろいの健一は、その時点までに就職が決まっていた小さな町工場の人の好さそうな社長に断りを入れているのだし、前出の学生だって就活で5社の内定をゲットしていたそうですから、他社を蹴って来春の入社に備えているわけです。これが百歩譲って6月とか7月であればまだしも、もう師走を迎えるというこの時期です。学生も一度フィニッシュした就活モードを元に戻すのは容易でないし、そもそも企業側も09年新卒採用は店仕舞いしています。

社会的イメージダウンや、その大学から2度と人材を獲得できなくなるという代償を払っても内定取り消しを敢行した企業の内情は火の車であり、相当にヤバイのは間違いないのだから、そんな会社には行かない方が良いのでは?という意見もあるでしょう。でも好きな娘から「ワタシよりもっといい人いるよ」とおためごかしを云われて悔しくない男はいないのであって、内定という約束を反故にされた傷はずーっと残ります。内定は雇用関係に準ずるもので、むやみに解消できないというのが法曹界の見解ですが、たとえどんなに予期せぬ経済状況の変化が出来したとしても、企業はいったん内定を出したら、新卒・中途を問わず雇用すべきだと考えます。たとえ半年後に倒産することになっても、です。

だって、この段階で切られてしまっては何も残らないのです。

件の学生は履歴書に
2008年6月   株式会社日本綜合地所内定
2008年11月  株式会社日本綜合地所内定取り消し
とまさか書くわけにもいかないでしょう。

一般の企業は就職浪人やフリーター上がりよりも第二新卒を選びます。それは社会人としての基礎教育の手間が省けるというだけではなく、「一度どこかに選ばれた経歴」に価値を見出しているからです。名の通った企業が内定を出すまでは、面接だけでなくその過程で色んな人間のフィルターにかけ、場合によっては探偵事務所を雇って実家周辺を洗ったりもしていますから、新卒入社歴はその人間の最低限の品質証明として機能するのです。入社前後の研修だけでなく、生涯一度の新卒ルーキーとして企業社会の空気を吸うという経験はプライスレスで、お金で買えない価値があるといえます。だから、得られるはずだった無形資産を取り上げることになる内定取り消しは禁じ手なのです。

一般に想像(期待)されているほど、世間に目利きというのは存在しておらず、企業の人事部に人を見る目なんてありゃしません。「他社で決まっている」と言った瞬間に態度がコロッと変わって内定が出たりした経験を持つ人は少なくないでしょう。内定は出る人には沢山出て、出ない人にはさっぱり出ないのはそのためで、本人の実力以外の要素があるのです。プロ野球でも、巨人のスカウトの眼力がないのは伝統的で、昔から南海や西武といった辣腕スカウトの後を金魚のふんみたいに付いてまわっていたそうです。有望選手を発掘するノウハウや人脈がないから、後から押し掛けて札束攻撃するしかないのですね。

以前ある30代の女性の知人と話をしたとき、彼女が真剣に付き合っている男性の話になりました。その彼氏はバツイチだったそうですが、訊いてもいないのに、しきりに「1回結婚しているから変な人ではない」という意味のことを言うので、離婚歴はプラスの評価ポイントになるんだなあと感じ入りました。彼女の目がハートマークになっていたので、「結婚生活が不調に終わった原因は問わないの?」などという野暮な質問は控えましたが。。。 日本人は特に「ラベル」信仰が強いといわれますが、格付けやランキングを有難がるのも同様でしょう。自分の見立てに自信が持てないから、人が下す評価をアテにするのです。

私は幸いにして、勤務する会社が倒産の憂き目に遭うという事態を経験したことがないので、どんな種類の困難が襲ってくるのかはわかりません。でも山一や三洋証券のような過去の破綻企業の例を見ても、その後の元社員たちは各地に納まっていますから、名の通った企業であればOBの人的ネットワークも再就職には有効でしょう。自らが能動的に転職活動する場合も、「何処にいた」というバックグランドは話のネタになり意外に使えるものです。

53人の内定者の首を切った日本綜合地所には、さすがに東京労働局が調査に入るみたいですが、来年の採用は各社急ブレーキがかかりそうな雲行きです。事実巷では氷河期復活の声も出ています。不動産業界は離職率が高い代わりに新卒を大量に採用するので、採用好景気の数字を下支えする存在でした。

内定を出したからには責任持って雇用するという、当然のことが企業に求められています。


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3 コメント

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ごもっとも! (TK)
2008-12-01 09:20:28
おはようございます。

内定取り消しは本当に痛いですね。
企業側はそういう判断は最後の最後というか絶対にしてはならないですね。古株をリストラしてでも。
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問題は内定取り消しじゃないんだよね (マルセル)
2008-12-01 13:20:48
問題は内定取り消しじゃないんだよね。
日本ってその受け皿がないんですよ、今の25~30歳くらいの若者に、新卒より遙かに優秀な人間がゴロゴロいる、でも彼らは就職時に職にあぶれたので相手にされないのです。
まあ恥を忍んで第二希望、第三希望だった、今回の危機の影響が軽微と思われる内定を貰ったトコに行ってどう扱われるかだけど、企業側も変なプライドは捨てることだと思うのですが...
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コメントありがとうございます。 (音次郎)
2008-12-02 00:40:39
>TKさん、毎度ありがとうございます。
さっき読んだ山口先生のエントリーで、「IRの観点からも、内定取り消し企業は社名を公表すべき」というのは禿同でした。
http://www.h-yamaguchi.net/2008/12/post-0db7.html

>マルセルさん、TBありがとうございます。
企業が未だ新卒学生偏重の採用をしており、第二新卒もその一種であるとすれば、たしかに恥も外聞もかなぐり捨てて、とりあえずどこかに潜り込む方が得策と思います。
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