音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

介護を考える

2008-11-12 23:39:51 | 時事問題
テレビ朝日の新番組「報道発 ドキュメンタリ宣言」の平均視聴率が関東地区で22・9%(関西20・6%)と、高視聴率を記録したそうですが、第1回目は「長門裕之&南田洋子夫婦 密着ドキュメント」と銘打ち、“老い”をテーマに認知症の妻に寄り添う夫の姿をTVカメラが追ったものでした。

青春映画のヒーローとヒロインも市井の平凡な夫婦にも老化は等しくやってくるわけで、しばらく見ないうちに南田洋子も随分ばあさんになったなあと驚いたんですが、15年前に死んだ祖母に風貌がどことなく似ているような気もして、一瞬はっとさせられました。うちの場合も祖母が姉さん女房で、最晩年は夫が面倒をみていましたが、典型的な老老介護で最後には祖父が疲れ切ってしまったのでした。

実は私の妻もデイサービスセンターで働いているのですが、最近転職を考えるようになりました。なじみのない方のために補足すると、デイサービスというのは、在宅で介護を受ける高齢者に日帰りで食事や入浴やレクリエーションなどを提供する施設サービスのことです。スクールバスみたいにワゴン車で廻り、利用者をピックアップして一同に集めるので、同じような年齢や症状の人との触れ合いができるのが利点の一つとなっています。訪問介護が家庭教師なら、デイは塾に喩えられるでしょうか。こうしたサービスは、利用者自身の「日々の生活の充実」「身体機能の維持」などが主目的ですが、家族の負担軽減や気分転換というメリットも大きいようです。それが証拠に、GWやお盆・正月などの連休前後にはお泊り介護コースの利用が増える傾向があります。これは家族が気晴らしに旅行に行ったりするからでしょうが、この辺は託児所やペットホテルなどとも似ています。

妻は祖父母と同居して育ったので、年寄りの世話をするのは当たり前と考えるところがありまして、以前から福祉の仕事にも意欲的でした。介護福祉士2級の資格をとり、ここ4年近く同じ施設でヘルパーの仕事に従事していましたが、老人介護にやりがいを感じていて、利用者である高齢者たちとの話題づくりにと、昭和史の本や出身県別性格早わかりのような本を読んで勉強したり、懐メロのCDを借りてきたりと、よく仕込みをしていたものです。

それでは何故やめるのかというと、理由は腰痛です。

職場環境にも恵まれ、あと1年とちょっとでケアマネージャーの受験資格も得ることができます。それに合格すればバックヤードでマネジメント的な仕事をする道も拓けます。それを目標に頑張ってきたのですが、そこまで到達する前に腰の方が悲鳴をあげて、ついに限界を迎えたというわけです。

ある団体の行ったアンケートによると、介護実務に携わる人の半数以上が腰痛を自覚しているといいますから、これはヘルパーの職業病です。デイに来る人(と送り出す家族)の最大の目的は入浴ですから、入浴補助は最重要任務です。だからどうしても前屈性腰痛を患うスタッフが多いのです。実際、妻の職場の同僚の中には、一時期は歩行さえも困難になるほどの重篤な状態に陥った人が複数いるようで、とても他人事ではないのです。私自身は腰痛の経験がないので今ひとつ実感がわかないのですが、腰は全ての動作の基盤であり、他の部位と比較しても「何をしても、どの体勢でも痛い」となるのが厄介なところです。この先の長い人生を考えると、シャレにならないレベルまで腰痛が進行するのは怖いので、夫婦でよく話し合った結果、泣く泣く今の仕事を続けることを断念する結論に至りました。

もちろん補助器具や、予防のための腰痛体操のプログラムなどもありますが、私が話を聞いていて感じるのは、この業界にもっと多くの男手が必要だということです。これから団塊世代の栄養の行き届いた方々の老齢化が進み、80㎏近いメタボ高齢者が施設に押し寄せてきて、入浴では全体重を預けてくることを考えると、女性の担い手だけでは厳しいと思うのです。しかし、まだまだ男性のスタッフの数は多くありません。

妻に聞くと、仕事の内容からして腰痛に男も女もないと言います。事実、男性でも患っている人がいるそうですから。 でもその人の場合、職場に男性の数が少ないがゆえに「重い人」や「厄介な人」が集中し負担がかかっているともいえます。

職場には福祉系の大学からも度々インターンの実習生が来るようです。総じて男子学生は将来を悲観的に捉えており、社会福祉士なども視野に入れているようです。それもそのはず先輩たちは年収200万円台で、付き合っている彼女との結婚もままならない状態を余儀なくされているのです。若いスタッフ夫婦でも二人合わせて年収400万円未満というのは厳しい。

「キツイ仕事はギャラが高い」というのが世間の通り相場だと思っていましたが、介護業界にはそれが当てはまりません。そこそこ食える仕事でイメージだけが悪いという場合は、周防監督に介護の映画を撮ってもらうとか、一昔前ならキムタクが介護ヘルパーに扮したドラマをつくるといった振興策が考えられますが、その前に収入レベルをもっと上げていかなくては話になりません。具体的には、20代の男性が正雇用のフルタイムで働いて、普通に年収500万円以上が得られるようにならないでしょうか。そうすれば意欲のある人材を活用する機会が増えるかもしれません。。

ちょっと前に、「時事を考える」のマルセルさんが、正しい“1兆円”の使い道の提言をされておられましたが、このセクターにお金を投下して人材を集めることには大賛成です。スポットでも恒常的にも、収入支援していく必要があります。そうしないと、この超高齢化社会が、いずれ立ち行かなくなるからです。10年で59兆円の道路予算を削って、教育・農業(土木ではなくソフト面)・介護に予算をまわしていくことを真剣に考えた方が良い時期にきているのではないでしょうか。


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4 コメント

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Unknown (滑稽本)
2008-11-13 17:04:14
福祉問題のやっかいな所は、福祉をやってる連中に経済感覚が欠如している事なんですよね。
それ故にこの薄給がまかり通るワケで。

もう、10年くらいは安値で放置されてるハズなので、改善する気が無かったワケです。



ちなみに、腰痛は鍼とカイロプラクティクじゃないでしょうか?
腕の良いトコに通えるなら、多分介護を続けられると思いますよ。
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Unknown (マルセル)
2008-11-13 20:35:38
> 福祉をやってる連中に経済感覚が欠如している事

株式会社じゃなくてNPO法人にして、頭にビジネス感覚が鋭い人間を持ってこないと駄目です。

> 正しい“1兆円”の使い道の提言

ドモ、道路予算が59兆円もあるならうち5%を介護士の給与補助に回せば、フルタイムの人で年収600万円、ハーフタイムの人で年収300万円はいけるでしょ。
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Unknown (すみれ)
2008-11-16 01:11:26
「教育、農業、介護に予算を回していくべき」
本当にその通りだと思います。
政治ってどうなってるんでしょうね。
民主主義といっても、国民が思っていることにお構いなしに動いているような気がします。
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コメントありがとうございます (音次郎)
2008-11-16 13:45:35
>滑稽本さん、ご助言ありがとうございます。
妻は昔カイロで悪化したトラウマが抜けずに敬遠していましたが、腰痛専門の良さそげな整体をみつけたので、来週にも行ってみようかと。
たしかにその職場の理事長も「うちは儲けなくてよい」という思想のようで、それはユーザーフレンドリーではあるのですが、従業員にとっては・・・。

>マルセルさん、毎度です。
施設の経営と従業員の生活が安定してくれば、経済もうまくまわっていくと思いますね。

>すみれさん、こんにちは。
日本はインサイダー政治なので、介護のように比較的歴史の浅い業界はロビイストが不在で、うまく政策に結びつかないのかもしれません。
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