音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

マイケルで2009年を振り返る

2009-12-30 02:13:50 | 時事問題
今年もあと僅かになりました。あまり意識しなかったのだけれど00年代も終わるのですね。個人的には、弟の結婚、上司の急死、iPhone導入とツイッター開始(これらはつながっている)、空手道場入門といったところが今年のトピックでしたが、この10年の掉尾を飾るにふさわしい動きのあった2009年を振り返ってみました。

なんといっても最大の出来事はマイケル・ジャクソン逝去だったのではないかと思います。1977年のエルビス・プレスリー、1980年のジョン・レノンと同様に、いやそれ以上のインパクトで、2009年という年は人々の記憶に刻まれることになるでしょう。

考えてみると、今年の5大ニュースをマイケル・ジャクソンつながりで語れてしまうのです。多少の後付けはご容赦ください。

○米国憲政史上初の黒人大統領誕生
大統領選のフィーバーは昨年でしたが、今年始めの大統領就任式はやはり歴史的な出来事でした。オバマ大統領は今でもMJの曲を全曲iPodに入れていると公言していますが、当然「先駆者」へのリスペクトがあるのでしょう。MJは黒人大統領の誕生を見届けてから天に召されたのだという見方もあります。

○村上春樹『1Q84』大ヒット
異常というほどの記録的な売れ行きを示したこの小説ですが、春樹作品をずーっと読んできている人間は誰しも本作が異色であることに気がつきました。一つは長編で初めて女性主人公が登場したことで、このヒロインは子ども時代にエホバの証人をモデルにした宗教に苦しめられます。もう一つ新鮮だったのが、父親という存在が前面に出てきたことで、「父」の支配と抑圧が一つのテーマになっています。

MJも母親がエホバの証人の敬虔な信者であり、他者との気軽な交流が許されずにクリスマスや誕生日も祝うことのできない少年時代を送りました。禁欲的で厳しい戒律は、MJが生涯にわたってドラッグに手を染めず、女性に溺れることがなかったという意味で罪の部分だけではないものの、人生に大きな影響を与えています。ただMJの場合は複雑で、大人になってからも変装して、戸別訪問というエホバ独特の宣教活動に積極的に参加していました。スーパースターを超える存在になってしまったがゆえのプレッシャーやストレスを癒す場所になっていた面もあるのです。

シカゴの貧しい工場労働者だったMJの父ジョー・ジャクソンはミュージシャンとして世に出たいという叶わぬ夢を息子達に託し、星一徹ばりの猛烈なスパルタ教育を兄弟に施しました。それは虐待ともいえるほど凄まじいもので、思い出しただけでも吐き気がするとインタビューで語っています。「(物心ついた頃からショービジネスの世界に叩き込まれたので)自分には子ども時代がなかった」「お父さんの愛情が欲しかった」が口癖だったMJも、近年は自分に子どもができたこともあり、父親とはいい関係だったそうです。

それからMJにとってプロの世界での育ての父、モータウン創業者のベリー・ゴーディーの抑圧も見逃せません。ジャクソン5売り出しに成功した恩人であるのはたしかですが、厳しい契約条件と安いギャラは吉本興業も真っ青で、モータウンのコンセプトは「白人マーケットに受け容れられる」ことでしたから、歌はメッセージ性を排した愛だの恋だのというテーマオンリー、取材のコメントなども厳しく管理されました。バブルガム(子供向け)ソウルの時期を過ぎてもセルフプロデュースを決して許さず、徹底的に自社の練り上げたヒット曲製造システムへのビルトインを強いたのです。ただ、ベリー・ゴーディーは追悼式の弔辞とともに、今年新装版の出たMJの自伝「ムーンウォーク」にじーんとくるような序文を寄せています。

○インフルエンザ大流行?
今となってみると、あの騒動はなんだったのかという気がしてきます。たしかに秋には小学校も学級閉鎖が相次ぎましたが、「鳥」や「季節性」と異なり、タミフルという処方薬がある新型インフルは、怖さという意味では事故や災害に及ばないと思っていました。しかし初夏の頃の通勤時間帯の駅の改札やホームに現れたのは異様な光景でした。みーんなマスクしてる・・・・。私も流行にのって2日間くらいしましたが、息苦しくてすぐやめました。12月に入っても奥さんのいいつけで頑なにマスクをしている健康な同僚は周囲の失笑をかっています。というわけで、マスクといえばMJです。誘拐を防ぐためにと子ども達に大きなマスクをさせているこの写真は、これで歩いていたらこの親子は余計目立つんじゃ・・・。まさに頭隠して尻隠さずで、自分から有名人だといっているようなものです。あの猿とともに、マイケル奇人説を広める役割を果たした大きなマスクでしたが、傍から見たら滑稽でも、生涯他者の視線に悩まされたMJの防御策であったと考えると切なくなります。

○西松建設違法献金事件
小沢一郎はあんなに金集めてどうすんの?という巷の疑問には、夏の衆議院選挙で重点選挙区の各候補者(小沢ガールズだけではない)に私設秘書を派遣・常駐させ梃入れするという他の政治家(自分のことだけで精一杯)にはできないことをやって民主を大勝利に導いたことで一応の答えを出しました。代表辞任のきっかけになった西松問題はかなり無理筋で、その強引な立件にはいつになく批判が集まりました。折りしも、佐藤優やホリエモンといった「国策捜査」で酷い目にあった論客たちが娑婆に戻ってきていて、メディアやネットで活発な言論活動しているのも、検察ファッショという世論を後押ししたように思います。

93年から亡くなるまでのMJの音楽活動に相当なダメージを与えただけでなく、寿命を縮めるのに一役買った2度の少年虐待疑惑と裁判ですが、今日ではそれが冤罪と呼ぶにも抵抗があるほどのレベルの低いでっち上げだったことが多くの人に認識されています。無防備で世間知らずのMJが下手に一般人と交流してしまったがゆえに、性質の悪い粘着のタカリ屋にひっかかったのだと。ただ、これを立件化するのに異常な執念を燃やした人物がいます。カリフォルニア州サンタバーバラ地方の白人検事トム・スネドンです。彼の所業はこのサイトに詳しいのですが、当時の検察は、マイケル・ジャクソンを刑務所に送ろうと、検察史上で最高の費用と時間をかけたといわれています。もちろん人種的な背景もあるでしょうが、どの国でも検察の暴力はとてつもない破壊力を持っていて、一人の偉大なアーチストをも殺してしまうという哀しい事例です。

○タイガー・ウッズが不倫騒動でツアー無期限自粛
タイガーの奥さんは非常に気が強い女性のようで、ゴルフをレッスンプロに教わっているそうです。夫であるタイガーが教えると喧嘩になっちゃうから。恐妻家の端くれである私も身につまされるエピソードですが、これは夫婦の問題だと思うのです。前のエントリーでも述べたように、この騒動も人種差別的なファクターを感じます。それとまた針小棒大なメディアの集団いじめが始まったなと。

音楽評論家の吉岡正晴氏は「メディアに翻弄された犠牲者」として以下のテキストをMJ追悼ムックに寄稿しています。

彼はメディアによって誰もが想像し得ないほどの世界最大のスーパースターになった人物だが、同じくメディアによって誰もが想像し得ないほどの地獄へ落とされたエンターテイナーである、ということだ。スターにしたのもメディア、スターの座から引きずり降ろそうとしたのもメディア。諸刃の剣であるメディアの残虐性が最も顕著に出た例であり、マイケル・ジャクソンはメディアに翻弄された最大級の犠牲者でもあった。いわば20世紀最大の「メディアの生贄」となったのである。そこには黒人であるマイケルと白人が主導するメディアの対立軸も見え隠れする。

タイガー・ウッズを21世紀のメディアの犠牲者にしてはならないと思います。


さて来年はどんな年になるのでしょう。



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2 コメント

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年末の御礼 (meici)
2009-12-31 17:47:05
音二郎さんのHPでは、本当に様々な刺激を受け、ついつい拙いコメントを残してしまい、年末ですので、お詫びと御礼を申し上げたいと思います。
過去の記事でも、とっても反応したいものがいくつもあるのです、本当は。
来年もしっかり読ませていただきたいと、楽しみにしております。

オバマ大統領就任は予測できたものの、MJの死は突然だったこともあって、衝撃が大きかったように思います。
アメリカでの反応は、一言では言い表せないものでした。
最初はMJのレコードセールスなど記録を紹介し、客観的に表現されていたものが、
当時のMVなどが映像として皆の目に入るようになって、だんだん熱くなってきたところは、アーティストとして、作品で評価されてきたの感じるところでした。
しかし、死因が薬物関連であり、世評は良いとはいえない状況にあったMJについて、米メディアの大物達は最初、一線を置く表現をしていました。例えばオプラ・ウインフリーはネバーランドでMJにインタビューまでしていたのに、いつもの歯切れのいい話ぶりではない、客観的な言い回しでした。同じ黒人として、MJ側は危険、というような・・。オバマ大統領の最初のコメントもそんなでしたよね。ウーピー・ゴールドバーグはエンターテイナーとして、MJ側で、あの裁判も冤罪だったし、とはっきり言って追悼してました。
ラリーキングはMJの少年時代から、公私にわたり交流があったようで、どう言うのか興味があったのですが、至極冷静な対応をしていました。
MJの近くにいた人々、関係者が毎日のように出てきて、MJの健康状態や死因、少年時代の様子などを語るのですが、ラリーキング自信の印象・コメントは全く語られませんでした。ジャーナリストであろうとしたのか、微妙なスタンスが白人層の勘に触らないように配慮したのか。

そういう反応が逆に、私にとってMJ再発見につながったのですが。
タイガー・ウッズもそういう意味で再発見しましたので、遊び人であろうともなかろうとも応援してやります。白人の奥さんと離婚したら、メディアの思うつぼなので、それだけは頑張れ!と言いたいわ。
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こちらこそありがとうございます (音次郎)
2009-12-31 21:08:39
>meiciさん、お世話になっております。
拙文には勿体無いような賢人読者を得て、私も非常に刺激を受けました。ヤマギシのようなマニアックなエントリーを書くことができたのもmeiciさんのお陰です。最近は自分の好きなことを身内に向かって書いている趣の当ブログですが、長文コメントは歓迎しますのでご自分の家の庭だと思って遠慮なさらぬよう。これからもドメスティック人間の小生に色々とご教示ください。引き続きよろしくお願いします。
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