サラ☆の物語な毎日とハル文庫

ヘムレンさんと、はい虫のサロメちゃん~『ムーミン谷の冬』

真冬になり、食べるものがなくなってしまった小さな虫たちの一団が

ムーミン谷のジャム倉庫の噂を聞いてやってきた。 
(ジャムの倉庫というのは、 
「そんなにつくってどうするの」と言われながら、
 ムーミンママがつくり続けてきた ジャムの壜でいっぱいの小屋のこと) 
 
虫だよ! 
 
そんななかのひとり、はい虫のサロメちゃんは、 
ムーミン屋敷の中にあった飾り物の海泡石のトロッコの中で シクシク泣いていた。 
理由は鏡に怯えたから…。
 
 講談社文庫から拝借したその場面のイラスト。
虫なのに、擬人化されて小さな女の子に描かれている。

 
 そのはい虫のサロメちゃんがけなげで可愛い。 
ムーミン谷にヘムルという動物のヘムレンさんが
ラッパを吹き鳴らし、スキーをはいて、颯爽とやってくる。
 
 この人がもう、 
なんとか静かに冬を越そうとしている面々をびっくりさせる。
 颯爽としているのは長所のはずだけど 
寒い冬に川に入ってジャブジャブ泳ぐ、 
みんなはそんなお騒がせ男が苦手。 
 
ムーミン屋敷に住みついたみんなが 早朝に起き出してきて、 
まったりとムーミントロールの淹れるコーヒーを待っているのに、 
ヘムレンさんは壊れた窓から頭を突っ込み 
たいまつで皆を照らし 
「部屋の空気は濁っている」 
「外はどんなに気持ちがよいか」 
「今日という日をどのように使ったらいいか」について話して聞かせる。 
 
誰もがヘムレンさんとは調子が合わない。
 ヘムレンさんがもたらした
「あたらしいもの」や「面倒なこと」に 引き込まれるのは嫌だと思っている。 
たぶん、自分のペースを乱されるのは嫌な気分だから。 
“親しめない、自分と違うもの”をヘムレンさんに感じてしまう。 
ムーミントロールは大きなストーブの中に頭を突っ込んで 
「ぼくは、やっぱり、あいつがきらいだな」とつぶやいたりする。 
 
そんなに厭われるなんて、ムーミン谷では滅多にないこと。
 
 そんな中、いちばん恥ずかしがり屋の、 
ちょこちょこばしりのサロメちゃんが ヘムレンさんを好きでたまらなくなったのは、
まったく不思議なことだと 物語は言っている。 
 
サロメちゃんはヘムレンさんのラッパをもっともっと聞きたい。 
いかにヘムレンさんを尊敬しているか、なんとか伝えたい。 
だけど、ヘムレンさんは自分のことに忙しくて、 
サロメちゃんのことを気にもとめない。 
 
そんなサロメちゃんは、 
「ヘムレンさんにムーミン谷から出て行ってもらおう」 という相談を、
小耳に挟んでしまう。 
 
サロメちゃんは心配で心配で、吹雪の中に飛び出していく。 
「ヘムレンおじさあん!」
 
 こうして行方不明になってしまったサロメちゃん。 
「嵐がやむまではどうにもならない」と皆が手をこまねいているなか 
ヘムレンさんは吹雪など頓着せずに探しに行く。 
犬よりも鼻がきくヘムレンさんは、 
とうとう雪に埋もれていたサロメちゃんを見つけ出す。 
 
翌日からヘムレンさんの横に 
いかにも幸福そうな顔をした小さいサロメちゃんが
ちょこんと座っている姿が見られた。 
 
皆がウザイと嫌っている人と、 
そのひとを好きでたまらない女の子を組み合わせる。 
そして相手を思う無邪気な気持ちと、 
とにもかくにも助けなくっちゃという勇気ある行動は、 
読者の気持ちをぐっと掴むのだ。 
 
ムーミンの物語には 誰もがそういうのを欲しいと求めている(たぶん) 
やさしい気持ちが散りばめられている。 
 
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