サラ☆の物語な毎日とハル文庫

『赤毛のアン』のマシュウとマリラについて考えたこと

(↑↓ 写真は2点とも1985年の映画『赤毛のアン』より引用)

マシュウ・クスバートとマリラ・クスバートの兄妹は、

アヴォンリー街道から引っ込んだ森の縁ぎりぎりの地所にある

グリン・ゲイブルスに、兄妹二人ですんでいた。


シュウは内気で無口な男。

女性、ことに女の子を死ぬほどこわがっていて、

決して女の子には近寄ろうとしなかった。


 

マリラは、背の高いやせた女の人で、

丸みのない骨ばった体つきをしてい

髪はひっつめにして後でまとめ、きつい顔。

でも、口元にはユーモアの片鱗が見え隠れしてい

そんな女性だ。

 

両親はすでに亡くなり、二人とも独身のまま年老いて、

マシュウはもう六十歳

 

彼は働き者だがこれまでのように体がきかず、

持病の心臓病もある。

畑仕事を一人でこなすのは、

そろそろむずかしくなってきていた。

 

そこで二人の兄妹は、孤児院から男の子をもらいうけて、

畑仕事を手伝わせながら農夫として仕込み、

教育も受けさせようと考えた

 

春になり、ホワイトサンドのスペンサー夫人が

孤児院から女の子をもらってくるというので、

クスバート家にも利口な男の子を一人

連れてきてもらうように頼んだ。

 

ところが、やってきたのは

名前の最後にeのついたアンという名前の風変わりな女の子。

 

最初、マリラは男の子でなければ、なんの役にも立たないので、

孤児院に返そうと考えが、

マシュウはこう言う。

「わしらのほうであの子になにか役に立つかもしれんよ」

やさしいマシュウ。

 

馬車に乗ってグリン・ゲイブルスにやってくる道中のアンのおしゃべりで、

すっかりアンを気に入ってしまったのだ。

本当は女の子は大の苦手なのに

 

マリラのほうも、ホワイトサンドのスペンサー夫人のもとに、

事情を確かめ、アンを孤児院にもどせるかを聞きにいく途中、

アンの身の上話を聞き、

心を打たれる。

 

「マリラは深い物思いにしずみながら、馬をはしらせていた。

急にこの子にたいするあわれみにマリラは動かされたのである。

なんと飢えた、愛情にかつえた生活を送ってきたのだろう。

──苦しい、貧しい、人に顧みられない生活。

マリラにはアンの身の上から事実を察するだけの洞察力があった。

たしかにこの子はほんとうの家ができるのだと思って、

大よろこびしていたにちがいないのだ…」


さて、アンは結局、グリン・ゲイブルスに引き取られることになった。

アンはすぐに二人に馴染んでい

 

ンド夫人に癇癪を起こしたことを謝りにいった帰りのこと。

 

「アンは急にすりよってマリラの固い掌に、そっと手をすべりこませた。

 …その細い小さな手が自分の手にふれたとき、

なにか、身内のあたたまるような快いものがマリラの胸にわきあがった

──たぶん、これまで味わわなかった、母性愛であろう。

こんなことははじめてなのと、心をとろかすようなその甘さに、

マリラは気分をかきみだされた。」

 

そしてまたあるときには、マリラは

「おやまあ、あの子がきてから、まだ三週間しかたっていないのに、

もとからずっといたような気がするじゃないの。

あの子のいない家なんて想像もできませんよ」

とマシュウに言

 

アンがバーリー家の屋根の棟から落ちて、

ぐったりした姿でグリン・ゲイブルスに運びこまれたときには、

 

「その瞬間、マリラは天の示しを受けたような気がした。

突然に心臓をぐさりと突きさされたような恐怖におそわれると同時に、

マリラは自分にとってアンがいかに大事な存在であったかを悟った。

アンが好きだということは──

それ以上にたいへんアンをかわいく思っていることは

マリラもみとめはしたであろうが、

しかしいま、無我夢中で坂をくだって行きながら、

アンがこの世のなにものにもかえられないほど、

自分にとって貴いものだということを知ったのである。」

(いずれも新潮文庫『赤毛のアン』より引用)

 

と物語は語っている。

 

愛情に飢えた、よるべない、ひとりぼっちの子どもと、

独身を通して年老い、自分の家庭を築きそこなっていた老兄妹は、

こうしてともに心を寄せ合い、家族になっていったのだった。

 

マシュウとマリラの深い愛情が、この物語を輝くものにしている。

「慈愛」「無償の愛」が身近にあるなら、

こんな幸せなことはないのだなと思う。

 

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