朝ドラの「花子とアン」。
主人公のはなは8歳年上の新入生葉山蓮子に勧められた“お薬”ですっかり酔っ払ってしまい、退学寸前!
葡萄の香りがするお薬というのは、ワイン(葡萄酒)なのだけど、いままでそんなもの見たことも飲んだこともないはなは、薬という言葉をすっかり信じきっていたのだ。
ドラマの中では、はなが酔っ払う“葡萄酒事件”。
いっぽう『赤毛のアン』では、アンがダイアナを酔っ払わせてしまう“葡萄酒事件”が起こっている。
アンがどんなにせつない思いをしたことか…!
ことの起こりは、マリラが「出かけている間に、ダイアナをお茶に呼んでいい」とアンに告げたことにはじまる。
大喜びのアンは、早速ダイアナを誘い、お昼過ぎに二人のティーパーティが楽しく行われる……はずだった。
マリラは「“いちご水”を飲んでもいい」とアンに告げた。
二人で果樹園でりんごをもいで食べたあとで、いよいよ「お茶にしましょう」というとき、アンはもてなしのさいしょに、いちご水をダイアナに振舞うのだ。
アンはリンゴでおなかいっぱいになったので、自分は飲まないことにする。
ダイアナは「自分ですきなだけついで召し上がれ」とすすめられ、大き目のタンブラーになみなみと3杯もお代わりした。
「これはすごくおいしいいちご水ね、アン。私、いちご水ってこんなにおいしいものだとはしらなかったわ」
「こんなにおいしいのって、はじめてよ」
「味が(リンド)小母さんのと、まるでちがうもの」(以上、村岡花子訳・新潮文庫より抜粋)
ああ、ダイアナ。そりゃ、味が違うのは当たり前だよ。
だってそれはいちご水ではなくて、葡萄酒なんだもの。
って、マリラが示したいちご水の置き場所にいちご水はなく、アンはひとつ上の棚にあった赤い飲み物の入ったビンを、いちご水だと確信してダイアナに出したのだった。
べろんべろんに酔っ払ったダイアナは、気持ち悪くなってお茶をいただくどころではない。
すぐに家に帰ってしまった。
アンががっかりしたといったらない。
しかし、本当の苦難はここからだ。
ダイアナのお母さんのバーリー夫人はすっかり怒ってしまい、娘を“故意に”酔っ払わせるような悪い子とは、以後二度と遊ばせない、と固く冷たく決めてしまったのだ。
せっかく腹心の友を得たアンなのに、その友と引き裂かれることに…。
落胆の末、アンは学校に戻ることにする。
そうすれば学校でダイアナに会えるからだ。
(にんじん・石版事件のあと、アンは学校に行っていなかったのだ。)
しかし、バーリー夫人は、学校でもアンと口をきいてはいけないとダイアナに命令する。
ああ、二人の運命や、いかに?
そして、「花子とアン」のはなの運命やいかに?
はなは退学処分にされてしまうのか…
あとは、読んで、見てのお楽しみ! である。
ちなみに『赤毛のアン』のなかで「いちご水」と訳されている原文は、raspberry cordial→キイチゴ水。
葡萄酒はcurrant wine→すぐり酒。
村岡花子さんが、日本人が読むときにぴったりくるように、いちご水、葡萄酒という言葉を選択されたのだと思う。翻訳という作業はきめ細かな配慮が必要なのだなと、こんなところにも感じるのだ。