井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

潜在的言語のもたらす芳醇と品格

2017年08月26日 | 日本語

尾崎行雄記念財団・咢堂塾での講義に向けて、鋭意準備中です。

記念財団は、憲政記念館内にあり、国会議事堂に隣接する国会前庭内に建っていて、自民党党本部からも徒歩5分程度の位置にあり政治の息吹が漂うエリアです。

わたくしの講義テーマは毎度「日本語は国の防波堤」です。

このタイトルを基軸に、日韓関係他へと話を敷衍していくのですが
結局は、わたくしが語って倦まないのは「日本の美」であり、
わたくしの愛国心の発露は、畢竟(ひっきょう)和服や言葉の形をした
日本の美意識に帰着します。国体への愛というよりは、この国の
文化を護りたいという意識が先にありき、です。

生粋の江戸言葉を書ける脚本家もいなくなり、そういう意味で
戯曲家の久保田万太郎先生のお作を読まなければ、と思いつつ
目先の読書に忙殺されて、後回しになっています。

さなきだに、時間がなく本も数冊を並行して数行、数十行ずつ
読み進めているのは先に述べた通りで、言ってみれば不要不急の
戯曲を読むゆとりはないのですが・・・・・しかし思えば文化の在処(ありどころ)は
常に、不要不急の中にこそあります。

久保田万太郎の、これは戯曲ではなく小説「三の酉」からですが・・・・


 ――おい、この間、三(さん)の酉(とり)へ行ったろう? ……
 ズケリといって、ぼくは、おさわの顔をみたのである。
 ――えゝ、行ったわ。……どうして? ……
 と、おさわは、大きな目を、くるッとさせた。
 ――しかも、白昼、イケしゃァ/\と、男と一しょに、よ……
 と、ぼくは、カセをかけた。
 ――あら、よく知ってるわね。
 と、そのくるッとさせた目を、正直にそのまゝ、
 ――おかしいわ。
 と、改めて、ぼくのほうにうつした。
 ――ちッともおかしかァない。……おかしいのはそッちだ……
 ――みたの、あなた、どッかで? ……
 ――そうだろうナ、多分……
 ――わるいことはできないッて、ほんとね。……けど、どこで……どこをあるいてるのをみられたろう?
 ――それよりも、一たい、なんだ、あれ? ……
 ――あれッて?
 ――あの男さ。
 ――あゝ、あれ?
 ――顔よりも大きなマスクをかけて、さ。……そんなに、人めがはゞかられるなら、何も、昼日中、あの人ごみの中を、いゝ間(ま)のふりに、女を連れてあるかなくったっていゝじゃァないか?
 ――そうだわよ。……そう思ったわよ、あたしだって……
 ――それだったら、なぜ止させなかったんだ? ……ウスみッともない……
 
 
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音読してみると、江戸弁のリズムが立ち上がってきます。
 
文章のコツの一つは、音読して響きはいいか、なだらかか、というのがあります。だから作文の練習はまず音読から。慣れるとわざわざ音読しなくても、言葉が「音」として耳に聞こえて来るようになります。
 
「三の酉」の文章中、「いい間のふり」というのがありますね。
 
“いいまのふり”、これは「いい気になって」という意味の東京の方言です。
 
そう、東京にも方言はあるんです。
 
東京ローカルでしか通じない言葉。もっとも、「いい間のふりに」を
現在使う東京人はいません。
だから、知らなくていいかということでもないと、わたくしは思います。
 
表で使うことはないが、しかし語嚢に蓄えているというそのことだけで、
その人の醸し出す雰囲気が豊かになるとそう思います。
 
表題の潜在的言語とは、そういう意味です。
 
語嚢はおそらく造語だと思いますが、語彙を詰め込む嚢として、
実感があるので、わたくしは用いています。
 
【嚢】 読み のう  意味 ふくろ
 
一国への侵略手段に、その国の言葉を奪う、弱体化させるというのがあります。
言葉はその国の精神性であり、品格であり、アイデンティティです。
日本を占領したGHQがやろうとしたのも、日本語の無力化でした。
しかし、幸い日本語は廃絶されずに生き長らえました。
 
しかしながら年ごとに貧しくなって行っています。
 
GHQの撒いた日本弱体化のウィルスは、随分長期にじわじわと効きます。
それを食い止めるための防波堤の一つが、日本語を守り抜くこと、大切にすることです。
 
文中の「畢竟」、読みはひっきょう。意味は「要するに」。
 
いけしゃあしゃあとは、憎らしいほど厚かましい様子。
 
 
 
皆様の今日という尊い一日が、光に満ちてありますように。
 
誤変換他、後ほど推敲致します。
 
 

7 コメント

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日本語と日本の伝統 (ひつじのジンくん)
2017-08-26 09:00:53
井沢先生、皆様おはようございます。

日本語、難しいですね。正しい美しい日本語を聞いたり視たりする機会が確かに減っていますね。それと、日本の伝統も。

日本語については、正しい言葉が失われていますね。よくあるのが、レジ担当者の『◯◯円からお預かりします。』
地域限定かもしれませんが、良く言われますよ。正しくは『◯◯円お預かりします』です。
あと、東京にも方言があるとは知りませんでした。方言もその地域の文化です。賛否はあるかもしれませんが、方言も大事かと私は思います。

伝統。私はやはり和装ですね。恥ずかしながら、自分では着付けが出来ません。母が着付け出来ましたが、脳梗塞を数年前に患い、覚えているかわからないし(ただ、数年に渡った療養により、介護認定はありますが、元気です)。

お手頃の着物着付け教室に興味はありますが、なかやか良い噂を聞いたことがないので、躊躇しています。金銭的に余裕はありませんので、何か得る機会がないかなと思います。

井沢先生の講演。聞いてみたいです。
しかし、飛行機使わないと都内には行けませんし(本当はオフ会も行きたいのですが、関東近郊かと思い手を上げないでいます。)。

なので、井沢先生のブログ記事にて学ばせて頂いております。

いろいろあるこのご時世。
インターネットで不快な想いもあります。
しかし、井沢先生のブログに出逢えて、勉強になる事もあります。
インターネット情報が、良い形で使われる様に願っております。

追伸:前記事コメントにて
総太郎様:お言葉ありがとうございました。

くるみのばぁば様:親を看取る立場のご苦労わかりますし、介護の大変さもわかります。医療については本当に難しいし、本人が理解出来ない状態だと家族に負担がきますからね。

また、親の介護をしている人、病気と戦っている人、見える敵や見えない敵に戦っている人等、井沢先生のブログ読者にはいろいろな読者様がいらっしゃると思います。

皆様にとって、御健康と御幸せを願います。
また、井沢先生には、ブログを開き、若輩者の私のコメントを公開して頂いている事に感謝さそ、井沢先生の御健康と御幸せを強く願います。


毎回、長文失礼致します。
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「日本語は国の防波堤」 (ろみ)
2017-08-26 09:13:20
>それを食い止めるための防波堤の一つが、日本語を守り抜くこと、大切にすることです。

はい。わかりました。

ひとって、美しいもの、感動するものが好きなんですよね。感動すると自然にそれを守ろうとする。
「守らねばならない」という強迫的なものでなく、ただ美しいから、ただ素敵だから日本語を使う。いいなあと思うひとの輪が広がっていく。
私が新参ながらこの場に居つかせていただいていますのも、その輪の魅力にこそ引き寄せられたからだったと今更ながら思います。

そして先生は、まさにその輪(国の防波堤)の中心の大きなお一人でいらっしゃることも、あらためて確信いたしました。

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Unknown (hina)
2017-08-26 12:16:01
井沢先生、皆さま、お早うございます。
いつも勉強させて頂いています。

日本語が貧しく弱くなってきているということ、肌で感じています。
私はネットで文章を書くことが多いのですが(メール対応や商品説明など)
その際によく指示されるのが「できるだけ漢字を少なく」「簡単な言葉で」です。

「有り難うございます」「何故」「お客様」「~して下さい」といった
ごく一般的な漢字ですら「目が滑る」との理由で
「ありがとうございます」「なぜ」「お客さま」「~してください」と直されます。
それでも後から元に戻したり等密かに抵抗はしていますが(笑)
ひらがなばかりのぶんしょうのほうがよっぽどめがすべりますよね。

「いけしゃあしゃあ」という言葉は
北方領土を返さない国、領空・領海侵犯の常習国、
謝罪と賠償を要求するのが定番の国などが
日本にもみ手で近づいてくるとこの言葉が頭に浮かびます。
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Unknown (ピピ)
2017-08-26 13:44:19
先生、何時も美しい日本の言葉を有難うございます。
知らないながらもリズミカルで美しい言葉。読んでいるだけで浮き立つ思いです。

私は東京の下町で生まれ育ち、母方も同じでしたので、ヒとシの使い分けが出来ず、頑張って直しましたが、未だに無意識に出るようで(笑)主人に妙な顔をされることがあり、アッ言っちゃったなと苦笑いです。
悪名高き(爆笑)朝日新聞は、用心しないとアサシヒンブンになります。
ムコウッカシ、トバクチ、マッツグ、アルッテ、フテテ…死語ですね。

これからも美しい日本語のご教示、楽しみにしております。
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総太郎様、ひつじのジンくん様 (くるみのばぁば)
2017-08-26 15:11:44
優しいお言葉をかけていただき、
有難うございました。

井沢先生、
本日も学ばせていただきました。
有難うございます。
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いいまのふり (きく・かおる)
2017-08-26 20:28:49
江戸っ子の言葉として色々と挙げられているものが、今でも上州弁として群馬県で使われています。某群馬県人会の会員なので、「ってやんでい」みたいなアクセントに、つっけんどんな感じな「~してらい」等を話します。利根川の往来の中で培われたものだと思うと、文化的な時の流れを感じます。

表題の「いいまのふり」という言葉が東京の方言、とのことですが、東北地方でも「いいふり、こく」と同じような意味で使います。「こく」というのは英語圏のhaveのような動詞で、「~する」というような使い方をします。
都から同心円状に方言が広まったため、熊本の「ばってん」と津軽の「ばって」が同じような使い方だったりしますよね。松本清張・砂の器で秋田の羽後亀田と島根の亀嵩が、同じような訛りだったことでも有名ですが。
東京の方言もどこかで同じような意味で残り、使われているように思います。
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お返事 (井沢満)
2017-08-27 09:10:08
ひつじのジンくんさん

私が気になるのは「◯◯円になります」

の「なります」です。「◯◯円です」が素っ気ないなら、「◯◯えんでございます」

「こちらが新製品となります」も気になります。

あと、「クーポン券持参という形になります」
「印鑑証明提出という形ですか?」

形の意味不明の濫用。


ろみさん


ありがとう。咢堂塾では言葉の大切さを述べましたが、「一日に一つの新しい言葉を覚えよう」という提案を忘れました。


hinaさん


咢堂塾では時間がなく、漢字を棄てた韓国がどうなったか・・・

ひらがなだけのにほんごを、よまされているようなものなのです。


ピピさん

ひ と し の区別がつかない江戸っ子もだんんだん少なくなってますね。

それにしても江戸っ子がなぜ、ひ し の区別がつかないのか、興味のある謎です。

オーストラリア人の英語は、Aが発音できずIになります。

today's paper トゥダイズ パイパー のように。
知識層は別ですが。


きく・かおるさん

いいまのふり、は今でも使われているのですか? 東京ではもはや死語ですが。




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