井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

雨に咲く花

2018年06月27日 | 日記

 

今朝、トーストに目玉焼き、ベーコンエッグという定番朝食がふいに欲しくなり
カフェに向かう道すがら、媚薬のように鼻孔をくすぐる香りがあり、
見れば白い陶器めく梔子(くちなし)です。

街路樹のかたわらに群れ咲いて、この花の香気は雨季を含んだ空気の中でこそ
引き立ちます。ジャスミンと並んで官能的な香りです。

ジャスミンは、香油も精製した後の香りの残るジャスミンウォーターも
持っていますが、梔子のそれはありません。
以前インド産の香油を手に入れましたが、梔子とは似ても似つかぬ匂い。
雨のあわいに、つかの間開く花の香気と思えば余計に香りが貴重です。

花は香りで存在を訴えかけてくれますが、月もひょっとしたら
「気配」で語りかけてくるようで、夜道を歩いていて
ふと見上げたらほぼまんまるな月で、調べたら満月は明日ですが、
しばし足を止め、見上げていました。

「雨月(うげつ)」というのは、名月が雨に隠れて見えぬさまを
言いますが、見えない月にまで名を与える日本人の心映えを
ゆかしく感じます。

「雨に咲く花」は井上ひろしという歌い手さんが歌い、往時ヒットした
曲名ですが、その歌詞の一節に、

およばぬことと あきらめました

とあり、自分の身の丈に合わぬ高嶺のお方に懸想した切ない
恋心を当時の人々は「及ばぬ」と慎ましく表現し、
しかしこの言葉も今は廃れつつあるでしょうか。

歌は、

ままになるなら、いまいちど

ひと目だけでも逢いたいの、で結ばれますが
「ままになる」「ままにならない」も、使わなくなりつつあるのかも
しれません。

あめにうたれて さいている はなが わたしの 恋かしら。

何番目かの歌詞の結びです。

文中の「懸想」は「けそう・けしょう」と読み、恋い慕うという意味です。
そういえば・・・・昭和も初期の日本映画のせりふには
「お慕い申し上げております」などという、これもつつましい
恋心の表白がありました。

と書きつつ、ふとまた思い出したのですが高校生の頃、通りかかった
体育館の裏手で、井上ひろしさんに遭遇しました。
当時はコンサートが体育館で行われていました。楽屋がないので、通路代わりに
体育館の裏手を移動していたのでしょう。
高度成長期にあったか、差し掛かっていたか、という時でしたがまだ
国民は経済的には豊かとは言えない時代です。でも情調はまだたっぷりと、
日本人の心にありました。

中学生の頃、川口浩さんのコンサートは体育館の水を抜いたプールの底に
ござか何かを敷いて客席にし、行われたのでした。川口さんは
不良っぽい坊っちゃんのイメージで、市川崑監督、岸恵子さん主演の「おとうと」での
役柄はそのまま、うってつけでした。

井上ひろしさんの、舞台化粧が当時は男の化粧は珍しく記憶に残っています。
首をちょっと傾げながら片腕をたわめ、優美なしぐさの人でした。

井上さんは44歳で、川口さんは55歳でこの世を去り、花だけは
雨の中に馥郁と蘇り咲き続けています。

 

 

 

 

誤変換他、後ほど。

 

 


8 コメント

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貴重なお話 (総太郎)
2018-06-27 22:46:40
先生、貴重な思い出ありがとうございますm(__)m

先日、早朝のラジオ番組で「雨に咲く花」をリクエストされているお方がおり、流れていたばかり・・。

安藤昇先生がアルバム「船頭小唄」(ポニーキャニオン)でカバーされていたのが印象的。

川口浩さんら大映スターの方々も、あの頃は舞台挨拶を兼ねて歌謡コンサートを開催されていたようですね・・。

川口さんが若尾文子さんと主演された増村保造監督の「妻は告白する」

以前、若尾さんが御自身の作品の中で、大変気に入っておられると仰っておられました。
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Unknown (hina)
2018-06-28 10:26:32
井沢先生、こんにちは。

いつも素敵な日本語を教えて頂き有り難うございます。
毎回勉強になります。

私はお客様対応等でメールを書くことが多いのですが、
そのような文章であってもできる限りきれいな日本語を使いたいと考えています。
達意で、無駄に長くなく、心地よく、しかし読に者不要に媚びない文章が理想です。
(実現できているかどうかはまた別の話です……)

先生のお書きになる文章には遠く及びませんが、
次の世代に豊かな日本語を残せるよう少しずつでも上達してゆければと思います。
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お返事 (井沢満)
2018-06-28 12:42:18
総太郎さん

川口さんは、歌詞だか歌い出しだかを間違えて、
舌を出したのを憶えています。そのキャラからして
不謹慎とも思わず(こちらも中学生だったからか)。
不良っぽかったのですが、いいお育ちなので品は悪くなかったです。

hinaさん

本を読んでいると、たまに未知の言葉に遭遇、調べて記憶しなければ、と思いつつ、思い立ったらすぐやらないと忘れてしまいます。

参考になるかどうか、返信をいただくほどではないメールで、
「返信は不要です」と書くのはぶっきらぼうなので、私は「返信のお気遣いはご無用にどうぞ」と末尾に記します。
もっと丁寧に書くなら「返信のお気遣いはご無用にどうぞお願い申し上げます」でしょう。




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Unknown (hina)
2018-06-28 14:48:48
井沢先生、有り難うございます。
読んで下さるだけでも嬉しいのに、このように具体的に教えて頂けるとは!

確かに、ご指摘のようなケースで表現に困ることが再々ありました。
早速自分用の単語帳に書き加えました。

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先生、ありがとうございます (総太郎)
2018-06-28 20:53:46
先生、改めて貴重な思い出ありがとうございますm(__)m

川口さんのぶっきらぼうで照れたようなイメージが浮かびますね(^_^;)

川口浩さんは、昭和40年代後半から俳優業を一切退かれた感じが残念で、
個人的には、御出演作品含め、弟の川口恒さん、川口厚さん、妹の川口晶さんらにより親しみを感じる部分が大きい気持ち・・。

お父上・川口松太郎先生、母上の三益愛子さんも偉大でしたが、近年、恒さんが「作家・川口松太郎・公式サイト」を運営なさっておられ、機会があれば激励のメッセージでも投稿させて頂きたい気持ちです。

余談ですが、昭和40年代に大映はテイチクと提携して「大映レコード」

東宝はビクターと提携して「東宝レコード」を設立した時代があり、それぞれ自社の俳優さん達が多数レコードを発売。

大映は、勝新太郎さん、田宮二郎さん、本郷功次郎さん、川崎敬三さん、平泉征(現・成)さん
らも歌手活動をされていましたが、シングル・アルバム含め大変売れ行きがよく、発売枚数が一番多かったのは藤巻潤さんだったと大映OB の方から伺いました。
近年、一部CD 化もされていますが、映画ファンとしては多数の復刻を願うばかり。

YouTubeでもファンの方々が一部UPされておりますのでお楽しみ頂ければm(__)m

只、川口浩さんの歌唱音源は殆んど出回っていないですね・・(^_^;)

先生のhina様へのアドバイスも大変参考になりましたm(__)m

それから、明日のラジオ日本「マット安川のずばり勝負!」には宮崎正弘先生が御出演。

テーマは(過熱する米中摩擦、世界のパワーバランスを読む)、生放送・投稿も受け付けですので、御関心のある皆様には是非m(__)m

「ウイル」「月刊・Hanada 」最新8月号も発売となりましたが、こちらも有意義な情報が満載ですm(__)m
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雨と梔子 (橋子)
2018-07-01 09:32:01
井沢先生お忙しい中記事を更新して下さってありがとうございます。
いつも楽しみにしています。

今回の梔子のお話を拝読して遠い昔見たCMの歌詞を思い出しました。

雨がしとしと降る中、密やかに咲く純白の梔子の花と生い茂る深緑の葉が映し出され今にも画面から水気たっぷりの梔子の薫りが漂って来そうでした。そしてバックには

雨に濡れてる梔子の花 薫りが昇る
君の愛と僕の自由がすれ違うように

という歌が流れていて、男女の性質の違いや永遠の分かり合えなさを子供ながらに知ったような気がしました。
昔はCMでも録画して保存しておきたいような秀逸なものを散見しましたが近頃はほぼ皆無なのが残念です。
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橋子さん (井沢満)
2018-07-01 11:40:47
>君の愛と僕の自由がすれ違うように


上手なフレーズですねえ。
言ってみれば、港々を漂いたい男のわがまま・・・
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「自由」ってそう言う意味か…! (橋子)
2018-07-02 04:32:46
井沢先生、お忙しい中早速の御返事ありがとうございます。

私はこの歌詞の「自由」をてっきり「友達との付き合いも大事だし自分の趣味にも没頭したいから恋人に構ってばかりもいられないんだ」という意味だと思い込んでいたから

>港々を漂いたい男のワガママ

という解釈にハッとしました。「ああ、そっちか…!」と。
作詞された方もきっと男性だと思うので先生の解釈が正解なんだと思います。
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