井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

流れる星

2013年05月19日 | ドラマ
何とか言う人が突然に亡くなったと知人が知らせて来て、
その何とかいう人、私には聞き覚えがなくて、お名前が航だった、苗字は失念した。
聞けばゲイヴィデオのスターなのだそうで、私は
詳しい世界ではない。ここしばらく「同窓会」の
話題を続けていたので、教えてくれたのかもしれない。

せっかくだから検索して調べてみたら、日本的な美男で、
恋人は、台湾人の、これも美形の逞しい男だった。
二人の生活を追った動画もあって、二人は普通に男で
普通に礼儀正しく、普通に喋っていた。
ちょっと「同窓会」の世界を思い出した。
航さんにはテレビ出演のオファーもあるそうだが、出ないのだと
航さんは語っていた。自分は普通なんでつまらないだろうと。
今、ゲイはそう言えば色もの的にカリカチュアライズされた人しか
出ていない。

航さんは台湾や中国でも人気があったそうだ。
恋人の台湾人は航さんのために、友人もいない東京で暮らし始め、
航さんはそれに感謝していた。台湾人には女性の恋人がいた
時期もあるそうだが、結局航さんに落ち着いていた。

天天というその台湾人のツイッターを見たら
航さんが病院に入り、亡くなるまでの経過(あっという間だった)が
綴られていた。
盲腸から腹膜炎を併発して、胃の激痛があったようで
天天さんは「自分が代わってやりたい」とつぶやく。
亡くなる前に、よもやその後に訪れる運命を知らず
書かれた言葉なので、哀切で読むのがつらかった。

航さんはオペ室に入るとき、天天さんの手紙を握りしめ
涙をにじませ天天さんに感謝の言葉を伝えたという。

切なくて、きちんとは読んでいない。
間違っているかもしれない。
二人の暮らしの中には、猫がいて、航さんが
この世を去ったら、天天さんが東京に居続ける
理由もないので、どうしたのかしきりに
気になったので、情報をくれた知人に訊いたら
航さんの妹さんに引き取られたという。
よかったが、しかし猫はそう簡単に心を開かない。
航さんに熱愛されて、慣れた中国人の相棒も
去ったとなれば猫も寂しいだろう。
人も動物もこの世に生き続けるのは難儀なことだ。
雨の夜更け、街を歩いているとしきりに野良猫たちが
気にかかる。
このカップルの話をきっかけに、なんでだか昔付き合いのあった
芸能人の男女、あれこれ顔に浮かび、亡くなった人が多いのに
驚いた。芸能界を去った人たちも。
まだ相手が芸能界に入る前に知り合い、少々の付き合いがあって、こちらが
海外で暮らしている間に青春スターになっていて、帰国して驚かされたこともある。
火事で家を全焼し、全身大やけどでスターの座を去った人もいる。
当時大変な人気だった歌手とのお付き合いは私が大学生の頃だ。
そういえばあの女優さんはどうしているだろうと、Wikiを見ると
逝去なさっていたり・・・・
そのうち、会ったことも付き合ったこともない芸能人に
連想が飛び、その中の一人が大映のスターさんで、男に
裏切られ殺した女優さん。印象が強烈だったので、思い出したのかもしれない。
中国人のヤクザにレイプされ処女を喪失、それを救ってくれたヤクザに今度は
愛人にされ、と転々とするうち女優として売り出すのだが・・・。
殺された女優さんもいた。

知り合った頃は輝くような美貌であった人が老いて、無残という人もいる。
女性のほうが比較的保っている人が多い。
美輪明宏さんのすっぴんを知っている、私はもはや数少ない人物かもしれない。
美輪さんはお若い頃、仕事以外では化粧は面倒くさくてきらいだと
おっしゃって、Tシャツにズボン、すっぴんだった。素顔はたとえが変なのかもしれないが
古武士のイメージだった。初対面で、私は反射的にそう思った。
話しているうち、パキパキッと音がして、なんだろうと思ったら
ラップ音というやつで、初めて聞いた。聞けば昔付き合っていた
男の子がスチュワードになったそうなのだが、その彼が
今日飛行機事故で死んだのだと。
「だからスチュワードになりたいって言った時、空はやめなさいと
言ったんだよ。わかっていたので」と美輪さんはおっしゃった。
その彼が、美輪さんを訪ねて来たのだという。パキパキっという
ラップ音は、霊は電気現象なので、と美輪さんは淡々と説明してくださった。
私は若気の無礼さで「美輪さんって、赤木圭一郎さんとか、田宮二郎さんとか、三島由紀夫さんとか、付き合う人って全部死んじゃうんですねえ」と今思うと汗の出るようなことを
言ったのだが、美輪さんは苦笑したが、怒らなかった。
「だから、僕のところに神様が寄越すんだよ」
とそういう言い方をなさったと思う。美輪さんが確か、34歳前後の頃だと思う。
それ以上突っ込んでうかがわなかったが、おそらくその後の「供養」を
おっしゃっていたのかもしれない。三島さんが暗いところに閉じ込められていたのが
比較的短期に出ていらして、やはり優秀だからかなあ、とつぶやいていらしたのを
覚えている。
三島さんとニニ六将校の霊のことなど、知っている人もいるだろうが
私は直接お聞きしたので、臨場感があった。
その後の人生で自死を思うことは何度かあり、今も時々頭を過ることがあるが
でも、とりあえず自殺はしないだろうなあ、と思うのは
自死は三島さんのように、「暗いところに閉じ込められる」らしいので、
それはちょっと叶わないなあ、と。
黒蜥蜴など上演すると、三島さんが舞台の袖に佇むそうで
霊感が強い高嶋政宏くんが見かけて、美輪さんにそう言うと
「ああ、今日は命日だからね」とあっさりとした回答だったそうな。

お会いしたこともないのにゲイのカップルの片方の死去をきっかけに、人の世のはかなさを
改めて思う夜だった。収拾もつかないとっちらかった文章だけれど。
華やかなスターの栄枯盛衰をわりに身近に眺め、また死を見ているうち
この世の不確かさ、はかなさは、なお身にしみてくる。

どういう形であれ、長さも短さも人ぞれぞれであるけれど、やがては
死が訪れ、全てを捨て去り魂一つで人は別の世界へと旅立って行く。
道連れもいない。一人きりだ。
物質への地位への名声への人への、執着を少しずつ断ちきりつつ
旅立つ準備を日々していくのが60歳からだと何となく
昔から思っていた。
人に死なれるのは、まれにひどく寂しいこともあるが、自分がいずれ
ここを離れると思うと本当に嬉しい。
その思いは年々深くなるばかりである。


手術前の麻酔受ける航さん。相方の天天さんが撮った。
http://datazon.cn1069.net/album/201305/18/231636o3d6aoia3baaafgf.jpg

腹膜炎でも、盲腸だし・・・航さんもこのまま去るとは思っていず
天天さんも、よくなった時の記念にというぐらいの気持ちで
写真を撮ったのだろう。中国の文字は読めないが、おそらく
愛の表白か。航さんも突然の死で、まだ自らの死を受け入れられないでいる
状態かと想像するけれど、自殺ではないし、とにかくこの世を生き切ったのだ。
それに、最後は最愛の伴侶がいた。
つかの間の世で、誰をどう愛そうとよいではないか。ただ愛した、という
記憶が魂に刻み込まれるだけのことだ。
肉体も容貌もまだ輝くように美しいうちに、さああっと駆け抜けて行く人生も
それはそれでありだろうし、美貌が朽ち果てて老いさらばえる姿を凝視しながら
終えるのを待つ、それも人生である。

・・・・文章で勝手に書いておいて、フルネームを記さないのは失礼なので
今、調べたら真崎航(まさきこう)さんだった。
岩手県の出身で、身寄りは妹さんだけとか、それも切ない。

今夜知った方だが、なぜなのかご縁を感じる人。
あるシンクロニシティがあったのだけど、それは書きたくない。
ご冥福を祈らせてください。