井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

名作と人気作とは違う

2017年01月17日 | ドラマ

質の高い作品と、大ヒットする作品とは必ずしも
一緒ではありません。

往年の世界的大ヒット作「タイタニック」を映画館で見た私は、冒頭から少し
後悔していました。当然カットして尺を縮めるべきところをそのままに
冗長だったからで、概ねその後の展開が解ります。

案の定、これだったら家でDVDで見たほうがよかったな、というレベルでした。
当時DVDはなかったかもしれませんが。

世界的に大ヒットする、というのは要するに普段映画に接しない人まで
動員しないと達成出来ません。

あられもなく申せば、「誰にでも解る」、言い換えれば想像力も、余白を読み取る力がなくても解る紙芝居、劇画であること。(紙芝居って、ひょっとしてもう徹底的に死語なんですか?) 知性も感受性も美意識も、秀でていなくても受け入れられるレベルであること。

ただ、世間が熱狂しているさなか、いかにまっとうでも少数意見の発信者というのは、疎外感を味わうものです。「乗り切れない自分」を持て余す。
けなせば、ブーイングだし。

というわけで、仲間がいないかなあと映画に鋭い感性をお持ちの
岩下志麻さんにメールをしたら、「プロの間では悪評ですね」と
打てば響くお返事。もっとも岩下さんは「愛を描く作品に、人々が飢えていたのかもしれません」と私よりは優しいフォローが入ってましたが。

「君の名は。」も、映画館で私は、これ家でDVDで見ても良いレベルだったなあ、と少し後悔したことはブログで書きました。
作画の見事なことで多少救われましたが、話の作りの底浅さが。

ついジブリ作品の芸術性と深みと比べてしまったのですが。
ジブリ作品はアニメならではという作品の生理的必然性が
あることが多いのですが、「君の名は。」は、実写でも出来るという点。
むろんアニメならではの、画質はありそこがもっともチャーミングなのですが、
話の組み立てと、セリフが・・・・。
興行的には成功しなかったアニメ「北斎の娘」ともつい比べるし。これは
海外で賞を得ています。作画は「君の名は。」の写実に比して、大胆な省略や構図で、絵それ自体がアートで楽しめました。

オンタイムでヒット中なので、幾人かのプロの人達とも話しましたが、
皆さん、低評価ではないのですが、絶賛からはちょっと遠い。

アニメでなければならないという必然性の薄さ(実写でも描ける世界)、男の子のキャラの魅力の無さ、はぼ私と同意見でした。この間のブログでは、私の説明不足でしたが、キャラは作画上のキャラであり、役の性格のことではありません。

しかし、それを見て熱狂している人々をけなすつもりはありません。
万人が見て解る映画は、それはそれで必要でしょう。

「タイタニック」と「君の名は。」の共通項は仕掛けの上手さです。

前者は万人に受け入れられるロミオとジュリエットを沈む船に乗せた、という卓抜なアイデアの勝利です。
後者は、よくある入れ替わりものを、両者恋に陥らせ、ソウルメイトの物語に仕立て上げたことが、功績です。

とはいえ、私が両者を評価しないことには、変わりありません。

やれやれ、しばらく肩身の狭いこと、と思っていたら思わぬ援軍が「キネマ旬報」の評価でした。ここは、プロ中のプロたちが選考する賞で、伝統と実績があります。

ここに集う、プロたちの評価では「君の名は。」は圏外でした。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170113-00000002-wordleaf-movi&p=2
大ヒット映画『君の名は。』 キネマ旬報ベスト・テンは、なぜ圏外?

むろん、映画もドラマもプロを相手に作るわけではないので、大ヒットじたいを
貶めるわけではないのですが、興行成績のランキングから漏れる名作群が余りにも多いので、つい書きたくなりました。

往年のベルイマンの作品など、芸術だったし、この間ブログに書いた「山の郵便配達」も、そうです。しかし、これらが大ヒット作に勝るのは100年の命脈があるということでしょう。
ベルイマンの「処女の泉」も、コクトーの「オルフェの遺言」も私が学生時代に見た作品ですが、いまだ色褪せず心に刻印されています。東宝シネマズの朝の名作映画祭では、次々にそうした作品が銀幕に蘇っていて、近々上映される成瀬巳喜男監督の「浮雲」も長く語り継がれる名作です。
アニメでは「千と千尋の神隠し」他幾つかは残る作品ではないでしょうか。

キネマ旬報が「シン・ゴジラ」を2位に入れているのも、さすがプロ集団、と
我が意を得ました。
これは、私が二番煎じでいうわけではなく「君の名は。」の評価と同じ
文章中で、絶賛したと思います。全く期待せず見たら、そのセリフの応酬の
深みに目を見張ったのでした。ゴジラの迫力はむしろ、そのための道具立てて
眼目はその思想性にあったと、思います。「シン・ゴジラ」は、その質と
興行成績が上手いこと折り合っての、かなり珍しい成功例でしょう。
あの一見、超娯楽作に籠められた深みを理解できない層にも、ゴジラ対自衛隊のアクションだけで、楽しめたからでしょう。

ただ「シン・ゴジラ」が古典となり得るか、というと、微妙かもしれません。映画にこめられた思想性が現代という、流動的な価値観から語られているから、時を経れば古びるかな・・・・と思わなくもないのです。

でもそういう、「今この時」をすくい取った作品はあって然るべきだし、すべてが古典とならなければならない、ということではありません。
それで楽しむ人がいるのだから「君の名は。」もそれはそれで。

 

*誤変換他、のちほど推敲致します。