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住み込みの仕事を辞めて、寮から出て生活保護を申請したいのだろうが、自分からはっきりそうとは言わない。「こういう制度がありますよ」「生活保護申請には私どもが役所に同行することも可能ですよ」と、ボランティアさんが利用可能な制度やサービスを案内し、彼が選べる選択肢を提示するが、彼は「はあ」と言いながらきいているだけで、何かに関心を示して突っ込んで聞くわけでもなければ、「それはできません」と突っぱねるわけでもない。
彼は、自分の代わりに誰かが決めてくれるのを待っているのだと思った。
「こうしなさい」と誰かが彼に代わって選択肢の一つを選び、有無を言わさず未来への軌道をつくってそこに彼を乗せるのを待っているのだ。