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なかなか勝てない馬がいる。今日もその馬が走る。
がんばれ、と声が出る。
まなざしは、ゴールの先を見つめている。

アイガー北壁初登攀

2021年05月30日 10時47分21秒 | 読書・登山
エヴェレスト

ジャヌーのたたかい

解説 深田久弥


しかしながら、大自然にとって、勇気や野心はどうでもよいことだった。
この日の晩おそくなってから、悪評高いアイガーの嵐が襲来した。

わたしはテンジンがジャヌーをどう考えているのか知りたかった。
「あれは山ではありません。ジャヌーは歩哨に立っている恐ろしい巨人なのです。
彼は玉座にどっかり座って、ネパールの渓谷、とくにヤマタリ渓谷を監視しているのです。この山の他の側面はあまりにも高く、急峻なので、なにも心配することはないのです。人間や雪男が姿を現すと、ジャヌーは息を吹きかけます。するともう、なにもなくなってしまうのです。ですから、クンザの人たちは、絶対に近づかないのです」

カラコルムにある標高7,273mのムズダーグ・タワーは、難攻不落の評判が高く、その幻想的な写真は、世界中の雑誌に掲載されていた。

酸素使用には議論の余地があった。標高7,710mのジャヌーは、よく訓練された登山家の体力消耗の限界線ぎりぎりの高さに位置している。
わたしは酸素に賛成だった。その理由は2つあった。
まず第一に、ジャヌーの場合は7,000m、あるいはその上部で、登山家が、まだ一度もやったことのない激しい肉体的労働を強要する難しさを備えている。このような標高では、体力を極度に消耗させる大きなオーバーハングを突破したり、人工登攀をやったりした者はいない。

巨人ジャヌーは、頭を頂の岸壁にもたせかけ、腕を奇怪なひじ掛けにのばし、脚を南西の急斜面にぶら下げて、雲の合間に垂れ下がった氷の盆地たる玉座にどっかり腰をすえていた。

ジャヌーは、2,500mにわたり、頂から真下へと、たった一本の岩柱となって落下している。
地球上最大の壁の1つだ。

ダラン・バザール;ネパールの商業と産業の重要な中心地

タマールの高地渓谷の渡河

クンザは、わたしたちをジャヌーに導くはずのヤマタリの谷間の入り口にある、世界の果てだ。
数十世帯が、ヤク、山羊、羊を飼い、ジャガイモ畑の中でぽつんと生活している。
気候は大変きびしく、生活はとても惨めだ。

「あれはひとつの山ではない」とテンジンがいった言葉は本当だった。
山というよりも、たくさんの壁と、起伏の多い山稜と、驚くばかり急峻な懸垂氷河が立ち並んでいる、美しい荒荒しさの、信じられないような構造なのである。

もうひとつの鍋では、麦粉を牛乳で煮込んだこってりした粥をつくった。
これは栄養価が高く、非常に消化しやすい。

この標高では、酸素の欠乏で血液は濃くなるから、とくに手足の先の血のめぐりが悪くなるのだ。したがって、酷寒によって、急激に凍傷にやられる危険が多いのだ。

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