ロンメル麾下のドイツ戦車軍団がエジプト国境に迫り、地中海全域がヒトラーの手に落ちようとする１９４１年春。独軍の補給路を断つべく、獅子奮迅の活躍を繰り広げる者たちがいた。名将シンプソン大佐率いる、イギリス潜水艦部隊である。一瞬の気の緩みが死を招く緊迫の状況下、彼らは独空軍やＵボートの攻撃をかいくぐり、敵輸送船を葬っていく。第二次大戦中の、知られざる英雄たちの活躍を鮮やかに再現した待望の海洋戦記
破壊された「潜水艦」の運命を
目撃したものは誰もいない
突然の浸水がもたらしたものは、
慈悲深き、一瞬の死、空白
遺骸は鋼鉄の墓石に包まれ、
いまも海底に眠っている。
目に触れ、思い出となる墓標はない。
戦いのさなかに彼らは去った、不自然にも
「潜水艦にはミスを許す余地などない。諸君は生か死かのいずれかだ」
浅深度の対水上艦船用雷原
深深度用の対潜用機雷
艦橋では、艦長はすべて順調なことを確認すると「哨戒直配置につけ」と命令する。
通常、乗組員の3分の1が当直につき、哨戒長と見張り員2名が艦橋の当直につく。
まず、最も大事な作業である「ごみ捨て」が行われる。
「ごみ捨て許可願います」と誰かが艦橋の哨戒長に要請する。哨戒長は危険がない限り、これを許可する。艦内には便所は３ヵ所あるが、夜間にならなければ排出（ブロー）できない。昼間では艦の位置を暴露する恐れがあるからである。
潜行中の味方潜水艦は黄色い煙と火を発する信号弾を発射するようになっていた。
これを見たならば、水上艦は停止して潜水艦に浮上するように知らせ、識別する。
これをしなかった場合、攻撃側は爆雷攻撃を行うことになっていた。
すぐれた潜水艦の艦長になるには、すぐれた数学者になる必要があると、潜水艦部隊内ではよく言われていた。