社会を見る眼、考える眼

 新しいmakoworldブログを開設いたしました。SNS全盛時代ですが、愚直に互いの意見を掲げましょう。

「子供はみんな育つものではない」

2011-09-01 17:23:27 | エッセイ
鼻もちならない自画自賛から書くので、嫌な人はこの先を読まないでください。ぼくは短文の名手である。400字詰め原稿用紙10枚前後のものは、なにを書いても、身辺雑記か「いま想うこと」ぐらいしか書けない。これをエッセイという。一冊の本にするには、大きなくくり(=章立てという)を5章まで作り、その中身を6つ(小見出しという)ずつ構成すれば、6X5=30X10枚(400字原稿用紙)=300枚=230ページ前後の単行本になる。
 この手法で書き上げたのが、拙著の中では『メダカはどこへ』と『菜園バカの独りごと』である。一方、同じ10枚の作品を、同じテーマで30人で書いても、一冊の本になる。これを選集(=Anthology)と言っている。ペンクラブではこれまで3回の選集を募り、選定委員会が選抜するが、3回とも選ばれている。これは素人から募集する懸賞小説などと違い、全員がプロのモノ書きでペンクラブの会員同士で競うのであるから、高名な小説家が、必ずしも与えられたテーマでうまく書けるわけではない。むしろ、小説家はエッセイを書けない人の方が多いだろう。
 ということで、「愛犬物語」や「愛猫物語」では、三好京三、佐野洋、森詠、浅田次郎、米原万里、立松和平、志茂田影樹の各氏らと共にぼくの作品が選ばれている。ここに紹介するのは、三部作の中で一番高い評価を受けた「私を変えたことば」の、一節を紹介する。
 --川端で洗濯モノのすすぎをしている母に、数メートル上流のところで、ぼくはチンボを取り出し、勢いをつけて水面を弾いた。勢いがある分よく泡立った。「母ちゃんこの泡で、もう一回洗えよ」
 母は洗濯モノを放り出したバケツで水を汲んで、ぼくを狙って掛けてきた。「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」ボクは川の土手を上流に駆けて、裏山のチシャの木に登って、「ヤッホー」と叫んだ。
 この騒ぎを聞き付けて、向かいのばあさんが、泥ネギを手にしたまま、川向かいの土手に上がって来た。明治生まれのばあさんは、生粋の伊那弁を話す。「おめさんちは、ぼこ(男の子)ばっかし5人もいりゃ、せんてく(洗濯)するのてえへん(大変)ずら」
 大正生まれの母はすすぎの手を休めず、水面を見たまま、気後れせずに言葉を返した。「5人もいるけど、みんな育つものではねえし、また戦争があれば、兵隊にも取られる。手を掛けてしとねても(育てても)、みんなまともに(立派な成人)になるかも、分からねえ」ばあさんは母を励ますように「5人もぼこたちがおりゃ、2,3人はまともになるずら」「わしも、2,3人はまともに、しとなってくれなきゃ、生んだ意味もねえと思とっとるに」
 この夜、ボクはほとんど眠れなかった。自分の命を掛けて育てる母が、歩留まり5割が最低の目標と聞いて、他の兄弟の寝息を聞きながら、誰がふるい落とされるのか、母はその時、どうするのか、生きるというのは、大変な行為であり、親はなぜ子供を産み、育てるのか、10歳の頭では解決方法など分からず仕舞いで、いちばん鶏の鳴き声を聞いた。
 ぼくが自分の命と他人の命を、人生で最初に意識した日だった。(「私を変えたことば」は、2000年4月に小学館から刊行された)


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4 コメント

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Unknown (フリーク)
2011-09-04 09:10:11
makoさん、お疲れ様です。
CYPRESSさんと私を間違える程の視力低下は、しんどいと思います。ブルーベリーを食べられてみても改善しないものなんでしょうか??
自分は、CYPRESSさんほどのレベルを持った頭ではないので、新潮社のこともチンプンカンプンです。
makoさんのエッセイと全然関係ないんですが、先日、地元茨城放送のラジオ番組で、茨城県北茨城市が震災の津波で甚大な被害を受けたことが全国に知れ渡らず、何の対策も講じてくれない国や自治体に「諦めムード」で、自分たちで復興しようという動きをしている住民グループがいらっしゃいました。
老年の方が殆どでしたが、子供達もチラホラ。
その子供達は、住民で「復興しよう」という意気込みに、どう感じているんでしょうか。
今度、番組の顔見知りのスタップに聞いてみたいと思います。
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棄民でしょう (mako1.)
2011-09-04 14:45:46
 ブルーベリーは、そんなに眼にいいのでしょうか。今日のFacebookの「ともだち」も、「この頃、眼がかすむので、ブルーベリーのジャムをたっぷりのせて、トーストを食べている」と書いていました。
 北茨城のように、被害規模が岩手、宮城、福島のように、国の基準に達しない災害には、国の予算を使えないのです。もっと規模の小さい、わが千葉の旭市の場合、死亡者は17人でしたから、北茨城以下でした。
 国は何でも、規定・規則・法律で動きますから、これに漏れる被害者は、棄民されるのです。元日本人の海外移民者、戦前の満州移住者は、それぞれ国の政策に協力して、海外移住したのに、移住先の不当差別や開拓地の劣悪さについて、日本に文句を言っても、一切聞いてくれません。
 これを棄民と言い、ダイエー創業者の中内功は、国家に二度棄民されたと、自身の自叙伝に書いている。最初はフィリピン戦線で、人肉を食べて飢えをしのいだ時、二度目はダイエーを企業再生法で金融庁の再生委員会に接収されたとき。国家は個人でも、企業でも、まったく公平に扱っているわけではなく、救助されるより、棄民される割合の方が多いはず。
 子供たちは、ボクのように国家の仕組みも、予断もないので、自分たちの町は自分たちで再生しようと思っているはず。実は大人だってこの考えが、いちばん正しくまともなのです。
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Unknown (CYPRESS)
2011-09-07 19:09:29
1:
ブルーベリーは、アントシアニンと言う青い色素が視神経にいいらしいです。
テレビでよく聞く話が、第二次大戦中、英国空軍で朝食にブルーベリージャムを食べたパイロットは目が普段よりよく見えた、という話。
なんで今頃60年前の話が出て来るのか、ちと怪しい。
アントシアニンと言えば、アジサイの花の色素です。

2:
新潮文庫の話をもう一つ。
『ティファニーで朝食を』
この本も龍口直太郎の訳は酷かった。
2008年に村上春樹の訳が出るまでの、
40年間
も悪訳を出し続けた新潮社。
村上春樹の訳は読んでないのでどんなもんかは分かりませんが、新潮社がまともでないのはマコさんが書かれてる通りです。
『FOCUS』なんて下品で下種な雑誌を出したのも当然ですかね。
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Unknown (タケ)
2011-12-13 00:42:03
マコさん、皆さん超ご無沙汰しておりました。
夏以来ですね・・すいませんでした。
夏に帰省の際にちょっと心配事がありあれこれ考え込むうちに今となってしまいました。
って言いながら半分は完全に投稿のタイミングを失っていたんですが(汗)。
フリークさん、CYPRESSさんもお元気そうで何よりです。先月友人に誘われて日帰りのドックに行ってきました。自分自身としては長年の喫煙で肺の異状を心配していたのですが何の問題もなく相変わらず毎日プカプカやってます。
マコさんは視力低下ですか?でもマコさんは体のどこの部分をとってもかなり若い数値が出ると思いますよ。僕は夏以来毎日欠かさずマコさんを見習い最低でも1時間の即歩を実行しています。健康が気になる歳になってきました(笑)。またお邪魔します。
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