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「ハナとカミナリ」(愛犬物語から)

2011-09-04 15:03:47 | エッセイ
20世紀末の暑い夏の午後、愛犬ハナが死んだ。13歳と9カ月で旅だったハナは、人間の年齢に換算すれば80歳になる。多臓器不全で亡くなったハナは、末期に腹水がたまり、肺と心臓を圧迫するため横になることもできなかった。真夏の太陽を避け、庭木に寄りかかったままの体勢で、絶命した。

 メスの雑犬であるハナが、わが家にやって来たのは、1986年(昭和61年)の11月だった。大学に通っていた長女が、学校の帰りにもらってきた。「世話するのが大変だから、返してきなさい」妻が執拗に言っても、長女は耳を貸さなかった。「あなたも黙っていないで、言いなさいよ」内心飼ってもいいと思っていたぼくに、妻は見透かしたように矛先を向けた。「パパ、私が面倒をみるから、飼わせて、お願い」長女は私に哀願するように言った。「まあ、いいだろう。しかし、生き物を飼うのは、ある意味で人間より、大変だぞ」
 結局、飼う羽目になったが、長女はハナと命名しただけで、一切面倒を見なかった。仕方なく、妻がドッグフードだけでなしに、家族が食べ残した魚の骨や頭にご飯を足して、ハナの雑炊をつくったりした。ボクはどんなに遅く、酔って帰って来ても、散歩を一緒にした。次女は長女に代わって、ハナのボディーシャンプーを担当した。
 ハナは雷が大嫌いだった。嫌いというより怖がった。雷鳴がとどろくと、庭で泣き喚き、テラス側のガラスをひっきりなしに前足の爪で引っ掻く。仕方なく、ビニールの風呂敷を敷き、戸を開けるとさっと飛び上がって、行儀よく座って、ぶるぶる震える。そのまま、ビニール風呂敷で包むようにして、バスルームに連れて行き、シャンプー&リンスをする。これで、家の中を闊歩できる。家の中で粗相をしたことは一度もない。雷の夜は、次女のベッドで一緒に寝る。翌朝は、次女が庭に面する引き戸を開けて、庭を指差し「ハナ、バイバイ」というと、さっと飛び出し、「ワンワン」と二礼吠えをした。
 ハナが亡くなった日、全員がショックで夕飯も食べられない状態になった。妻が白布で包み、みかん箱に入れた亡き骸に、みんなで焼香した。約14年、家族と一緒に過ごしたハナは、家族の愛を一身に受けて育った。ぼくのクルマに乗って、信州にも、箱根にも、九十九里浜にも行き、思い切り走りまわった。ハナに尋ねなかったが、よい生涯だったと思っている。
 ハナ以外にハナはなし。二度と愛犬、愛猫などは飼わないことを、家族で申し合わせた。 
 (ハナのエッセイ全文は、日本ペンクラブ編「犬はどこまで日本語が理解できるか」(光文社より2003年3月刊行)に収録されている。


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