NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#367 ギター・スリム「Guitar Slim」(Specialty)

2024-04-07 07:43:00 | Weblog
2024年4月7日(日)

#367 ギター・スリム「Guitar Slim」(Specialty)






ギター・スリム、自身の名前をタイトルとしたナンバー。50年代、スペシャルティレーベル時代の録音。アルバム「Things That I Used to Do(1964年リリース)、「Sufferin’ Mind」(70年リリース)に収録。

米国の黒人ブルース・マン、ギター・スリムは本欄でも過去2回取り上げたが、まだまだ彼の魅力を書き切れていなかったように思うので、三たび取り上げてみたい。

本名、エディ・リー・ジョーンズ。1926年10月にミシシッピ州グリーンウッドに生まれ、本格的な音楽活動は49年にニューオリンズに移住、ヒューイ・ピアノ・スミス(1934年生まれ)と共に演奏するようになってからだ。

初期のギター・スリムの詳細について知りたい向きは、スミスの伝記(ジョン・ワート著)を読むのが良いだろう。

最初のレコーディングは、51年のインペリアルレーベルにて。後に「Bad Luck Blues」へと改作される「Bad Luck Is On Me(Woman Trouble)」などを録音。当時はエディ”ギター・スリム”ジョーンズという名義だった。

そのひとつに「New Arrival」というブギ・ナンバーがあった(前掲曲と合わせてシングル・リリース)。

これが実は、本日取り上げた「Guitar Slim」の原型となった曲であり、冒頭の歌詞ですでに自己紹介をしている。

「New Arrival」はどちらかといえば、相方のピアノ・スミスのピアノをフィーチャーした作りで、ギターこそ弾いてはいるが、オブリ中心であまり目立ったプレイをしていない。音もペナペナで、おとなしい。

同工異曲の「Cryin’ in the Mornin’」(54年にシングルリリース)にしても同様である。ジャンプ・ブルースっぽく、なんとなく古臭いサウンドだ。

その後、J-Bレーベルを経て、スペシャルティに移籍。ギター・スリムはここから、メジャーへの道を大きく歩み出す。同レーベルと契約した53年、彼はさっそく「Things That I Used to Do」の特大ヒットを放つのである。

とにかくこの曲が、売れに売れた。R&Bチャートで6週間1位、42週にわたってチャートインという、スペシャルティレーベル史上最大のヒットとなった。

同時期に「New Arrival」も「Guitar Slim」と改題、アレンジも大きく変えて再録音される。

このニュー・アレンジ版を聴いてみると、明らかにサウンドがグレードアップしているのが手に取るように分かるだろう。

ピアノはバックに引っ込み、分厚いホーン・セクションがそれに代わるかたちで全体のサウンドを引っ張っている。そしてそれに負けじと対抗するのが、ギター・スリムの張りのあるボーカルと、かなり歪み気味のギター・プレイである。

50年代前半にして、意識的に始めたのか、あるいは偶然の産物かはよくわからないが、既に彼はディストーション・ギターにチャレンジしていたわけである。

まだその手のエフェクターも、自然と歪むセミ・アコースティック・ギターも誕生していない時代、これは相当に革新的なことであった。

彼がいかに新しい音の開拓に余念がなかったかが、よく分かる。ジミ・ヘンドリックスが、ギター・サウンドに革命を起こす、はるか10年以上前のレコーディングである。

言ってみればギター・スリムは、60年代のロックを10年以上先取りしていたのである。

そんな先駆者ギター・スリムにも、見本、お手本というか、アイドル的な存在がいた。

クラレンス・ゲイトマウス・ブラウンである。

ギター・スリムよりわずかに年上、1924年生まれのゲイトマウスは、20代半ばで既にスターであった。その歌とギターに憧れたギター・スリムは初期のレコーディングでは、かなりゲイトを意識して歌い、かつプレイしている。

そういう「トリビュート」対象の見事なサンプルが、47年、ゲイトマウス23歳のアラディンレーベルでのヒット・シングル「Gatemouth Boogie」である。その音源も合わせて聴いていただこう。

これを聴くと、冒頭部の自己紹介がまんま同じパターン。なんとも露骨な真似っこである。むしろ微笑ましいくらいだ。また、全体の曲調もよく似ている。

憧れの存在に近づくべく、模倣してそっくりなナンバーまで作ってしまう。これこそ、新人の誰しもが通る道なのかもしれない。

「Gatemouth Boogie」から「New Arrival」へ、そしてさらに「Guitar Slimへ。この三段跳びにより、ギター・スリムはビッグ・アーティストへと成長した。

単なるスターのエピゴーネン(亜流)から、オリジナリティを持ったアーティストへの脱皮。

「Guitar Slim」という、ギター・スリムという名刺がわりのナンバーには、このような前史があったのである。




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