2008年5月25日(日)
#35 クリス・ファーロウ「Baby Make It Soon」(Paint It Farlow/Immediate)

英国のシンガー、クリス・ファーロウ、68年のコンピレーション・アルバム「Paint It Farlow」から、オールダム=ウールフスンのコンビによる一曲。
クリス・ファーロウといってもピンとこないムキが多いかもしれない。
60年代以降、ブリティッシュR&B・ロックのパイオニアとして活動していながら、いまひとつワールドワイドな人気を獲得できず(ロッド・スチュアートはもちろん、ヴァン・モリスンのようにもなれず)、いわゆる通好みのシンガーに終わってしまった。
が、なかなか味わい深い歌声をもっているのだよ、彼は。聴き逃すのは、もったいないってもんだ。
本名ジョン・ヘンリー・デイトン。40年、ロンドン近郊に生まれる。他の多くのブリティッシュ・ロッカーたち同様、スキッフルのスター歌手、ロニー・ドネガンの影響を受けてギターや歌を始める。
そのうち歌に専念するようになり、バックバンド「ザ・サンダーバーズ」を率いて、62年メジャー・デビュー。サンダーバーズには、後にクラプトンなどとも組むことになる名ギタリスト、アルバート・リーが在籍していた。
66年にローリング・ストーンズのマネージャーとして著名であったアンドリュー・オールダムに見いだされ、オールダムの立ち上げた新レーベル「イミディエイト」に移籍する。
そのレーベルにおいてのいくつかのヒットを収めたのが、この「Paint It Farlow」というアルバムである。
レーベルオーナー/プロデューサーのオールダムの作品を歌っているほか、レーベルメイトにあたるスモール・フェイセズ、オールダムつながりのストーンズ、あるいはモータウンの曲なども取り上げている。
その声はといえば、どこか当時の同じ英国人シンガー、トム・ジョーンズを連想させる、ちょっとハスキーで深みのあるバリトン。
70年代以降のブリティッシュ・ロックのボーカルが、明らかに超高音指向になっていったのとは好対照で、実にシブいのである。むしろ米国のサザン・ソウルに近い味わいであるな。
彼の写真を見るに、同じR&Bをルーツに持つアーティストとはいえ、ストーンズやスモール・フェイセズみたく婦女子にキャーキャー騒がれ、ミーハーな人気を集められるキャラとはいいがたいし、逆にトム・ジョーンズのように、ムンムンのセックス・アピールで迫るという感じでもない。実に中途半端なポジションのひとなのだ。
スター性はイマイチ。でも、音楽的には結構わるくない。筆者的には、彼の「重心の低さ」に、自分自身の立ち位置と共通したものを感じるのである。
スターとして、婦女子に騒がれなくたってええやん。自分にとって一番グッとくる、骨太の音楽をやっていられれば。
クリス・ファーロウを聴くたび、筆者はそんなことを考えている。
今年68才のクリスに「少なくとも、オレはあんたの歌が好きだぜ」、そう伝えたい。