鴨が行く ver.BLOG

鴨と師匠(ベルツノガエル似)と志ん鳥のヲタク全開趣味まみれな日々

最近読んだSF 2022/7/16

2022年07月16日 09時00分02秒 | ゲーム・コミック・SF
夏だ!休みだ!SFだ!ヽ(^o^)ノ(といいつつ通勤電車内で年中SFを読み続ける鴨)
先日読了した古典をレビュー。燻し銀の作品です。

司政官/眉村 卓 (ハヤカワ文庫)

遥かな未来、人類は太陽系外の居住可能な惑星に勢力を拡大し、植民地化を進めている。各惑星を治める「司政官」は、連邦経営機構の高度な訓練を受けて各地に送り出されるエリート官僚である。各惑星の気候・風土・文化を熟知し、現住生物との良好な関係を維持し啓蒙することに心血を注ぐ日々。そんな彼らの目を通して描き出される各惑星の姿と行く末をリリカルに紡ぐ連作短編集。

詩情に満ちた、それと同時にたいへん重たい読後感の連作集です。
作品の古さゆえの舞台設定の違和感は、大いにあります。まず何よりも、ある程度文明が発達している惑星にわざわざ乗り込み、地球人の価値観に基づく「啓蒙」を進める発想が根底にあること。それから、登場する司政官が全員男性であること(最後のシーンで女性の「巡察官」が登場しますが、短絡的な思考で高圧的な物言いをする戯画的なキャラとして描かれています)。この辺の違和感は、それはもぅ突っ込みどころ満載ですが、いったん脇に置いて虚心坦懐に読み進めると、この作品はSFのフォーマットを借りた政治劇なのだな、ということがしみじみと実感できました。

惑星を統治する組織体制において、人間は基本的に司政官ただ一人であり、優秀で忠実な(しかし、心を通わすことはできない)ロボット官僚に囲まれてこれらを駆使しながら”政治”という困難な任務をミスなく遂行しなければならない、この孤独。たまに登場する地球人の植民者は、必ずしも司政官の味方ではなく、むしろ足を引っ張る側になることも多い。しかも、時代が進むにつれて、司政官制度自体が硬直化していき、互いに牽制しあったり巡察官の圧力を受けたりと、次第に追い詰められた立場になっていく・・・。
登場する司政官たち自身も、こうした状況を十分に自覚しており、そんな閉塞的な状況に置かれてもなお、自らの職責を正しく果たすべく、様々な困難に立ち向かっていきます。その大半は、悲劇的な結末に終わってしまう予感を孕みつつ、明確な結末を示さずに物語の幕が閉じます。

読み終えて本を閉じた時、ずっしりと背中に重たいものがのしかかってくる感触を覚えました。
善きことをなすために全力を尽くしつつも、何事も為せずに散ることを予感している、この虚無感。時代ゆえの古さはあるものの、この作品のエッセンスは、時代にかかわらず通読に耐えるものだと思います。この頃の日本SFならでは、ですね。
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