マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




 最近、後期高齢者医療制度を巡って与野党間で議論が戦わされていますが、それと並んで、年金問題もまた、常に与野党間の大きな政治的議論の対象となってきました。2004年には大きな法制度の改正があり、その際にも議論となりましたが、その後も議員年金問題、国会議員の年金未納問題、そして社会保険庁の年金記録管理問題が次々と発生。5月31日付の報道でも、国民年金保険料の納付率が2007年に64%前後となり(ちなみに前年は66.3%)、社会保険庁が目標としていた「80%」を回復できなかったという記事が配信されています。

 重要な問題であることはわかりつつも、自分が年金の支給を受けるのは遠い将来であること、どうせ少子高齢化の影響から将来年金の額は減らされるだろうと諦めていること、制度が複雑かつ専門的でなかなか理解しづらいこと等から、ともすれば大手マスコミが報道している言説に流されがちです。

 ところがこの本。「年金は将来破綻するので入らないほうがトク」「年金未納者が多いと年金は破綻する」といった、従来私たちが「常識」と思ってきたことが、実は事実ではないということを、見事に説明しています。著者の主な反論点は以下のとおりですが、こうしてみると、私たちの「常識」が如何に根拠の無い、空理空論であるのかが改めて感じられます。

●1.年金に加入するのは個人で貯蓄するよりお得である。
●2.そもそも現在の(2004年の法改正以前の)制度を維持することはできない(1973年に現制度がはじまったときから給付水準が高すぎたのであり、制度改正は当然)。
●3.1975年生まれ以降の世代に世代間格差は無い
●4.2004年に法改正が必要だったのは、少子高齢化の進行が原因ではない(制度自体が持続不可能だった)。
●5.経済成長があっても年金支給額も(賃金再評価制度により)増えるので、年金財政は好転しない
●6.マクロ経済スライド調整率を調整(して支給額の物価スライドによる上昇を抑制)すれば、少子高齢化社会でも年金制度は維持できる(但し厚生労働省が予定している調整率では不十分)。
●7.相対的年金水準(年金支給額を可処分所得の何%とするか)は(例えば厚生労働省が説明する50%からは)20%台~30%台に低下せざるを得ないが、そもそも「可処分所得の50%」は比較的高い水準
●8.年金未納は問題ではない。未納率を下げても、その分受給権利者が増えるので年金財政は改善しないどころか、むしろマイナス。
●9.高齢者で無年金のため生活保護を受けている人は既に多数いるが、これは国民皆年金制度が確立していなかった頃の高齢者。
●10.基礎年金を賦課方式から消費税方式に変えても、年金財政が好転する訳でもなく、また負担が軽減される訳でもない。消費税方式は、厚生年金については企業負担が廃止されるが、企業減税をしてその負担を個人に転嫁しているだけ。
●11.国民年金と厚生・共済年金は制度構造が異なり、一元化は容易ではない
●12.保険料を払わなくても年金をもらえる専業主婦の第三号被保険者は、別に「年金泥棒」ではない。むしろ、第三号被保険者に負担させたほうが不公平
●13.基礎年金を税方式とし、それ以上を民営化(私的年金化)すれば、格差は大きく拡大する。

 とにかく、詳細はこの本を手にとって読んでみてください。「目から鱗が落ちる」とはこのことで、今の制度に賛成するにせよ、反対するにせよ、極めて有益な基礎資料になること請け合いです。

「年金問題の正しい考え方 福祉国家は持続可能か」
著者:盛山和夫(東京大学教授)
出版社:中公新書
価格:860円+税



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