マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 




(写真)経済対策を発表するサルコジ大統領(12月4日、ドゥエにて)

 アメリカ発の世界同時金融危機が各国の実体経済に大きな影響を与え、日本でも政府による景気対策・雇用対策が大きな課題となっていますが、報道によると、フランスのサルコジ(Nicolas SARKOZY)大統領は12月4日、仏北・パ・ド・カレ州北県ドゥエ(Douai)で演説を行い、投資刺激を中心とする260億ユーロ(約3兆1200億円)規模の緊急経済対策を発表したそうです。

 この経済対策は、フランスの国内総生産(GDP。仏語ではPIB=produit interieur brut)の1.3ポイントに相当し、2009年のGDPを0.6ポイント押し上げようというもので(なお、経済協力開発機構(OECD)や国際通貨基金(IMF)は、2009年のフランスのGDPが0.4~0.5%マイナスとなると予測)、260億ユーロの内訳は、40億ユーロをインフラ整備(高速鉄道、大学)の加速及び軍備計画を担当する公共企業へ、25億ユーロを住民に対する付加価値税の払い戻しの前倒しのため地方公共団体へ(但し、英国のように付加価値税の税率そのものを下げることはしない。)、同じく税金の払い戻し(還付)のため115億ユーロを金融機関等へ、数億ユーロを従業員10人以下の中小企業が新規雇用を行った場合に社会保障負担を軽減するための財源へ、18億ユーロを追加的な住宅10万戸分の建設や金利なしの貸付の枠の倍増等へ、3億ユーロを建設業界の下請け企業へ、5億ユーロを失業者対策へそれぞれ投じるほか、自動車産業への救済策として、10年以上乗っていて環境性能に劣る自家用車を買い換える際に、買い換える新車の二酸化炭素の排出が1キロあたり160グラム以下であるときは、1台あたり1000ユーロの補助金を支給するとの施策("prime a la casse"、廃車補助金)も盛り込まれました(この制度は12月4日から2009年12月31日まで有効。)。

(写真)聴衆を前に経済対策を発表するサルコジ大統領

 更に、サルコジ大統領は、工場の国外移転を進めるPSA、ルノー等の自国の自動車産業を救済する決意を示しつつも(上記の1000ユーロ支給策等)、米国において同様の自動車業界救済策が検討されていることに関連し、米国の自動車産業への補助金投入に応じてフランスも補助金を投入する意向を表明。自国の自動車業界が、公的資金を受け取る米国に劣後しないよう配慮する姿勢を示す一方で、こうした国家補助を「共同体市場に適合しない。」として規制する欧州連合(EU)の競争政策(国家補助規制)を批判しました。
 
 「この(経済)危機は、痛ましく、恐るべき試練であるが、我々は未来に向けた精神を維持しなければならない。」と発言したサルコジ大統領は、この経済対策を投資中心とした理由について、「それは、今日の雇用を救うために(経済)活動を支える最善の方法だからであり、それが明日の雇用を準備する唯一の方法だからである。」と述べ、あくまで供給サイドへのテコ入れが重要であるとの考えを強調しています。実際、サルコジ大統領は、2007年1月14日の大統領選挙立候補演説の中で、「後見主義(アシスタナ、Assistanat。弱者に対症療法的に補助金をばら撒く政策)はとらない。」と繰り返し表明しており、今回の経済対策にも同大統領のそうした思想が反映されていると見ることができます。加えて、前述したように、EUの政策として国家補助が厳しく制限されているという状況も、仏政府の経済運営に影響していると見ることもできます。

(写真)チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世睨下と会談するサルコジ大統領(12月6日、訪問先のポーランドにて)。チベット独立に反対する中国はこの会談を批判し、フランスがEU議長国であることを踏まえ、EU・中国首脳会合を延期。

 とはいえ、今回の経済対策が純粋にサプリライサイドのみかというとそうでもなく、例えば積極的連帯給付(revenu de solidarite active、RSA。従来のRMI(revenue minimum d'insertion、社会復帰用最低給付)等複数の社会保障給付に代わって仏国内の一部で導入された新しい生活保護制度。これまでのRMIでは、失業中に受け取るRMIの額(最新の金額は、独身者447,91ユーロ、配偶者ありで671,87ユーロ)のほうが、就業後に受け取るSMIC(最低賃金)よりも高くなる場合があるという矛盾があったため、2007年5月からRMI等複数の制度を統合して新たに国内約30県で導入され、2009年6月に全ての県で導入される。)の受給者350万人について、「社会的正義の見地から」特別給付金200ユーロ(約2万4000円)を給付するとも発表しています。このあたり、日本の「定額給付金」にも似ていますが、フランスの制度は、あくまで生活保護世帯が対象で、全国民に給付するものではありません。

 また、今回の経済対策が、仏政府にとって「リスクがゼロ」という訳ではありません。3兆円を越える財政出動により、GDPの3.1%に留まっていたフランスの財政赤字は、この経済対策によって2009年には3・9%に上昇しそうで、そうなると、共通通貨ユーロを導入している関係上、加盟国が財政規律を維持していくために採択されたEUの安定・成長協定(財政赤字をGDP比3%以内に抑えること等を規定。)に基づいて、2007年1月に一旦は解除されたフランスに対する過剰赤字財政手続の適用が、再び取り沙汰されるかもしれません。

 フランス議会は、2009年1月からの会期で、今回公表された経済対策に必要な法案を審議することとなります。対策について、与党・国民運動連合のデヴェジャン(Patrick DEVEDJIAN)幹事長はこれを歓迎する一方、党首に当選したばかりのオブリ(Martine AUBRY)仏社会党首席書記(女性)は、「現在の危機に対応するに十分な水準ではない。」等として批判していますが、与野党の「ねじれ国会」となっている日本とは異なり、元老院・国民議院双方を与党が握るフランス議会では、審議は少なくとも日本よりは円滑に進みそうです。



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