元厚生事務次官らを殺傷した男、逮捕（Ｍ）

（写真）小泉容疑者が出頭した東京・霞ヶ関の警視庁。すぐ近くには厚生労働省もある。

　報道によると、警視庁は11月23日、埼玉県と東京都でそれぞれ元厚生事務次官だった男性とその家族が殺傷された事件の被疑者として、埼玉県さいたま市北区東大成町在住の無職・小泉毅容疑者（46歳）を逮捕（容疑は銃刀法違反）したそうです。

　この事件は、11月18日、さいたま市南区在住の山口剛彦・元厚生事務次官（66歳）とその妻・美知子さん（61歳）が何者かによって殺害され、更に同日午後、東京都中野区在住の吉原健二元厚生事務次官（76歳）の妻靖子さん（72歳）が宅配業者を装った男性に刃物で刺されたもので、山口元次官と吉原元次官が共に旧厚生省で年金局長、事務次官を経験した人物であったことから、「年金テロ」との見方が急速に流布。東京・霞ヶ関の厚生労働省庁舎では警備が強化され、また歴代の厚生労働事務次官や年金局長に警察の警備が付される事態に発展しました（小泉容疑者は、22日夜にレンタカーで乗りつけ警視庁に出頭、血のついたナイフ類を多数所持していたため、急遽麹町警察署に任意同行されていた。）。

　逮捕された小泉容疑者は、動機について「保健所にペットを殺され腹が立った」ためと説明しており、「最初は政治家などが国を動かしていると思ったが、大学に入って学んでみたら官僚が国を動かしていることが分かり、高級官僚が悪だと分かった」ため、「元次官とその家族１０人前後を殺害する計画だった」等と供述。警視庁への自首直前に報道各社に送信した電子メールの中でも、「今回の決起は年金テロではない！ 今回の決起は34年前、保健所に家族を殺された仇討（あだう）ちである！ 」「やつらは今も毎年、何の罪の無い50万頭ものペットを殺し続けている。 無駄な殺生はするな！！！ 無駄な殺生をすれば、それは自分に返ってくると思え！」等と記しているそうです。私自身は、当初事件が報道されたとき、これを「年金テロ」と報じた報道各社の姿勢を疑問視していた（旧厚生省は、年金以外にも、麻薬取締りや医薬品、医師免許等を所管しており、例えば麻薬問題に関連しての暴力団による犯罪との線のほうが有力なのではないかと考えていた）だけに、「年金テロ」ではなかったとの結果に驚きはありませんが、ペットの犬の生命についてこれだけ共感できるはずの犯人が、何故被害者の生命に思いをいたすことができなかったのか、不思議でなりません。所詮、「ペット」云々は犯人の勝手な言い分の一つであり、斟酌する余地は全く無い訳ですが（にもかかわらず、最近の報道を見ていると、容疑者の言い分をそのまま鵜呑みにして行政批判をしている主要報道機関があり、驚かされます。まるで、「強盗殺人犯人が強盗行為に走ったのは、国の経済政策が悪かったから。」「何事も行政、官僚が悪い。」等と主張するようなものです。）、他方で、これだけの事件を引き起こしたにしては動機としては弱いという印象もあり、更に何か別の背後関係があるのかもしれません（その後の報道等を見れば、容疑者は失業をきっかけに国政に不満を持ち、それが昔のペットの思い出と結びついて厚生省の大臣や職員を憎悪するようになったらしい。警察の捜査で、小泉容疑者は歴代事務次官や社会保険庁長官など１０人以上を殺害する計画を立てていたことが明らかになっている。）。報道によれば、容疑者はかつて捨て犬の世話をするボランティアをやっていたこともあるそうで、そうした人がどうしてかかる凶悪な犯罪を実行し得たのか、不可解極まる思いです。

　ちなみに、飼い主の居なくなったペットの処分の根拠法令は「動物愛護法」で、これは厚生労働省や警察庁ではなく環境省の所管だとか。一方、保健所の設置主体は都道府県や政令指定都市などの地方公共団体であり、厚生労働省（旧厚生省）が「保健所での犬の処分」に関与し得るのは「狂犬病予防法」に基づく場合のみであり、その場合であっても当該犬を処分するかどうかは保健所の判断にゆだねられているとのことで、いずれにせよ小泉容疑者の主張は間違いだらけだったことになります。

　それにしても、今回の事件では被害にあった２人の元次官の自宅が何度も報道されていましたが、果たしてこれだけ個人情報を公表してしまっていいものなのか、強い疑問を持ちました（実際、小泉容疑者も、職員録で住所を調べた上、インターネットの地図検索サイトを使って犯行現場を「下見」していた、との報道もあります。）。既に吉原元次官については年金問題に関連して週刊誌に自宅の写真を報道されていますが、元事務次官とはいえ、既に市井の人となった個人宅を、これほどまで暴いてよいものなのでしょうか。吉原元次官は難を逃れたとはいえ恐らくこの事件の後で転居を余儀なくされるのでしょうが、転居に要した費用を国やマスコミが弁償してくれる訳でもなく、被害者にとってひたすら理不尽な結果となるように思われます・・・（まあ、そもそも職員録に自宅住所を載せてしまっていたのは問題ですが。）。