マオ猫日記
「リヨン気まま倶楽部」編集日記
 



(写真)事件のあったベルクール広場

 仏全国に広がっているCPE(新社会人労働契約)制度反対デモですが、18日(土)、リヨンではトルコ系フランス人のデモ集団にCPE反対デモの学生集団の一部が衝突学生側6人が逮捕される事件がありました。

 事件の発端となったのは、18日午後2時ごろから行われたトルコ系フランス人のデモ。これは、現在アントナン・ポンセ(Antonin-Poncet)広場(ベルクール広場の隣)に建設中の、トルコによるアルメニア人虐殺事件(1915年)の記念碑に反対するもので、リヨンのアルメニア人社会の求めに応じて2月中旬から建設工事が始まったのに対し、「トルコ・フランス協会」が「工事反対」を訴えてデモを合法的に企画。ローヌ・アルプ州内からバスで集まった約3000人のトルコ系フランス人が、人波の整理と衝突防止のために主催者自身が雇った警備員とともに「アルメニア人虐殺はでっちあげだ」「歴史の探求は研究者に任せるべき」等と主張しつつトルコ国旗を手にデモを開始。午後3時40分ごろ、トルコ系フランス人のデモ集団はベルクール広場を離れ、半島(プレスキル)を市役所前広場へ向けて行進しました。
 午後5時にはデモは終了し、「トルコ・フランス協会」のデモ隊は再びバスに乗り込みましたが、この間、200人の警察官が周囲を警備。デモ隊の周辺には約100人の「若者」が集まり、「正しい歴史認識を持て!」「我々は皆アルメニア人だ!」「トルコ人は帰れ!」等と罵声を浴びせました。また、たまたま同時期に行われていた学生らのCPE反対デモ参加者のうち、アルメニア人を含む一部が暴徒化したため警察が介入。暴徒らは警察や商店、マスコミ関係者に投石する等したため、警察側が放水、催涙ガス弾で応戦し、6人が逮捕されました。地元のアルメニア人社会は「トルコ人のデモは歴史的事実を否定するもの」と反発する一方、ローヌ県庁は「デモは合法的な手続きを経ており、禁止する法令は見当たらなかった」としてデモを許可した理由を説明しています。

 トルコのアルメニア人虐殺問題とは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、当時のオスマン・トルコ帝国において、辺境に住む少数民族であったアルメニア人に対して、多数派のムスリム(イスラム教徒)住民らが迫害を繰り返し、特に第一次世界大戦中の1915年には強制移住が行われて数百万人単位(20~200万人)の犠牲者が出たとされる事件。トルコ側からは、当時のアルメニア人はロシアと結んで反トルコ・ゲリラを結成する者もおり、第一次世界大戦の勃発でロシアがトルコ東部に侵攻するに及んでトルコに敵対的なアルメニア人を移住させざるを得なかった、戦時下の混乱で不幸な犠牲はあったが国家的な民族虐殺ではない、と説明されますが、これに対して欧米在住のアルメニア人社会の側(トルコの迫害を逃れて移住してきた人々)は、トルコの国家的行為によりナチス・ドイツのユダヤ人虐殺(ホロコースト)のような民族虐殺が行われたと主張。フランス政府は2001年にこのアルメニア人社会の考え方を受け入れており、トルコの欧州連合(EU)加盟問題でも「アルメニア人虐殺問題の受け入れ」が加盟条件の一つにされています。

 このように、アルメニア人虐殺問題は日本ではあまり知られていないものの欧米では重要な「歴史認識問題」となっています。しかし今回のリヨンでの事件では、「反アルメニア感情」を表すべく合法的にデモをしていたトルコ系仏人に対して、これまた「反アラブ、反トルコ感情」に駆られたCPE反対学生、アルメニア系仏人らが喧嘩を売るという、ひたすら対立感情だけが目立つ残念な結果になっており、改めてフランスにおける民族問題の複雑さが伺えました



コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
Unknown (suzuran-rachel)
2006-03-29 02:45:28
こんにちは!ご無沙汰してます。

いま日本に里帰り中です。

今日も日本のテレビは相当大げさにというか

過剰に過敏にフランスでの今回の問題を報道していました。

パリは大変みたいだけどリヨンはまだ平穏なのかななんて思ってましたが・・・

この日はそうとう大規模な騒ぎのようですね。

仲のいいアルメニア人のクラスメートもいるのでついそちらの肩を持ってしまいます。

いつも詳しく簡潔にご説明ありがとうございます。

五月にリヨンに帰りますが早く落ち着いて欲しいものです。

どうかマオ猫さんも光さんもお気をつけてくださいね。
 
 
 
suzuran-rachelさん (光@マオ猫日記)
2006-03-29 07:52:20
 お久しぶりです!



 そういえば、日本に里帰りされてるんですよね?・・・お寿司、ウナギ、天麩羅うらやましいですって全部食べ物ですね(笑)。



 こちらは、連日デモとストの嵐で、地下鉄やバスが減便したりして不便ですが、身の危険を感じるほどではありません(地下鉄にはストをやってると職員が「説明要員」として立っていたりします)。ただ、私の通っている語学学校がベルクール広場の近くなので、ときどきデモ行進する学生たちの歌声が聞こえてきたりもします。警察官は勿論、最近では迷彩服の軍人が歩いたりしていてちょっとびっくりしますけどねー。



 それでは、また。

 日本での生活、エンジョイして下さいね。
 
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