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「ものが壊れるわけ」 - 壊れ方から世界をとらえる -

マーク・E・エバハート 著
松浦俊輔 訳
河出書房新社
ISBN4-309-25184-6

タイトルを見て面白そうだったのであまり考えずに買って
しまった本です。読んで見ると私には非常に面白い本でした。
何故かと言うと大学では私は金属工学科(今は材料工学科)だったからです。
多分、材料工学の基礎知識がない人にはこの本を読み進むの苦痛でしょう。
あっ、量子化学の超々基礎知識も必要かもしれません。

Amazonのカスタマーレビューを見ても評価が両極端に分かれています。
なぜ基礎知識が必要になるかを端的に書いてあるのがこちらのブログです。
手っ取り早く言ってしまえば、図が全くないのです。転位の説明など
図なしで理解するのはまず無理でしょう。

著者と私は同世代で著者が大学院で「壊れる」研究を始めたのが
1979年、私が大学に入ったのが1981年。大学時代に著者の研究に
触れる機会があったら私は違う道に進んでいたかもしれません。
当時は物が壊れる現象には興味があったけど、それを分析する
糸口は全く見えていなかったので、それよりも目の前にあった
コンピューターの方に走ったのでありました(^^;

驚くのは米国ではこういうエッセイ風の書き物が成立すること
です。どう見ても幅広い読者を想定してはいません。この本を
読んで面白そうと思った人間が同じ研究の道に入ることを期待
しているのでしょう。こうやって基礎研究への入り口を開く
努力があるのが米国の科学技術の強さの源の一つかもしれません。

しかし、著者はその米国で国家の科学技術に対する取り組みが
甘いと嘆いています。そんな思いも本を書こうという動機の
一つなのでしょう。でも、そんなこと言われたら日本の立場は
ないですな。まぁ、実際負けまくっている訳ですが・・・

もう一つ著者が指摘していることで重要なのは昔は物が
壊れるのは当たり前だったのに、今はものが壊れることが
許されない社会になりつつあることです。確かに米国の
訴訟には凄いものがあります。科学者/技術者より弁護士の
方が収入が多いのですから当然と言えば当然なのかも
しれませんが。

ちなみに、名前の由来で書いたパイレックスの話はこの本に書かれて
いるものです。また、コレールという食器用のガラスの話が
書かれていますが、私が米国駐在になった時に最初に買った
食器がコレールでした。買ったときは不思議な素材だなぁと
思ったのですが、説明書を読んでガラスだと知った時は驚き
でした。

まぁ、そんなこんなで驚きや共感に満ちた読書でした。
あくまで、私にはですが・・・


[追記:6/26 23:01]
一つ忘れていました。こんな文があります。
「同じ問題に対して正しい答えがいくつもありうることを初めて
 認識したのは、高校の化学の授業のときだった。」 
(10章:正解、不正解、無益解)
この認識を持っている人と持っていない人では考え方に大きな
違いがでますね。もっとも、本当は「正しい答え」自体が存在
しないのかもしれませんが・・・
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