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リーマン予想と素数の謎”1の6”(20/7/20更新)〜オイラーの非対称型ゼータから、リーマンの対称型ゼータと完備ゼータ関数へ

2018年11月16日 04時37分47秒 | リーマンの謎

 ”1の2”から”1の5”まで延々とリーマンの”解析接続”を述べてきましたが。あと6話ほどで、”その1”(シーズン1)の最後にします。その後は、”その2”(シーズン2)に入ります。多分6話ほどになる予定ですが(実際には17話にも膨れましたが^^)。
 さてと今日は、オイラーの非対称型関数等式からリーマンの対称型関数等式を導き出し、完備ゼータ関数に一歩コマを進めます。
 因みに完備ゼータとはゼータの完全版(コンプリート=完備)だと思って下さい。


オイラーの非対称型からリーマンの対称型へ

 ”1の5”(Click)でも述べた様に、オイラーは非対称型ゼータ関数等式、ζ(1−n)/ζ(n)=2Γ(n)cos(πn/2)/(2π)ⁿを既に見出してました(1749)。
 しかし、当時は複素関数も解析接続もなく、この等式の正確な意味付けはなされないまま、発見のみで証明はなされてなかった。

 これに対し、リーマンが新たに発見した対称型ゼータ関数等式は、ζ(1−s)/ζ(s)=π^(−s/2)*Γ(s/2)/{π^(−(1−s)/2)*Γ((1−s)/2)}です(1861)。
 少し見にくいですが、分母を払えば全くの左右対称等式ですね。前回”1の5”でも言いましたが、ξ(s)=π^(−s/2)*Γ(s/2)*ζ(s)とおくと、完備ゼータの完全対称式のξ(s)=ξ(1−s)となります。
 つまりゼータ関数等式には、オイラーが発見した非対称型リーマンが改良した対称型と、それに新たに発見した完全型(完備ゼータ)の3つの等式を頭によーく入れといて下さい。
 因みに、π^(−s/2)*Γ(s/2)がガンマ因子になってる事も、前回で述べましたね。

 リーマンは、オイラーの非対称型ゼータζ(1−s)/ζ(s)=2Γ(s)cos(πs/2)/(2π)ˢ―①を、s↔1−sの変換で、分母と分子を入れ替える様にし、”対称型”に変形しました。しかしcos(πs/2)が謎で、これを何とか消したい訳です。
 そこで、ガンマ関数の”倍角の公式”と”相反公式”を使って、オイラーの非対称型ゼータからcos(πs/2)を消します。
 まず、Γᵣ(s)=π^(−s/2)*Γ(s/2)とおきます。Γᵣ(s)がガンマ因子になってる事から、①=ζ(1−s)/ζ(s)=Γᵣ(s)/Γᵣ(1−s)を示せばいいんですが。ガンマとゼータでは分母と分子が入れ替わってる事に注目です。
 つまりリーマンは、ガンマとゼータとの間で分母と分子を入れ替える事で、cos(πs/2)を見事に打ち消したんです。

 そこで”倍角の公式”は、Γ(2z)=2²ᶻ⁻¹/√π*Γ(z)Γ(z+1/2)より、z=1/2とおくと、Γ(s)=2ˢ⁻¹/√π*Γ(s/2)Γ((s+1)/2)。
 これを①に代入すると、
①=Γ(s/2)Γ((s+1)/2)/π^(s+1/2)*cos(πs/2)
=Γ(s/2)/π^(s/2)*Γ((s+1)/2)/(π^((s+1)/2)*cos(πs/2)
=Γᵣ(s)Γᵣ(s+1)*cos(πs/2)―②。
 また、”相反公式”はΓ(z)Γ(1−z)=π/sin(πz)ですから、z=(1+s)/2とおくと、Γ((1+s)/2)*Γ((1−s)/2)
=π/sin(π(1+s)/2)=π/cos(πs/2)。
この分母の変形は三角関数の公式を使います。
 故に、cos(πs/2)=π/(Γ((1+s)/2)*Γ((1−s)/2))
=π^((1+s)/2)*π^((1−s)/2)/(Γ((1+s)/2)*Γ((1−s)/2))=1/Γᵣ(1+s)Γᵣ(1−s)。
 故に、cos(πs/2)=1/Γr(1+s)Γr(1−s)を②に代入すると、①=Γᵣ(s)/Γᵣ(1−s)ですね。
 よって、2Γ(s)cos(πs/2)/(2π)ˢ
=π^(−s/2)*Γ(s/2)/(π^(−(1−s)/2)*Γ((1−s)/2))が証明出来ました。

 見事に、cos(πs/2)が打ち消されてますね。ガンマ関数Γの”倍角の公式”と”相反公式”が少しややこしいですが、落ち着いてやれば難しくないです。
 よく見ると、cosで表示された非自明な謎の所が、s↔1−sの変換の分母/分子で表現出来てます。これぞまさに、リーマンショックです。
 以上より、リーマンゼータ関数が任意の複素数sで解析接続され、オイラーの非対称型ゼータから、リーマンの自明な美しい対称型ゼータを導き出す事が出来ました。
 それと、解析接続の一意性の性質から、問題ごとの適切な解析接続法が必要な事も示してくれますね。


完備ゼータ関数の本質とオイラー積

 その後20世紀になり、上で述べたπ^(−s/2)*Γ(s/2)というリーマンが発見した因子は”ガンマ因子”と呼ばれます。
 それに、”オイラー積”ζ(s)=Πₚ(1/(1−p⁻ˢ)とは”全ての素数pに渡る積”でしたが、これにガンマ因子(π^(−s/2)*Γ(s/2))をかける事で完備ゼータになり、完備ゼータ関数を表す完備オイラー積となります。故に、完備ゼータ=ガンマ因子×ζ(s)となります。何度もしつこいですが、これはとても重要な事です。

 また、完備ではないゼータでは”自明な零点”(実零点または実根)が出てきますが、上で求めたリーマンの対称型関数等式を使ってこの実零点を解消できます。
 この対称等式の分母を払うと、
ζ(1−s)*π^(−(1−s)/2)*Γ((1−s)/2)=ζ(s)*π^(−s/2)*Γ(s/2)ー②となりますね。
 先ず、s=−2n(負の偶数)とすると、1−sは3以上の奇数となり、左辺のガンマ因子は絶対収束し、0でない有限値をとります。
 またガンマ因子はs=0、−nで極となるので、右辺のsは負の偶数、s/2は負の整数より、Γ(s/2)は発散し、故にζ(s)=0になる必要がある。
 よって、ζ(−2n)=0。故にリーマンゼータ関数は全ての負の偶数で”自明零点”(実根)を持つ。
 またs=0にてはゼータの極(1)となり、右辺もガンマ因子の極(0)になるので、両辺共に∞となり、②の等式が成立する。故に、ゼータの自明な零点はこれが全てですね。
 一方で、自明でない零点(虚零点または虚根)はガンマ因子が有限値をとるので、ζ(1−s)=ζ(s)=0を満たす点より、s=1/2を中心とした対称の2組の点列という事になります。

 つまり、”ゼータの全ての虚零点の実部は1/2であろう”というリーマン予想は、”完備ゼータの全ての零点の実部は1/2であろう”と言い換える事が出来ます。故に、実零点は考えなくてもいいんです。
 自明な零点(−2n)は、ガンマ関数の極(−n)と打ち消し合うから、ガンマ因子を持つ完備ゼータでは零点じゃない。つまり虚零点こそが”本質的零点”であり、自明零点(実零点)は”中途半端な零点”と言える。
 故に、完備ゼータこそが本質的であり、素数よりも”素点”(体を空間として素数を完備化する方法)の方が本質的概念である。
 因みに、ここでいう完備化とは、”ゼータの収束列の極限値を全て含む様に拡張する”事で、話せばやたら長くなるので、次回”1の7”に回します。
 つまり、完備ゼータを語るには、素数よりも素点の概念が必要という事で、ここら辺になると非常に抽象的ですね。

 結局、オイラーが見出した対称関数等式は、右辺のcos部分の因子の意味が不明でしたが、リーマンがξ(s)=ξ(1−s)という完備ゼータの完全対称型等式を発見したお陰で、今ではオイラー積と言えば、カンマ因子を含めた完備ゼータのオイラー積が常識となってます。
 しかしその起点となったのが、リーマンのテータ関数を用いた”第二積分表示”だったんですね(”1の4”と”1の5”参照)。


リーマンの第三の積分表示と

 オイラーはsを自然数とする時、この級数ζ(n)の収束を考察してましたが(Z関数と名付けてた事が判っている)。後にリーマンがsを複素数にまで拡張し、ギリシャ文字のζによる表記に因み、リーマンゼータ関数ζ(s)と名付けました。
 オイラーのゼータを”オイラー積ゼータ関数”と呼び、リーマンのゼータを複素ゼータ関数と呼ぶ方が判りやすいかもです。 

 これまで述べてきた様に、リーマンは、オイラーの”第一積分表示”から出発し、複素関数として解析接続を行った後、オイラーの非対称ゼータを完全対称ゼータに変換します。これは、完備ゼータの完全対称型にもなってます。
 その後リーマンは、”明示公式”(素数公式)と名付けた”自明な素数定理”を発見しました。”素数の個数関数π(x)”であるこの素数公式は不完全ではありましたが、1895年にフォン•マンゴルドによって証明されます。
 リーマンは、π(x)を求めるには完備ゼータξ(s)の零点ρ全体を求めればいいという結論に達したんですが。残念ながらその詳細はリーマンの1859年の論文には書かれてなかったんですが。唯一書かれてたのが、”Re(ρ)=1/2”という有名な「リーマン予想」でした。

 しかし、リーマンがρ(零点)を求める事に専念した事が明らかになりました。
 1932年、大学の後輩であるカール•ジーゲル(1896〜1981)が、リーマンの計算メモを偶然にも発見したんです。
 それには、リーマンが零点の実部(1/2)だけではなく虚部も3つほど計算してた事。その虚部の計算に、Σ1/ρ=1+γ/2−log(π/2)−log2=0.0230957089…と手計算していた事。
 そして驚くべき事に、ゼータの第3の積分表示(リーマン•ジーゲル積分公式=ゼータ関数の周回積分表示)を用い、零点の手計算を行ってた事が、書かれてあったんです。
 因みに、このリーマン•ジーゲル公式には誤差項が付属し、 この漸近展開を求める時、ジーゲルが第3の積分表示から導き出した積分公式に最急降下法を適用し、導きだしたという事です。

 リーマンは、この手計算を”粗雑な計算式”と言い放ち、敢えて論文に載せなかった。
 お陰でリーマン予想の解明が少なくとも60年は遅れた訳です。因みに、この”隠された粗雑な計算式”は第三の解析接続とも呼ばれます。
 もしこの手計算をリーマンが公表してたら、彼の死後、ラマヌジャンらの大天才の手腕を持ってすれば、ひょっとしたらとも思うんですが。実に勿体無い事ですね。世紀の発明を”粗雑”と切り捨てるリーマンの超天才ぶりが伺えます。

 故に、零点の実部のみを見る「リーマン予想」が重要な予想ではあるものの、リーマンが求めてたものは、それよりもずっとずっと深く奥にあるものだったと言われてます。



6 コメント

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Unknown (桂蓮)
2018-08-30 21:00:19
一時期、リーマン予想に狂ったほど検索しまぐった時がありましたね。
素数について調べまくり、ノートに書きこんで...
当時は私のブログコメント欄を開けていたから
コメントが200以上ありましたね。
それらのコメントが分からない、難しいばかりだったので
その時点で挫折してそれ以上記事にしなかったです。
今になって思うとめげず、転んださんのように貫くべきだったのかな~
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Re:後悔する時も多々あります。 (lemonwater2017)
2018-08-30 21:19:10
桂蓮サン、今晩わです。いや向うではお早うございますですかね。

 ただ、このリーマンブログに関しては、何の興味も知識もなく、ウィキで調べたものをポンポンとコピペして、投稿しただけなんです(笑)。

 ホント全くのお遊びだった。自分のブログが余りにも閑散としてたんで、単なる話題集めだったんですよ。3話完結ほどで終わらせるつもりがね。

 ただ、バーゼル問題がまぐれで解けた辺りからですね、のめり込んだのは。バーゼル問題がリーマン予想の一突きになったのと、全く同じ展開なんです。信じられない話ですが。

 桂蓮サンの様に最初からのめり込んでたら、私もあっさりと挫折してたでしょう。偶然が偶然を産む典型ですね。
 でも、正直疲れますね。何事も程々が一番です。故に、2週間ごとの更新ですが、これが限界ですかね。
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完備ゼータ (paulkuroneko)
2018-08-31 05:47:10
この完備ゼータに関しても、実に興味深いです。リーマンはゼータを完備ゼータとしてすでに考えてたんですかね。リーマンの第二の積分表示で、テータ関数を使った時点でこのガンマ因子を思いつき、ゼータを完備化すれば、実零点は無視していい事になり、虚零点のみを追い求めることが出来ますものね。

転んださんの言うとおり、この虚零点を求めるのが深リーマン予想であって、本当のリーマン予想の姿なんですね。

それに完備化とは転んださんが言ってられるように、ゼータの収束列の極限値を全て含む様に拡張する事ですが。有理数体であるリーマンゼータを普通に拡張すれば、有理数体をはみ出し実数体に飛び出すんですね。無理数に収束する有理数列は実数では収束するのですが、有理数では収束しない。

そこでロシアの天才数学者カントールは、実数体が有理数体の完備化として構成されるも収束の定義が不完全ですから、この有理数列をコーシー列のように有理数体でも収束できる様に実数を定義したんです。

このカントールのおかげで、ゼータの完備化という概念が常識となったんですかね。少しややこしいですが、参考になればと。
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天才カントールの洞察 (lemonwater2017)
2018-08-31 15:08:13
paulさん、続けてコメント返しです。
毎度、高質で貴重なアドバイス助かります。

 ゲオルク•カントールですか。流石に目の付け所が違いますね。リーマンやオイラーと並ぶ数学の巨星です。カントールは、paulさんが説明した、収束有理数列をコーシー列と呼び、実数を有理数列の極限値であると簡潔に定義したんですよね。

 カントールのもう一つの偉大な発見は、無限大の大きさを分類した事ですね。自然数、整数、有理数が可算無限であり、実数と複素数はそれよりずっと大きい無限個である事を証明したんですが。全単射という対応付けにより、無限大の考察に成功したんです。

 カントールは、実数とは有理数からなる収束列の極限値の事で、つまり、有理数を無限に拡張した世界が実数である事を定義し、この拡張こそが完備化だと。そこで、収束列を正確に定義する為、”収束列と同義であるコーシー列を導入し、有理数の世界のみで、収束という概念を定義したんですかね。

 素点とは素数を使った完備化の事らしいんですが。p進距離(p進絶対値)を用い、有理数全体の集合Qに完備化出来るとありますが。私にはサッパリです。
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ゼータの完成形 (paulkuroneko)
2018-11-16 05:24:05
お早うございます。

ゼータからゼータの完成形としての完備ゼータ。そして素数を完備化した素点の世界。

その1では、解析接続から完備ゼータまで何とか到達ですね。転んださん御苦労様です。この完備ゼータに触れることで、リーマン予想の大まかな外観が掴めてきました。

素数の謎を最初に持って来なかったのは、全くの正解だったと思います。リーマン予想は素数の謎というよりも、ゼータの謎に起因する部分が多い様な気がします。

多分、転んださんはその1の最後で、完備化のテーマを持ってくると思いますが。実にいいタイミングだと。

これからも楽しみにしてます。お身体に気を付けて。
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ゼータの完備化 (lemonwater2017)
2018-11-16 13:42:45
 完備化の後に、素数を完備化させた素点を経由して、p進絶対値(p進数)を持ってくるか、少し迷ってます。

 ただ、リーマン予想には、p進体というのは必須でもない様な気もしますが。数論を語る上ではとても重要なコトです。

 最初は大まかに触れるだけで、飛ばそうと思ってたんですが。色々と調べてみると、結構興味深いですね。

 素点を完備化を語る上では、p進数は外せないのですが。でも長くなり過ぎて混乱するかもです。
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