夢の中で、私はある大学のキャンバスにいた。
友人が生協の食堂でメシを食いに行こうというので、”たまには豪勢な所で羽根を伸ばそうや”と逆に誘った。
友人は”そんなお金がどこにある?”と怪訝な顔をする。
私には、実はアテがあったのだ。
”大丈夫!ホテルを所有する知り合いがいて、そこでタダで食わせてくれる”
友人は更に不可解になる。
”いつもタダで食えんの?”
私は笑った。
”バカ言え!今日だけさね。偶然にも誘いを受けちゃって、でも1人じゃ行き難いし”
友人も笑う。
”そんな事だったの。どうりで話が出来すぎてると思った”
ホテルの屋上
私達二人は、正装もせずに普段着で出かけた。というのも、ホテルの支配人が急に来れなくなって、年老いたメイドさんだけが出迎えるという。
私達にとっては、そっちの方が都合が良かった。たかが食事に、そこまで神経を使いたくはなかったし、豪勢な雰囲気だけを味わいたかったのだ。
目的のホテルは、都心の一等地にあった。が、さぞ豪華なホテルと思いきや、ごく普通のアパートといった感じで、それも僅か7階建てである。
”HARLEM・KNIGHTS”と飾り立てられた中途なピンクのロゴが、そのホテルの品格を露呈してた様にも思う。
少し奇妙な予感がした。
私達は屋上へと向おうとしたが、友人はエレベーターの前で怖気づいたらしく、”嫌な予感がする”とだけ言い放ち、そのまま逃げ去ってしまう。
勿論、私も怖い予感はしたが、微妙にくたびれ果てたスラムっぽい薫りが不思議と自分にあってる様な気がした。
それに”ハーレム”という響きが私には心地よかった。
因みに、ハーレムとはNYマンハッタン島の北側にあり、元々は原住民(レナベ族)が営む農園であったが、やがてオランダ系移民が入植し、1920年代には多くの黒人が流入し、”ハーレム・ルネッサンス”と呼ばれる黒人文化が花開いた。
私はNYとハーレムの歴史を振り返りながら、最上階にあるレストランへと上がっていく。
ホテルの質感もエレベータの作りも古臭かったが、屋上の作りは見事だった。
豪勢とは言わないまでも、20世紀初頭の黒人文化を象徴する”熱い”雰囲気が漂っている。
少し早かったせいか、レストランはまだ”準備中”である。
私は、ホテル内を散策したくなり、階段で1つ下の階へ降りた。
驚いたというか予想通りというか、そこはまるで貧困者が群がるスラム地区状態であった。
部屋はみすぼらしく、トイレは糞尿などの排泄物がそのまま垂れ流され、私は思わずゲロを吐きそうになる。
慌ててトイレを出ようとすると、老いたメイドさんが待ち構えていた。
”まだ掃除が終わってなくてね。それも1人でやってるから、もうこんな時間になっちゃって・・・トイレの掃除が終わったら、早速食事の支度をしますから、屋上で待ってて下さいな”
ハーレムの騎士
私は思わず仰け反りそうになった。
”ビルの中の全ての部屋とトイレを一人で掃除するんですか?でも支配人は金持ちなんでしょ?”
おばさんは掃除をしながら、静かに呟く。
”ここは皆、貧しい人たちが住んでるのよ。スラムから何とか逃れた人たちが、このアパートに逃げ込んで必死に生き延びてきたの”
私は、ホテルの正体が掴みかけてきた。
”ハーレムとはそういう意味だったんですか。貧しさの象徴がこのホテルなんですね”
”私もその一人よ。最上階に住めるのはごく一握りの住人だけなの。どの世界も同じね”
私はそれ以上何も言えなかった。
再び屋上へ向かうと、周りを取り囲む様に聳え立つ高層ビル群の中で、このビルがとても貧相に哀れに思えた。
この貧しいビルを作るにも、黒人たちの犠牲の上で成し遂げられたのだと思うと、やりきれなくもなる。
ブルーになりかけた時、1人の大柄な男が目の前に現れた。
黒いスーツを羽織った男は黒人だったが、洗練され、颯爽としていた。
顔をよく見ると、あのモハメド・アリではないか。彼の事を「ホラ吹きアリ」でブログにしたから、文句の一つでも言いにきたのだろうか。
確かに、”ホラ吹き”は余計だったかもしれない。
男は若い時のカシアス・クレイに似ていた。スラリと伸びた体躯はヘビー級のボクサーには程遠く、まるで雑誌を飾るファッションモデルの佇まいを魅せていた。
そこには、高級化の流れを汲む新たなハーレムの文化が漂ってもいた。勿論一皮むけば、目を覆いたくなる程のスラムの文化が横たわっているのだが・・・
しかしこの男は、そんな事は何も気にしていない風だ。つまり、このホテルでは彼が支配者であり、王様なのだ。
男は私をホテルに案内した。
彼は何も喋らなかったし、私も何も聞かなかった。
広く豪華なレストランに用意された純白のテーブルに付くと、若い男が駆け足でやってきた。
こいつは映画で見る様な、青臭いチンピラマフィアだった。多分、男のボディガードであろう。
何かヤバい事でもあったらしく、男の耳元に何かを囁いている。
やがて、先程のメイドさんが現れ、食事を運んできた。どんな食事だったかは覚えてはいない。
というのも、食事をするなり、男はマシンガントークを放ち始めたのだ。
”俺みたいに偉大になりたけりゃ、全てに耐える事だ。それしか黒人には希望はない。白人みたいに優雅には生きれないんだ・・・”
私は、ハーレム・ナイツというタイトルの意味が少し理解できたようにも思えた。
目の前にいる男は、ハーレムの騎士なのだ。ハーレムに集まった黒人たちは奴隷ではなく、1人1人が騎士(Knight)となり、この地区と文化を作り上げた。
そして今や、黒人は奴隷でもアメリカ人でもなく、ハーレムに君臨する騎士なのだ。
夢から覚めて
そうこう思ってるうちに夢から覚めた。
モハメド・アリさんとは、もう少し色んな事を喋りたかったが、夢の中に出てきてくれただけでも感謝である。
確かに夢の舞台は、アリが若い頃のアメリカだった様な気もする。NYの街並みにしては古臭かったし、世界一の摩天楼群も絶景という雰囲気でもなかった。
実はこの夢は、2ヶ月ほど前に見た夢である。丁度その頃、アジアン・ヘイトクライムをテーマに記事にしようと思ってた時に、この夢を見た。
ニューヨーク州では5月14日、銃乱射事件があり、10人が死亡した。容疑者は若い白人男性で、犠牲者の多くは黒人だ。警察は、”人種差別による憎悪犯罪であり、ヘイトクライムとして訴追される”と述べた。
アリ氏が”今は耐える時だ”と言い放ったのは、天国からヘイトクライムの惨状を眺めていたからだろうか。
黒人がアメリカの白人の呪いから解き放たれ、奴隷から騎士に君臨する時、本当の平和が訪れるのかもしれない。
いや、夢で見た様に、そんなヤワで単純じゃないのかもしれない。
思い浮かばなかったんですが
少し調べたら、結構興味深い歴史があったんですね。
夢に出てくれたお陰で、そういう事を知る事が出来ました。
コメント有り難うです。