こうしたドラマを見ると、老舗ホテルというものが伝統と誇りに支えられてはいるものの、如何に見てくれだけの存在であるかを教えられた気がする。
”オモテナシ”という日本古来の文化がホテルの伝統を支えてる事自体は間違いないが、度が過ぎる接待も考えものではある。
少なくとも、今や”お客様は神様”ではないし、度の過ぎたサービスは余計以外の何物でもない。
そういう私も、営業時代にビジネスホテルはよく利用したが、ドラマに出てくる様な高級ホテルには泊まった記憶がない。
勿論、大枚を叩いてまで泊まろうという気も更々ないが、老舗ホテルを題材にしたドラマや映画は嫌いではない。だが、日本人が描くホテルのあり方は、安っぽい高級感や浅薄なブランド志向に偏りがちである。
その一方で、欧米が描くホテルは、どんな規模の大きいホテルでも、モーテルに毛の生えた様な低俗なレベルで、展開も殺人や強盗や悪質犯罪の溜り場に傾倒する。少なくとも、客の待遇の良し悪しで、支配人や管理人のあり方が問題になる事はない。
つまり、老舗の高級ホテルと言えど、所詮は寝泊まりするだけの空間に過ぎないのだ。
「HOTEL -NEXT DOOR-」(2022)
創業以来日本の高級ホテルの象徴ともいわれ、業界をリードしてきた老舗ホテル”プラトン”だが、競争激化に伴い、その経営は悪化し、凋落の危機にあった。
そのホテルを一銭でも高く売りつける為に派遣された男こそが”ホテル座の怪人”との異名を持つ三枝克明(ディーン・フジオカ)だった。彼は斬新で大胆な業務改善を次々と打ち出すが、従業員からは反発の声が上がり、プラトンは混乱と崩落の危機に苛まれる・・・
結果的には、転売屋の三枝が場所を変えた”プラトン”ホテルの総支配人になるという所に落ち着くが、ホテルという業界の限界と凋落を感じただけである。
更に言えば、プラトンというブランドに縋ったが故の老舗ホテルの老害を見てる様でもあった。
”NEXT DOOR”の意味は、従来のホテルのあり方では駄目だから”(扉を開け)一歩前へ進むべき”だというメッセージでもある。だが、悲しいかな老舗高級ホテルとても、その前にある将来は(扉を開けても)依然として暗いままだ。
ホテルとても、所詮は宿泊するだけの空間に過ぎない。一方で多く見積もっても、最上階で豪華な夕食をとり、ハウスキーパーが綺麗にメイキングしたベッドに寝るだけの時間と空間を楽しむだけのイベントと贅沢である。
故に、大げさに業務変革と言っても、出来る事はごく限られてくる。
事実このドラマでも、三枝が取り組んだのはコンコルジュの配置とレストランのあり方とハウスキーパーの教育の3つである。
つまり、ホテルで働いた経験のある人からすれば、変革というより単なる仕事改革のレベルではあるが、イケメンのフジオカが演じると、やけに大げさにも思えた。
このドラマが、そこそこの人気と妙な納得があったのは、稚弱に傾斜しがちな展開を6話で打ち切ったからだ。が、欲を言えば、第4話の陳腐な恋愛物語はなくてもよかったし、矢田亜希子の老いと衰えを感じただけである。
”恋人と女房は新しい方が良い”の典型だが、三枝が元恋人を打ち切ったのは正解だった。それにファンには怒られそうだが、彼女の登場は水を差しただけである。
一方で、”ホテルプラトンは家族の様なもの”だという、三枝の父親で初代総支配人のエゴ臭い大袈裟な思い入れも余計な自己満足にも思えた。それに、香港マフィアを蹴散らすシーンも現実にはありえないし、ホテル内での暴力は致命的だろう。
”可もなく不可もなく”というプラトンホテルの存在価値は、本質的には変わらない。所詮、老舗というものはそんなレベルのものだろう。
結局は、ディーン・フジオカあっての老舗ホテルプラトンだったのだ。
最後に
つまり、ホテルとても水商売やスケベパブや娼婦と同じく、客あっての商売である。言い換えれば、見てくれが全ての業界なのだろう。
”私の知るプラトン・マインド(誇り)は今ここにはない”と三枝は仕掛けるが、元々ホテルという無機質なコンクリートの建物には、魂や誇りなど最初から存在しない。仮に存在するとすれば、経営陣の野心や強欲であり、従業員らの不平や不満だけである。
少なくともブランドを背負い、誇りを持ち、自覚して仕事をしてる訳でもない。いや、ホテルマンとはそう思わないとやっていけないのであろう。
一方で、お客様の満足は、所詮はお客様の自己満足に過ぎないし、その自己満足の対価として、決して安くはない宿泊費をホテル側は払わせているに過ぎない。もっと言えば、お客の自己満足とホテル側のサービスの差分がホテル側の利益となる。
つまり、ホテル側の過剰なサービスや従業員らの自己満足は損失に過ぎないのだ。
こうして冷静にホテルという業種の本質を炙りだせば、ホテルというコンクリの塊にブランドを貼り付け、老舗と伝統を付加価値にし、高く売りつけるという魂胆が顕になる。
これこそが、ホテルの先に見える”NEXT DOOR”の本来の景色ではないだろうか。
だがドラマを見た限り、老舗プラトンを持ってしても、凋落するホテルの領域を出る事はなかった様に思えた。
ホテルを舞台にした映画では「グランドブタペストホテル」がとても印象深かったです。
ヨーロッパの伝統ある最高のホテルで起きた殺人事件で、こちらは伝説のコンコルジュが殺人事件の解明を追う展開ですが、軽いノリでコミカルでテンポも実にいい。
ホテルものは、こうしたコメディサスペンス系のほうがより楽しめますかね。
「バクダットカフェ」との比較になりますが、こちらは温かみのあるヒューマンドラマにファンタジーの趣が加わってました。
私はどっちかと言えば、後者が好きですかね。
一方で、映画通な人は「ブタベストホテル」にハマるんでしょうか。
でも、あまりに滑稽すぎてずっと笑いながら見てた様な気がします。
多分、欧米の人って、ホテルに対して求めるものが日本人とは大きく異なると思います。
つまり、欧米は盗みや殺人などの犯罪に対する安全安心を、日本ではオモテナシなどの親切と丁寧でしょうか。