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ガロアの最終論文(#1)〜3つの補題と単拡大定理

2024年03月17日 14時32分42秒 | エヴァリスト・ガロア

 前回の「プロローグ」では、群の基本と[補題1]について述べました。
 以下で述べる、残り3つの補題は第1論文の中核を成す「単拡大定理」に直接結びつくもので、方程式のガロア群の重要な基盤を成します。故に、ガロア群の地盤を固める様に時間を掛けて進んでいきます。


3つの補題と単拡大定理

 [補題2]では、”重根を持たない任意の方程式の根をa,b,c,…とすると、この時、可能な根の全ての置換により異なる値が与えられる根の式Vを作る事が出来る。例えば、V=Aa+Bb+Cc⋯、A,B,Cは適当な整数、の様な式を満たす”とした。
 これは、殆どの場合、仮にV=a+2b+3c…とすれば、あらゆる根の置換でVの値が変わるのは明白である。
 次に、第一論文で中核をなす[補題3]だが、”式Vを[補題2]の条件に合う様に作れば、与えられた方程式の全ての根はVの有理式で表せる。実際、V=φ(a,b,c,…)又はV−φ(a,b,c,…)=0として、最初の文字だけを固定し、その他の文字を並べ替えて、全ての式を掛け合わせると、(V−φ(a,b,c,d…))(V−φ(a,c,b,d…))(V−φ(a,b,d,c…))…を得る。
 この式は、b,c,d…についての対称式であり、その結果、aの式で表せ、F(V,a)=0を得る。
 この証明だが、この等式と与えられた方程式の共通根を探せば十分である。例えば、F(V,b)=0とすれば、φ(a,…)=φ(b,…)となり、仮定に反する。故に、共通根は1つのみとなり、結果、aはVの有理式で表せる。他の根についても同様だ。但し、この命題はアーベルの楕円関数に関する遺稿の中で証明なしで引用されている”
とガロアは簡潔に書いてる。
 つまり、ガロアが単拡大定理を単に”命題”として捉え、ラグランジュではなく、アーベルを強く意識してるのが判る。巷で言われてる様に、ガロア群はラグランジュの定理の完成形ではなく、ガロア独自で創設&完成した理論なのだ。

 この[補題3]は、後に「単拡大定理」として知られるが、ラグランジュが証明し、アーベルも証明なしで引用した。勿論、ガロアも証明する必要はなかったのだが、ラグランジュとは違う独自の証明を載せている。
 が、正直、わかり易いものではないし、この論文を審査したポアソンは”証明は不十分だが、ラグランジュによれば正しい”と伝え、一方でガロアは”それは人が判断する事だ”と書き送ったらしい。事実、ラグランジュの証明はaをVの有理式で表す式、つまりa=f(V)の式を求める手法で、忠実に計算すれば求まるが、かなり複雑だ。更に、[補題2]の様に直感的に理解できるレベルではないし、その難易度は一気に高くなる。
 そこで、ガロアによる独自の証明を(少し長くなるが)再現する。
 まず、[補題2]に従い、Vを定める。つまり、重根を持たないn次方程式f(x)=0の根をa,b,c,…とし、f(x)=0の係数体をKとし、VをKの元を係数としたa,b,c,…の1次式とする。但し、a,b,c,…のあらゆる置換でVの値が異なる様に係数を定める。
 次に、f(x)=0の両辺をn次の項で割り、f(x)=xⁿ+s₁xⁿ⁻¹+s₂xⁿ⁻²+s₃xⁿ⁻³+⋯=0とすると、n次方程式の解と係数の関係より、−s₁=a+b+c⋯―①、s₂=ab+ac+ad+⋯―②、−s₃=abc+abd+abe+⋯―③を得る。
 ここで、V=φ(a,b,c,…)とおき、[補題3]に従い、F=(V−φ(a,b,c,d…))(V−φ(a,c,b,d…))(V−φ(a,b,d,c…))…とすると、V−φ(a,b,c,…)=0の因数を含むので、F=0となる。また、Fはb,c,d…についての対称式であり、b,c,d…の基本対称式で表せる。
 一方で、①をb+c+d+⋯=−s₁−aと変形すれば、この式はb,c,d…についての1次の基本対称式を得る。これを②式に代入すれば、bc+bd+be+⋯=a²+s₁a+s₂とのb,c,d…についての2次の基本対称式を得て、更に、これを③に代入し、bcd+bce+bcf+⋯=−a³−s₁a²−s₂a−s₃とのb,c,d…にての3次の基本対称式を得る。
 以上より、b,c,d…の基本対称式はKの元を係数とするaの多項式で表す事が可能となる。当然だが、s₁,s₂,s₃,…はKに含まれる。
 これらをFに代入すれば、Fはaの多項式となり、その係数は、Kの元とVの和と積で表され、体の定義からK(V)の元となる。
 そこで、aの多項式を強調し、FをF(a)と表記する。つまり、F(a)=A₀aᵖ+A₁aᵖ⁻¹+A₂aᵖ⁻²+⋯、A₀,A₁,A₂,…∈K(V)として、aをxに変え、xの多項式と見ると、F(x)=A₀xᵖ+A₁xᵖ⁻¹+A₂xᵖ⁻²+⋯、A₀,A₁,A₂,…∈K(V)となり、F(a)=F=0よりaは方程式F(x)=0の根となる。
 一方で、Fにaとbを入れ替え、G=(V−φ(b,a,c,d…))(V−φ(b,c,a,d…))(V−φ(b,a,d,c…))…を作ると、Gはbを固定し、 a,b,c,…にあらゆる置換を施したものとなる。
 ここで、Vはあらゆる置換で値が異なるので、Gの中にあるφ(b,…)はどれ1つとしてVと等しくはない。これは、仮にV=a+2b+3c+⋯としてみれば明らかで、故に、G≠0となる。
 更に、上と同様に、Gの右辺を展開するとbの多項式となり、Gはa,c,d…の基本対称式で表せる。故に、bの係数はFの場合と同じになり、G(b)=A₀bᵖ+A₁bᵖ⁻¹+A₂bᵖ⁻²+⋯、A₀,A₁,A₂,…∈K(V)とでき、b→xとすれば、G(x)=A₀xᵖ+A₁xᵖ⁻¹+A₂xᵖ⁻²+⋯、A₀,A₁,A₂,…∈K(V)となり、F(x)=G(x)を得る。従って、これにbを代入すれば、F(b)=G(b)≠0を得る。
 これは、c,d,e,…についても同様である。つまり、aは方程式F(x)=0の根だが、b,c,d,…だとそうは行かない。結果(ガロアの主張する)”aはVの有理式で表せる”が言えた(証明終)。


単拡大定理の検証

 一旦ここで脇道に逸れ、方程式の具体例(x³+3x−2=0)を挙げ、ラグランジュの分解式(V=a+ωb+ω²c)を使い、以上の[補題3]が正しいかを検証する。但し、ω=(−1+√3i)/2は1の3乗根である。
 まず、公式を使い、3次方程式の根a,b,cを求めるが、根号が見づらいので、s=√(1+√2),t=√(1−√2)とおき、a=s+t,b=ωs+ω²t,c=ω²s+ωtとする。
 この時、(st)³=(1+√2)(1−√2)=−1となるが、stは実数より、st=−1。ここで(計算を楽にする為に)ラグランジュの分解式を使い、V=φ(a,b,c,…)=a+ωb+ω²cとおく。
 [補題1]に従い、Fの式を作り、F=(V−φ(a,b,c))(V−φ(a,c,b))=(V−(a+ωb+ω²c))(V−(a+ωc+ω²b)を展開し、aで整理すれば、ω²+ω+1=0となり、ωが消え、F(a)=a²−(2V+b+c)a+V²+(b+c)V+b²−bc+c²と、b,cの対称式を得る。
 ここで、x³+3x−2=0の解と係数の関係により、a+b+c=0,ab+bc+ca=3,abc=2となり、上の結果と合わせれば、F(a)=−3Va+V²−9―④を得て、F(x)=−3Vx+V²−9となる。
 そこで、F(a)=0となる事を確かめるが、ラグランジュの分解式から、V=a+ωb+ω²c=s+t+ω(ωs+ω²t)+ω²(ω²s+ωt)=(ω²+ω+1)+3t=3tを簡単に得る。これと、a=s+tをF(a)の式④に代入すれば(st=−1より)、F(a)=0が直ちに分かる。
 G=(V−φ(b,a,c))(V−φ(b,c,a))も同様にし、(a,cの対称式として)計算すると、G(x)=−3Vx+V²−9を得て、F(x)と全く同じ式になる。だが、V=3tとx=b=ωs+ω²tをG(b)の式に代入しても(当然ながら)0にはならない(検証終)。

 ここで、ガロアの証明に戻り、まずは、f(x)とF(x)の関係を考える。
 重根を持たないn次方程式f(x)=0の根はa,b,c,…だが、そのうちaだけがF(x)の根となる。つまり、x−aがf(x)とF(x)の最大公約式になる。[補題1]でガロアが述べた様に”最大公約式は有理的”である。
 詳しく言えば、f(x)の係数はKの要素なので、当然K(V)の要素でもある。そして、F(x)の要素もK(V)の要素である。故に、f(x)とF(x)の最大公約式がx−aという事は(前回「プロローグ」で述べた)多項式版”ユークリッドの互除法”の様に、K(V)の要素を係数とする多項式m(x),n(x)が存在し、m(x)f(x)+n(x)F(x)=x−aが成立する事を意味する。
 そこで、この式のxにVを代入すると、a=V−m(V)f(V)+n(V)F(V)とでき、a∈K(V)となる。同様にして、b,c,d,…∈K(V)となり、b,c,d,…もまたVの有理式で表される。
 これを先程の例で上げたf(x)=x³+3x−2=0とF(x)=−3Vx+V²−9で確かめると、この最大公約式がx−aという事は、F(x)が1次式よりF(a)=−3Va+V²−9=0を解くだけでいい事が判る。故に、a=(V²−9)/3Vとなり、aはVの有理式で表され、a∈K(V)となる。
 これでガロアの証明は終わったが、後述する様に、K(V)の元は全て(Vの分数式ではなく)多項式で表される。 以下(省略しようとも思ったが)、一応確認しておく。

 これには、”分母の有理化”を使い、分母のVを消す必要がある。つまり、分母がどんな多項式でも有理化は可能となり、その時に使う道具がVを根とする既約多項式で、Kの元を係数とする既約多項式である。
 これは、Kの元がもとの方程式f(x)の係数の加減乗除で表され、方程式の係数は根の基本対称式となる。故に、根の対称式はKの元となり、根で表された式にあらゆる置換を施し掛け合わされたものは根の対称式になるので、K上の式となる。以上より、Vを根とするK上の多項式は、x−Vに根のあらゆる置換を施したものを掛け合わせれば求まる。
 そこで、V=a+ωb+ω²cより、求める多項式は(a,b,cを全て入れ替えた)式であり、{x−(a+ωb+ω²c)}{x−(a+ωc+ω²b)}{x−(b+ωa+ω²c)}{x−(b+ωc+ω²a)}{x−(c+ωa+ω²b)}{x−(c+ωb+ω²a)}となる。
 方程式の係数は有理数なので、上の多項式の係数も有理数となる筈だ。ω²+ω+1=0と根a,b,cの対称式(a+b+c=0,ab+bc+ca=3,abc=2)を代入し、展開して整理すれば、a,b,cやωが消えて、x⁶−54x³−729を得る。
 この式を因数分解し、Vを根とする最小次数の既約多項式(体K上のVの最小多項式)を求めるべきだが、x⁶−54x³−729はK上で既約なので最小多項式となる。
 そこで、V⁶−54V³−729=0とし、V⁶−54V³=729から1/V=(V⁵−54V²)/729と変形。これをa=(V²−9)/3Vの1/Vに代入し、V⁶−54V³−729=0を利用し、巧みに分子の次数を下げ、a=(−V⁵+54V²+81)/243との多項式を得る。実際に、これにV=3tを代入すれば、aになる事が確認できる。
 故に、”K(V)の元は全て多項式で表される”事が言えた。

 長くなったので、今回はここで終了です。
 実は、ここまでダラダラと引用する必要も気もなかったんですが、ここで手を抜くと先へ進むのはかなり困難になります。
 更に、次回でも述べる[補題3]の強い主張でもある「単拡大定理」、つまり”体Kに色んな数を添加してもそれらの数を僅か1つの数で表せる”事を十分に理解する為に、敢えて詳しく紹介しました。 
 次回「#2」は、「単拡大定理」からガロア群の流れに迫ります。



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